フック(読み)ふっく(英語表記)Sidney Hook

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フック」の意味・わかりやすい解説

フック(Robert Hooke)
ふっく
Robert Hooke
(1635―1703)

イギリスの物理学者。ワイト島のフレッシュウォーターに牧師の子として生まれる。1648年父を失い、100ポンドの遺産を頼りにロンドンのウェストミンスター校に入学、ユークリッド幾何学に興味をもった。しかし学費に困って1653年にオックスフォードの給費生になり、1655年王立協会の前身オックスフォード・グループに参加、ボイル助手になった。1663年協会創立と同時に会員に選ばれ、その実験主任に任命された。1665年グレシャム・カレッジ幾何学教授。1666年のロンドン大火では市の再建計画にあたり監督官兼建築家として活躍。また1677年から1683年まで王立協会の書記として協会の発展に貢献した。

 王立協会の信条であった「実験と証明」にはフックの陰の協力があったとされるほど、優れた実験技術をもち、広範な分野にわたって先駆的業績をあげた。1658年ゲーリケの空気ポンプの改良をボイルと行い、気圧に関するさまざまな実験から、音の伝播(でんぱ)や物の燃焼、動物の呼吸に空気が必要なことなどを明らかにした。1665年著名な『ミクログラフィア』Micrographiaを出版、反フロギストン説萌芽(ほうが)ともいうべき燃焼理論や熱の運動論的考え、薄膜による光の干渉実験など物理的諸現象の考察を展開した。また自らの手で改良した照明付き顕微鏡による植物の細胞など詳細なスケッチを記載し、この分野の発展に大きな刺激を与えた。1672年ニュートンが「光と色の新理論」を発表したのを契機に、光の分散・干渉理論でニュートンと激しい論争を展開した。1674年には惑星の運動に関する逆二乗則を唱え、のちにニュートンと万有引力について先取権を争った。1678年にはばねがフックの法則に従うことを明らかにした。実用的な複レンズ式顕微鏡をはじめ、気圧計、ねじ式四分儀など多数の実験器具を考案。天文学をはじめ気象、海洋の分野でも優れた研究を残した。

[高橋智子]


フック(Sidney Hook)
ふっく
Sidney Hook
(1902―1989)

アメリカ哲学者コロンビア大学でデューイの教えを受け、大きく影響された。1930年代にマルクス主義に接近し、『カール・マルクスの理解をめざして』(1933)や『ヘーゲルからマルクスへ』(1935)などを書いたが、1937年のトロツキー事件などをきっかけにマルクス主義から遠ざかり、論理的経験主義の立場から活動を続けた。以下の論文集はいずれも彼の編集によるものである。『ジョン・デューイ――科学と自由の哲学者』(1950)、『現代科学の時代における決定論と自由』(1958)、『哲学と歴史』(1963)。

[魚津郁夫 2015年10月20日]

『小野八十吉訳『ヘーゲルからマルクスへ――カール・マルクスの精神的成長にかんする研究』(1983・御茶の水書房)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フック」の意味・わかりやすい解説

フック
Hooke, Robert

[生]1635.7.18. ワイト島,フレッシュウォーター
[没]1703.3.3. ロンドン
イギリスの自然哲学者,物理学者。優れた発想と実験の才能をもち,その活動は広範・多彩であった。オックスフォード大学に学び,ロイヤル・ソサエティの実験主任 (1662) ,同会員 (1663) ,同書記 (1677~82) として当時のロイヤル・ソサエティの実験哲学の推進に尽力。グレシャム・カレッジ幾何学教授 (1665) 。 R.ボイルの助手時代 (1655) ,ボイルとともに真空ポンプの改良に着手し,それを用いて空気の諸性質の研究,とりわけ大気圧の高度による変化を明らかにした意義は大きい。また,1660年には弾性体の伸びに関するフックの法則を定式化,その知見をもとにぜんまい時計を考案。また顕微鏡の取り扱いに優れ,植物について細胞の存在を発見した。振り子の運動を利用して重力を測定できること,地球-月の共通重心が太陽のまわりの楕円軌道を描くこと,重力が距離の2乗に逆比例することなどを示唆し,ニュートンの『プリンキピア』執筆へのきっかけを与えた。光学でも,薄膜に現れる色 (干渉現象) の研究によって光の周期性を明らかにした功績は大きい。重力,光の問題をめぐってニュートンと長く論争した。

フック
Hook, Theodore Edward

[生]1788.9.22. ロンドン
[没]1841.8.24. ロンドン
イギリスの劇作家,小説家。『マクスウェル』 Maxwell (1830) ,『ジャック・ブラッグ』 Jack Brag (37) などの社会小説の作者で,サッカレーの『虚栄の市』のワッグ氏のモデル。

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