アナーキズム(英語表記)anarchism

翻訳|anarchism

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アナーキズム」の意味・わかりやすい解説

アナーキズム
anarchism

一切の権威,特に国家の権威を否定して,諸個人の自由を重視し,その自由な諸個人の合意のみを基礎にする社会を目指そうとする政治思想。無政府主義と訳されることが多い。古代ギリシアにも萌芽的なものがみられるが,近代政治思想としては,フランス革命後の 1793年にイギリスのウィリアム・ゴドウィンが著した『政治的正義の研究』が著名である。 19世紀半ば以降,アナーキズムはさまざまな潮流に分岐した。個人の至高性を主張し,自我を抑圧するものとしての宗教や道徳,国家の廃棄を説く個人主義的なもの (→シュティルナー ) ,サンディカリズム影響を受け,生産労働者と小農民,手工業者の相互主義的協働による政府なき社会を構想するもの (→プルードン ) ,ある程度の私有を認めつつも,組織労働者による土地,資本の集産制と直接的実力行使を主張する集産主義的なもの (→バクーニン ) ,私的所有を批判し,農村共同体を基礎にした,個人の自発性と相互扶助に支えられた共同所有を主張する共産主義的なもの (→クロポトキン ) がそれである。日本においては,明治末期に幸徳秋水アナルコ・サンディカリズムを唱え,大杉栄石川三四郎に影響を与えたが,大きな政治勢力にはなりえなかった。自律的な個人の連合を主張するアナーキズムの思想は管理社会化が進展する今日的状況において,支配なきユートピアへの願望表現であるともいえるが,それを実現する現実的基盤を欠くことが多い。

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