消費者に、広告であることを気づかれないように宣伝すること。ステルスは英語で「隠密、こそこそしたやり方」の意味。略称ステマ。アンダーカバーマーケティングundercover marketingともよばれる。利害関係のない第三者による評価は信頼性が高いとするウィンザー効果や、多くの人が支持するものにはさらなる支持が集まるというバンドワゴン効果を悪用したマーケティング手法で、IT時代の「さくら」「やらせ」ともいえる。(1)事業者自らが表示(書き込みなど)しているにもかかわらず、第三者が表示したかのように誤認させる「なりすまし型」、(2)事業者が第三者に報酬や商品・サービスなどの経済的利益を供与しているにもかかわらず、その事実を明らかにしない「利益提供秘匿型」、の2類型があり、商品・サービスの購買意欲を恣意(しい)的にあおり、あるいは損ね、購入・利用に誘導する、あるいは忌避させる行為である。とくにインターネットの普及で、SNSなどで影響力をもつインフルエンサーが事業者から経済的利益を受けながら、口コミや個人的感想を装って、商品やサービスを宣伝する行為が社会問題化した。
ヨーロッパ連合(EU)は2005年、「不公正取引方法指令」(Unfair Commercial Practices Directive)でステマを禁じた。アメリカでは連邦取引委員会が2009年、「広告における推奨および証言の利用に関する指針」(Guides Concerning the Use of Endorsements and Testimonials in Advertising)で、評価者と広告主との間の特別な関係や金銭授受の有無を開示することを義務づけた。日本では2012年(平成24)、複数の芸能人がステマを行っていたペニーオークション詐欺事件を機に、広くステマの存在が知られるようになった。主要7か国(G7)のうち日本だけは規制がなかったが、消費者庁は2023年(令和5)、景品表示法が禁じる不当表示にステマを加え、事業主が依頼した場合は「広告」「PR」「プロモーション」などと明示するよう義務づけた。悪質な違反には再発防止を求める措置命令を出し、従わない場合には2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される。ただし、広告・宣伝の制作に関与しただけのインフルエンサーなど投稿者は規制の対象外である。
[矢野 武 2024年6月18日]
(横田一輝 ICTディレクター / 2012年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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