議会の解散,法人の解散,集会の解散など種々の意味に使われる。
衆議院議員の任期満了前に議員全員の身分を同時に失わせることをいう。したがって解散は,なによりも総選挙の時期を早めて民意を敏感に衆議院に反映させ,内閣を期限つきで総辞職させる(解散の日から40日以内に総選挙を行い,選挙の日から30日以内に特別国会の召集があると,内閣は総辞職する)効果をもつ。解散は衆議院についてだけ認められる。参議院は内閣を作り倒すのではなく,批判する立場にあり,とりわけ衆議院解散中に生ずる緊急事態に国会の補充機能を果たす必要がある(衆議院が解散されると参議院は同時に閉会となるが,内閣は緊急の必要があるときは参議院の緊急集会を求めることができる)。
議会の解散制は,19世紀前半のイギリスで,内閣が議会に対して政治責任を負い,下院の内閣不信任決議権に服する反面,君主に対議会抑制手段として解散権を与えることによって立法・行政両権の均衡を図る政治慣行として定着した。ところが,世紀後半以降,君主の権力が名目化し,内閣が実質上行政権を掌握する一方,政党制や普通選挙制が発達するに伴って,内閣は議会の多数派の強固な支持を背景にしながら,なによりも政治的主権者(国民)に対して統合的な政治責任を負う現代型議会制に進化し,解散権は議会に対する君主の対抗手段から選挙人に対する提訴へと性格を変えるに至った。これに対して,フランスでは,議会の解散は伝統的に国民代表議会の民主的権力に敵対・挑戦する行為とみなされ,議会制が開花した第三共和政以後も大統領の解散権の行使を制限する傾向があり,それはイタリアやドイツなどにもみられる。日本の明治憲法は議会の解散について規定していたが,それは天皇や内閣の意思に衆議院を従属させるものであった。これに対して,日本国憲法は,国会と内閣の間の均衡を確保することに加え,国会に責任を負う内閣が直接民意に訴えその判定にまつ手段として,解散制度に民主的性格を与えている。
衆議院の解散は天皇が内閣の助言と承認によって行うが,憲法は解散権行使の主体や要件について明確な規定を欠いており,新憲法下,第1回解散(吉田茂内閣,1948.12.23)と第2回解散(同,1952.8.28。当時〈抜打ち解散〉と呼ばれた)をめぐって憲法論争が展開された。学説は分かれているが,多数説によれば,解散権は7条3号により天皇にあるが,天皇は国政に関する権能をもたないから,天皇の解散権は形式的な宣布権にとどまり,実質的決定権は助言と承認を行う内閣にある。その場合,内閣は衆議院が民意を代表することが疑わしいと考える場合は,7条に基づきいつでも自由に解散することができる。通常は,内閣と衆議院が対立して衆議院が内閣不信任の決議案を可決しまたは信任の決議案を否決した場合(69条)であるが,解散はこれに限られない。69条は不信任などされた場合における内閣の進退を定めた規定にすぎない。そして,69条による解散の場合も7条に基づいて行われる,と解する。これに対して,解散決定権は69条によって内閣に属し,その行使も69条の場合に限られるとする説や,国会は国権の最高機関であるから,衆議院の決議による自律解散を認める説が対立している。従来の運用では,第1回解散は69条説の立場から内閣不信任決議案の可決をまって行われたが(解散証書は69条および7条による),第2回解散が7条により不信任の決議なく行われて以来,69条の場合に限られないとする慣行が確立し(1953年3月14日の第3回解散(吉田茂内閣)は不信任決議案の可決をまって行われたが,解散証書は7条による),総じて現代イギリス型にならっている。
ところで,現代のイギリスでは,選挙での公約以外に重大な政治問題に当面した場合などには解散が要求され,解散後の総選挙は一種の国民投票的意味をもつといわれ,また解散自体ある程度の節度が守られ,濫用に堕しない保障があるといわれる。それは,選挙制度や政党のあり方,二大政党制が媒介する政権交代の経験と現実的可能性にも関係する。この点,日本の場合,解散権の行使はときに恣意に流れて真に国民の最高意思と直結していない場合があり,節度ある慣行の確立と濫用の抑制が求められる。立法・行政両府の対立,国政の麻痺のほか,総選挙の際に予想されなかった新しい重大な政治問題に直面したり,重大な政策の変更を行うような場合などには,〈国民のために〉解散を厳正に実行することが義務づけられているものと解される。その反面,解散の決定がまったく政府の任意にゆだねられているとも解されず,政略的・懲罰的解散や同一原因による2度の解散などは権限濫用として抑制されるべきであり,いわゆる議院内閣制の建前から無条件に自由な解散権を引き出すことも許されないであろう。しかし,具体的な場合に,解散権の濫用があったかどうかは司法部の判断にまつべきであるが,それは高度に政治性をもつ国家行為として国民の審判にゆだねられるべき統治行為であって,裁判所の審査になじまない,とするのが最高裁判所の見解である(苫米地訴訟,1960)。
