日本大百科全書(ニッポニカ) 「ザーパドニキ」の意味・わかりやすい解説
ザーパドニキ
ざーぱどにき
Западники/Zapadniki
19世紀ロシアの思想家集団。西欧派と訳される。彼らは1840年代から50年代にかけて、スラボフィル(スラブ派)に対抗して、ロシアもまた西ヨーロッパと同じ道をたどって発展すべきであり、そのためには速やかな農奴制の廃止と、なんらかの形での専制政治の制限を主張した。彼らの多くは地主貴族の出身で、官職につくこともなしに、文学やジャーナリズムの分野で活躍した。スラボフィルがピョートル1世(大帝)の改革を否定し、それ以前の西欧文明に汚染されなかったロシア社会を理想化し、さらにギリシア正教の優越性を主張したのに対し、ザーパドニキは、ロシアにおいては個人が国家や共同体や家族といったものによって併呑(へいどん)され、真に独立した個人がないゆえに、西ヨーロッパで確立した個人の自由の原理をロシア社会にも導入することが必要だと主張した。また、ギリシア正教は専制政治と癒着して堕落してしまったとスラボフィルを批判した。ザーパドニキを代表する論客としては、ゲルツェン、オガリョフ、ベリンスキーらの革命的民主主義者や、穏健で自由主義的なツルゲーネフ、グラノフスキー、カベーリン、チチェーリンなどがおり、『祖国雑記』や『現代人』誌に拠(よ)って自分たちの主張を展開した。
[外川継男]
『ゼンコフスキー著、高野雅之訳『ロシア思想家とヨーロッパ』(1973・現代思潮社)』▽『ヴァリツキ著、今井義夫訳『ロシア社会思想とスラヴ主義』(1979・未来社)』