日本大百科全書(ニッポニカ) 「シリコン整流器」の意味・わかりやすい解説
シリコン整流器
しりこんせいりゅうき
silicon rectifier
シリコン(ケイ素)半導体を使ってつくったダイオードのなかで、電力用に使うことを目的に設計されたものをいう。歴史的にはセレン整流器が多く使われていたが、シリコン整流器は逆方向耐圧が高く、接合温度150℃まで安定に動作するうえに安くできるなどの特長があるので、ほとんどこれにとってかわってしまった。また、ゲルマニウム整流器に比べて低電圧での整流効率は悪いが、耐圧、温度特性が優れているので、特殊な電源装置以外にはやはりシリコン整流器が用いられている。
シリコン整流器は、接合をもつシリコン単結晶薄片(ペレット)を気密容器の中に入れたものである。小電力用のものでは、ペレットをモリブデンやタングステンなどの金属電極にはんだ付けし、ガラスや樹脂で密封するが、大電力用のものでは、銅円板の上に密着してセラミックケースなどで気密封止する。大電力用ではペレットの面積も大きくなるので、シリコンと銅との熱膨張係数の差によるひずみでペレットが破壊されるのを防ぐため、熱膨張係数の小さいモリブデンやタングステン板を両面に張り付けたペレットを使う。整流作用は、ペレットの中につくられるpnまたはpin接合によって行われるが、数千ボルトの逆電圧が加えられたとき、これら接合の表面には強い電界がかかる。このため、表面をシリコンゴム、ガラスなどの表面安定剤で覆い、真空または乾燥窒素を満たしたケースに密封して表面での短絡を防いでいる。整流接合をつくるには、高抵抗率のp形シリコンウェハーの片側に金アンチモン合金を、ほかの側に純アルミニウムを重ね、加熱してシリコンの一部を溶解する合金法や、高温で不純物をペレットにしみ込ませる拡散法を用いる。シリコン整流器には、定格電流1~5000アンペア、定格電圧600~5000ボルトのものがあり、その用途は、ステレオやテレビ受像機用直流電源から鉄道用直流電源装置までときわめて広い。21世紀に入ってからは、耐電圧が高い炭化シリコン(炭化ケイ素SiC)がシリコンにかわる高電圧大電力用として検討されている。
[右高正俊]