次の三つの場合がある。(1)選挙権者総数の1/3以上の連署で解散請求があったとき,解散投票に付され,その過半数の同意があったとき,議会は解散する(地方自治法76~79条)。なお,国会にはこの解散請求権制度はない。(2)〈地方公共団体の議会の解散に関する特例法〉(1965公布)による場合,自律解散の議決をすることができる。(3)地方議会が当該地方公共団体の長の不信任の議決をしたとき,長は議決の通知を受けた日から10日以内に議会を解散することができる(地方自治法178条)。
→国会 →地方議会
執筆者:高野 真澄
法人には,自然人と違って死亡という現象はおこらないが,法人が,目的とする事業に成功してなすべき仕事が残っていないとか,あらかじめ定めていた存立期間が満了したとか,財産状態が悪化したことその他もはや法人としての活動が不可能になったり,公益上,法人としての存立を許すべきでないと認められるような状態になったときには,法人は法人たることに終止符を打たなければならない。法人がその目的たる事業を停止し,その法人が消滅することが確定的となることを,解散という。解散に続いて法律関係の後始末をするための手続を清算という。法人は解散によってただちに消滅するのではなく,清算手続の終了によって消滅することになる。
どのような場合に解散するか,すなわち解散事由は法人の種類によって異なり,それぞれの法人を規制する法律によって定められている。株式会社を例にとってみよう。株式会社の解散事由には,(1)会社存立期間の満了等,(2)会社の合併,(3)会社の破産,(4)解散を命ずる裁判,(5)株主総会の特別決議,がある(商法404条)。ほかに長期間登記に変動のない会社(休眠会社)も解散したものとみなされる(406条ノ3)。株主が1人となったことは解散事由にならないと解されており,この点は合名会社,合資会社,有限会社と異なっている。上述の解散事由中,(1)(2)(5)は広い意味で株主の意思にもとづくのに対し,(3)は会社債権者の利益を考慮したものである。(2)では解散会社は清算手続なしにただちに消滅する。(4)の解散を命ずる裁判には,解散命令と解散判決がある。解散命令(58条)は,法務大臣,株主,債権者等の請求により,公益上会社の存立を許すべきでないと認められるとき,裁判所が命ずるもので,会社設立が不法目的の場合,正当事由のない開業遅延・営業休止の場合,法務大臣の警告にもかかわらず業務執行者が違法行為等を継続・反復した場合などが該当する。会社設立に関する準則主義や会社業務に対する不干渉主義に伴う弊害を是正するために設けられた制度であるが,実際上はほとんど活用されていない。解散判決(406条ノ2)は,会社の運営がゆきづまったときや会社財産の管理・処分が著しく失当で会社の存立が危ういなどでやむをえないとき,裁判所の判決によって会社を解散させるもので,少数株主(発行済株式総数の1/10以上所有する株主)に請求権が認められる。
執筆者:田村 諄之輔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
議会の構成員たる全議員の資格を、任期満了前に、同時に失わせる行為をいう。解散権は行政府によって行使されるが、解散に引き続いて実施される総選挙によって有権者の意思を問うことを目的とするため、公選議員からなる下院について認められるのが通例である。
解散は、イギリスにおける議会制の発展の過程で生まれた制度であるが、近代的議会制の成立以前は、国王特権の一部として、その意思に反する議会に対して懲罰的に行使された。19世紀以降、議院内閣制が成立し、解散は、議会意思が有権者の意思を正しく反映していないと考えられる場合、内閣によって行われるようになった。解散事由について憲法的制限はないが、内閣不信任案の可決、内閣と議会との重要政策についての対立、新しい重要政策の実施について有権者の意思を問う必要がある場合などに行われる。解散は、議会と内閣の抑制・均衡を目的とする制度であるため、厳格な権力分立制を採用し、両府の独立制を尊重するアメリカ型大統領制では認められない。
日本では、明治憲法下で天皇による広範な解散権が認められていたが、現憲法では国民主権を基として議院内閣制を採用し、衆議院についてのみ解散を認めるが、解散権は実質的に内閣にある。解散の憲法上の根拠については学説が分かれる。その一つは、憲法第69条により、衆議院が内閣不信任案を可決、または信任案を否決した場合にのみ認められるとする。その二は、憲法第69条の場合に限らず、内閣に広く解散権を認めるが、その憲法上の根拠は、さらに、(1)天皇の国事行為として衆議院の解散を定める憲法第7条3項による、(2)憲法第65条の行政権に含まれる、(3)イギリス型議院内閣制を採用しているため明文の規定がなくとも内閣は解散権を行使しうる、の3説に分かれる。憲法第7条3項に解散の憲法上の根拠を求めるのがもっとも有力な学説であり、慣例もこれによっている。ただし天皇の国事行為は内閣の助言と承認を必要とするもので、実質的権限は内閣にある。院の決議による解散は認められない。
