日本大百科全書(ニッポニカ) 「スタンラン」の意味・わかりやすい解説
スタンラン
すたんらん
Théophile-Alexandre Steinlen
(1859―1923)
スイスのローザンヌに生まれ、フランスに帰化した画家。スイスで教育を受けたが、ゾラの小説の社会的テーマに強い関心を抱き、1881年にパリに出る決心をする。パリではモンマルトルに住み、若い詩人や芸術家のたまり場であったキャバレー「シャ・ノワール」に出入りするとともに、同名の雑誌にデッサンを寄稿してデビューする。ポスターや挿絵や本の表紙を手がけるほか、大衆向けのものやアナーキズムないし社会主義の急進的な新聞・雑誌のためにも版画を制作したが、その際しばしば雅号を用いた。彼はパリの街々を徘徊(はいかい)し、社会の底辺に生きる人々に同情のまなざしを向け、自らの作品が社会改革への促しになることを望んだ。作風はいくぶんじみだが、パリの街の生活を、誠実に力強く描いた点にその特徴がある。
[大森達次]