日本大百科全書(ニッポニカ) 「ザ・バンド」の意味・わかりやすい解説
ザ・バンド
ざばんど
The Band
アメリカのロック・グループ。アーカンソー州出身で、当時はカナダで活動していたロカビリー・シンガー、ロニー・ホーキンズRonnie Hawkins(1935―2022)のバック・バンドに、レボン・ヘルムLavon Helm(1942―2012、ボーカル、ドラム、マンドリン)、ロビー・ロバートソンRobbie Robertson(1943―2023、ギター)、リチャード・マニュエルRichard Manuel(1943―1986、ボーカル、ピアノ、ドラム)、リック・ダンコRick Danko(1943―1999、ボーカル、ベース)、ガース・ハドソンGarth Hudson(1937― 、キーボード、サックス)の5人が集まり、やがてホーキンズのもとから独立する。そして数枚のシングルを発表した後、ボブ・ディランのバック・バンドとなり、1966年のエレクトリック・ツアーに参加する。同年、ディランがオートバイ事故後ニューヨーク郊外ウッドストックで隠遁(いんとん)生活を始めると、彼らも行動をともにし、デビュー・アルバム『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』を1968年に発表、「ザ・バンド」を名のる。デビューした時点ですでに、ザ・バンドは10年間ロックン・ロールを演奏してきたベテランであった。アルバムの、アメリカ音楽を包括した視野の広さと歌と演奏の味わいは絶賛され、数多くの追従者を生む。
次作『ザ・バンド』(1969)の、アメリカ南部の風土に根ざした統一されたコンセプトと演奏によってトップ・グループになると同時に、ミュージシャンシップを買われ、数多くのセッションをこなしながら、年1作のペースで質の高いアルバムづくりをする。1974年のディランとのツアーはセンセーションをよび、また『南十字星』(1975)は洗練された完成度の高い作品であったが、1976年の感謝祭の日、「ラスト・ワルツ」というライブ・アルバムにもなったコンサートを最後に解散。その後メンバーの数人はソロ活動に入り、ロバートソン、ヘルムは俳優としても活躍した。
1983年、ロバートソンを除いたメンバーに数人のミュージシャンを加え、再編成ツアーが行われたが、第2期ザ・バンドは、1986年のマニュエルの自殺というショッキングな幕切れを迎えた。同年、ロバートソンは、ピーター・ゲイブリエルPeter Gabriel(1950― )らの協力を得てソロ活動を開始。その後ネイティブ・アメリカンの音楽に深い関心を寄せ、『コンタクト・フロム・ジ・アンダーワールド・オブ・レッドボーイ』(1998)などのユニークな作品をリリースしている。1990年代初頭には第3期ザ・バンドが結成され、ヘルムを中心に1993年に『ジェリコ』をリリースし、ツアーも持続的に行う。2枚のアルバムを発表したのち、ダンコの死去を機にザ・バンドとしての活動は休止。その後、ヘルムは地元ウッドストックでブルース・バンドを率い、ハドソンもソロ活動に力を入れた。
[中山義雄]