日本大百科全書(ニッポニカ) 「シビレエイ」の意味・わかりやすい解説
シビレエイ
しびれえい / 痺鱝
軟骨魚綱シビレエイ目の科や属の総称、またはその1種の名称。シビレエイ目(英名electric rays)は、目の後方、胸びれの基部付近に、筋肉細胞が変化して生じた小さな発電細胞が蜂(はち)の巣状に密集し、1対(つい)の大きな発電器官を形成しているのが特徴で、デンキエイともよばれる。発電器官の起電力は50~60ボルトといわれる。腹側から背中側に向かって放電されるため、背中を触るとかなり強い電気衝撃を受けるが、尾などではそれほど大きな電気刺激は受けない。発電器官から瞬間的に放電し、餌(えさ)となる小魚や小動物をとらえたり、ほかの動物からの攻撃を避けたりする。デンキウナギなどの発電魚は、つねに弱い電流を放電して、周囲の状況をレーダーのように探るといわれるが、シビレエイ目ではこのような利用法は不明である。古代ローマの医者はシビレエイの放電を利用して、痛風や頭痛のときに治療をしたという。
シビレエイ目には4科が認められるが、背びれの数で2グループに分けられる。シビレエイ科Narkidae(英名sleeper rays)は背びれが1基で、ほかの3科Hypnidae、タイワンシビレエイ科Narcinidae、ヤマトシビレエイ科Torpedinidaeには背びれが2基ある。このうち、日本近海にはシビレエイ科、タイワンシビレエイ科、ヤマトシビレエイ科の3科が分布する。また日本近海のシビレエイ科には、シビレエイ属NarkeのシビレエイN. japonicaとハクテンシビレエイN. dipterygiaの2種が知られている。
種としてのシビレエイ(英名Japanese sleeper ray)は、水深50~155メートルでよく漁獲され、全長37センチメートルになる。生殖方法は非胎盤型の胎生で、春に1~9尾の子を産む。南日本から東シナ海、南シナ海に分布する。産業的な利用価値はほとんどない。国際自然保護連合(IUCN)のレッド・リストでは、絶滅危惧(きぐ)種中の「危急」(VU)に指定されている(2021年8月時点)。
[仲谷一宏 2021年9月17日]