解散事由については憲法上の制限はなく、不信任案の可決、信任案の否決のほか、国会と内閣との重要政策についての対立、前回総選挙で争点とならなかった重要な国政上の問題が発生して民意を問う必要がある場合などが考えられるが、かならずしも以上の場合に限られない。
解散の効果として、衆議院議員は全員その身分を失うが、解散の日から40日以内に衆議院の総選挙を行い、その選挙の日から30日以内に国会を召集しなければならない。この国会において内閣は総辞職し、国会は新しく内閣総理大臣を指名する。
地方公共団体の議会についても解散の制度がある。その手続には3種類がある。その一は、住民の請求(有権者の3分の1以上)によって一般投票が行われ過半数の同意があった場合、その二は、議会が長に対して不信任決議を行った場合、または不信任とみなされる議決を行った場合の長による解散、その三は、議員の4分の3以上の出席のもとに5分の4以上の同意により解散の議決をした場合である。
[山野一美]
株式会社の法人格の消滅をきたすべき原因である法律事実。その解散事由として、会社法は、(1)定款が定めた存続期間の満了(471条1号)、(2)定款の定めた解散の事由の発生(471条2号)、(3)株主総会の決議(471条3号)、(4)会社の合併(吸収合併においては存続会社以外の会社、新設合併においては当事会社すべて。471条4号)、(5)破産手続開始の決定(471条5号)、(6)会社の解散を命ずる裁判(471条6号)をあげている。(1)(2)(3)は、2週間以内に登記が必要である(926条)。また、(7)最後の登記後12年を経過した会社(休眠会社)が、2か月以内に本店所在地を管轄する登記所にいまだ営業を廃止していない旨の届出をなすべき旨を法務大臣が官報に公告した場合に、この2か月の満了のときに、解散をしたものとみなされる(472条。ただし、当該期間内に当該休眠会社に関する登記がなされたときは、解散したものとはみなされない)。前述の解散を命ずる裁判には、解散命令と解散判決の二つの場合がある。前者は、公益を確保するために会社の存立を許すことができないと認めるときに、法務大臣または株主・債権者その他の利害関係人の申立てにより、裁判所が行う会社を解散させる命令である(824条1項、904条)。後者は、会社が業務の執行において著しく困難な状況に至り、会社に回復することができない損害を生じさせるとき、または会社財産の管理処分が著しく失当で、会社存立を危うくするときに、少数株主の請求により、裁判所がなす判決である(833条)。
[戸田修三・福原紀彦]
『高野総合会計事務所編『ケース別会社解散・清算の税務と会計』(2007・税務研究会出版局)』
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…このような一元主義型の議院内閣制は,1832年の第1次選挙法改正以後確立していくが,そこでは議院内閣制は,二権の均衡と抑制という要素を本質にするのではなく,民意を基礎とする議会が行政権の担い手である内閣をつくりだし,それをコントロールするという,議会優位の原則によって説明されるにふさわしいものとなる。議院内閣制において重要な意味をもつ解散権の意味も変化をとげる。解散権の実質上の主体は,君主ではなく内閣,とりわけ首相となり,その機能も議会に対する君主の武器ではなく,選挙民の意思表示による裁決を首相のイニシアティブによって求めるという意味のものとなってくる。…
…イギリスについていうならば,1832年の第1次選挙法改正による選挙権者の拡大以後,議会が〈法的主権〉をもつのに対し,〈政治的主権〉が選挙民の手中にうつっていく段階が,議会制民主主義の成立を意味する。その際,イギリスでは,二大政党制の伝統とむすびついて,下院選挙のときの〈選挙による委任〉が,政権担当政党のプログラムを選挙民の選択によって実質的に拘束する効果までが生じ,とくに首相による下院解散権の行使が,選挙民による裁決を促すものとして作用した。それにひきかえフランスでは,多党分立のため,また解散権不行使の慣行が第三共和政期に定着したこともあって,選挙民意思の反映は,選挙民と議会の関係までにとどまり,政権の所在とそのプログラムを実質的に拘束するところまではいかなかった。…
※「解散」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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