日本大百科全書(ニッポニカ) 「スタルク」の意味・わかりやすい解説
スタルク
すたるく
Philippe Starck
(1949― )
フランスのデザイナー。パリ生まれ。1968年、パリのカモンド美術工芸学校を卒業後、ピエール・カルダン社に入社し、アート・デザイナーを務める。その後独立し、77年、UBIK社を設立。79年、アメリカでスタルク・プロダクト社を設立。80年から2年間、世界放浪の旅を行う。82年、エリゼ宮殿の大統領室の内装を手がけたことで、一躍注目を浴びる。
スタルクは、家具のシリーズ、歯ブラシ、耳かき、時計、食器、ファッション、電化製品、オートバイ、自動車、内装、建築など、驚くべきほど多様な分野においてデザインを展開する。そして機能性を強調するのではなく、遊びのあるデザインにより、1980年代のポスト・モダン社会において圧倒的に受け入れられた。特に彼は、エイリアンのようなレモン絞り器ジューシーサリフ(1991)や、牛の顔のようなチーズおろし器ミスターメウメウ(1992)など、何かを連想させるような曲線的な造形を得意とする。
80年代後半から、東京のレストラン「マニン」(1986)やニューヨークのロイヤルトン・ホテル(1988)など、インテリアも多く手がけるようになる。バブル経済期の日本では、建築作品を東京で実現させた。黄金の炎をモチーフとした屋上のオブジェが印象的なアサヒスーパードライホール(1989)や、全体が緑色の怪獣のようなナニナニビル(1990)である。また東京の第二国立劇場のコンペ(1986)では、ジャン・ヌーベルとの共同制作により、黒い鯨を思わせる彫刻的な建築を提案した。スタルクの建築は、オブジェがそのまま巨大化したかのような造形であり、のっぺりとしたスケール感のないデザインを特徴とする。
90年代前半のスタルクはローデザインを主張し、スタイリッシュなデザインを強調しない方向性を打ちだす。そして90年代後半からは、「ノーデザイン」を唱えている。これは、柄(え)が自由に動く眼鏡のスタルク・アイズ(1996)など、流行に左右されず、使用者を特定しない、誰にでも合うデザインを意味する。また環境問題にも配慮し、環境破壊に対し「ノー」という意味ももたせている。
スタルクのデザインした、顔のある蠅たたきのドクター・スカッド(1998)やカラフルな椅子のToy(1999)など、愛嬌のあるデザインは一度見たら忘れられないインパクトをもつ。手がけた文具などは、コンビニエンス・ストアでも販売されており、大衆的な路線を切り開いている。主なインテリアに、パラマウント・ホテル(1990、ニューヨーク)、香港ペニンシュラ・ホテルのレストラン・フェリックス(1994)、自邸(1994)、ホテル・モンドリアン(1996、ロサンゼルス)など。主な椅子の作品にドクターグローブ(1990)、ルイ20世(1992)、ドクターノオ(1996)、ミスC.O.C.O.(1998)、スリック・スリック(1998)など。そのほか歯ブラシのドクターキッス(1989)、照明器具のロメオ・ムーン(1995)、携帯電話のフック(1996)、服飾関係ではスタルク・ネイキッド(1997)、ポリティカル・Tシャツ(1997)などがある。
[五十嵐太郎]
『Philippe Starck ed.International Design Yearbook 1997 (1997, Abbeville Press, New York)』▽『Olivier BoissièrePhilippe Starck (1991, Taschen, Köln)』▽『Franco BertoniThe Architecture of Philippe Starck (1994, Academy Editions, London)』