筋肉または神経に由来する発電器で連続的または一時的に発電し、これでほかの動物を感電させたり動静を探ったりする魚類。発電魚ともいう。筋肉や神経が作用するとき発電するが、発電器では細胞の配列や同時的な発電によって、発電能力が著しく高まるようになっている。すでに数億年前に出現した化石魚オステオストラキーOsteostraci(Cephalaspidiformes)は、頭に3~5個の発電器をもっていたと考えられている。現存する魚類では、分類上6目10科に属する種に発電器が認められている。
もっとも強い電気を出す魚として、アマゾン川やオリノコ川に生息するデンキウナギ目のデンキウナギElectrophorus electricusが有名である。この魚が小形の餌(えさ)となる魚を感電死させるときの起電力は500~600ボルトである。電流の強さが0.5~0.7アンペアであるため、大形の動物を感電死させることはないが、身体のしびれのためにおぼれて死ぬこともある。発電器は左右対(つい)となり、胴や尾部の大半を占めている。
熱帯アフリカのナマズ目のデンキナマズMalapterurus electricusは、外敵にあうと瞬間的に300~450ボルトの電気を出し、感電した動物をショック死させることがある。また、シビレエイ類(シビレエイ目)は50~60ボルト、大西洋のミシマオコゼ科のアストロスコプスAstroscopus(スズキ目)は約50ボルトの電気で餌の小魚などを殺したり、侵入者や外敵を驚かしたりする。
また、電圧は弱いが、永続的に発電して周囲を監視し、交信するものにガンギエイ科の仲間、モルミルス科のモルミルスMormyrusやグナソネムスGnathonemus、ギムナルクス科のギムナルクスGymnarchusなどがある。これらは多くが夜行性で視覚が退化し、1尾ずつ離れた縄張り(テリトリー)をつくる。ガンギエイでは尾の両側にある細い発電器が、成熟するころからよく発達し、7、8ボルトの電気を出す。モルミルスは尾部に2列に並ぶ発電器から9~16ボルト、ギムナルクスは体の後半部にある発電器から4~7ボルトの電気を出す。デンキウナギには強い電気と別に弱い放電をする発電器がある。
弱い発電器をもった魚は、周囲におきた電場の変化を敏速に感じる特別な受電器(電気受容器)が発達している。受電器はヤツメウナギ類、軟骨魚類(サメ・エイ類)、軟質類(チョウザメ類)、肉鰭(にくき)類(肺魚、シーラカンス)など比較的原始的な脊椎(せきつい)動物に備わり、なくなる方向にあったが、いくつかの真骨類のモルミルス科、ギムナルクス科、ナマズ科、ギムノータス科のなかの魚類で独自にふたたび進化したといわれている。この器官は皮膚の下にあり、孔器またはそれに似た構造をし、側線神経の支配を受けている。ナマズやゴンズイでは体表面に広く分布するが、とくに頭部背面や吻端(ふんたん)に多い。受電器によって体の位置を定めたり、摂餌(せつじ)したりすることができる。サメ・エイ類の頭部下面にある無数のロレンチーニ器官には、優れた受電能力があり、これで獲物の呼吸運動や心拍によって生じる微弱な生物電気を探知して捕食することができる。
[落合 明・尼岡邦夫]
発電魚ともいう。筋肉が変化してできた発電器官をもつ魚の総称で,南アメリカ産のデンキウナギ,アフリカ産のデンキナマズ,海産のシビレエイなどが有名。発電器官は,筋細胞に由来する多数の扁平な発電単位,すなわち電気板が規則的に配列,接続したもので,神経の指令によって短時間の一斉放電を起こす。電気板の数や並び方は魚種によって異なっている。
シビレエイ科Torpedinidae(英名electric ray)では,胸びれの基部に1000個以上の電気板が硬貨を積み上げたように重なって電気柱をつくり,その数約2000に及ぶ。各柱は多数の電池を並列につないだのと同じようにつながり,容量が大きくなるため,電気抵抗の低い海水中で電流を流すのに適する。放電電圧は50~60V。昔,シビレエイNarke japonicaは痛風のショック療法に使われたという。天然では,海底の泥に潜み,餌動物が近づくと不意打ちして押さえ込み,同時に電気ショックで麻痺させる。デンキウナギElectrophorus electricus(英名electric eel)では6000~1万個の電気板からなる電気柱が,体軸の方向に左右60ずつ並ぶ。この発電器官は,容積が魚体の4割を占め,生物界ではもっとも強い500~800Vの起電力を有する。1回の放電は1000分の数秒間続き,短い間隔で数回繰り返される。デンキナマズMalapterurus electricus(英名electric catfish)では皮膚と筋肉との間に層状をなす発電器官があり,最高400Vの電撃を発生することができる。これらの強力な放電によって,付近の水中にいる魚や動物は麻痺したり死んだりするが,ふしぎなことに電気魚自身は感電麻痺から免れている。
一方,ガンギエイの類は尾部に小規模の発電組織を有し,これから出る数Vの放電を使って仲間や異性に合図するらしい。とくに,アフリカの濁った淡水にすむモルミルスmormyrusやジムナルクスgymnarchusは,微弱な電気パルスを毎秒50~1500回の安定した頻度で発生させて周囲に電場をつくっている。他の物体が近づいて電場を乱すと,側線器官から分化した電気感覚器によって直ちにそれを検知する。類似の機能を示唆する弱い放電が,強電魚についても知られている。
→発電器官
執筆者:羽生 功
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