日本大百科全書(ニッポニカ) 「スペイン料理」の意味・わかりやすい解説
スペイン料理
すぺいんりょうり
スペインは、古くはイスラム文明、新大陸文明のかけ橋として、ヨーロッパへ多くの知識、資源をもたらした担い手であった。これらの影響はさまざまな分野にみることができるが、食生活もその例外ではない。現在ではスペイン料理に欠くことのできないオリーブの栽培は、アラビア人の手で完成されたものである。また、新大陸からもたらされたものには、ジャガイモ、カボチャ、トマトなど、ヨーロッパ料理全般に広く利用されている野菜類が数多くある。
食事の時間は昼、夜が遅く、昼食が1日でもっとも重要な食事となっている。そのため食事時間も長く、午後2時から4時ごろまで約2時間をかけ、食後のシエスタ(昼寝)も習慣として行う人がいまだに多い。夜は10時ごろに簡単な夕食をとるが、7時ごろにはメリエンダ(午後の間食)もあり、昼食時までたいした食物をとらない午前中に比べ、午後は食事の量、回数ともに豊かである。こうした食事時間の特殊性は、歴史、風土上の要因と密接な関係にあり、労働時間も昼食前、昼食後と1日2回に分割され、それに見合ったものとなっている。
地方色の豊かなスペインでは、それぞれの地域によって料理もバラエティーに富んでいる。海岸に恵まれた北部、南部ではマリスコ(魚貝類)をふんだんに使用した料理が多く、またこれらは、さまざまな調理をされて食前のアペリティボにもよく使われる。牧畜、農業は伝統的に盛んで、首都マドリードを取り囲む中部地方では、牛・豚・羊肉の料理、ハム、腸詰類に特徴のあるものが多いほか、農産地独特のカロリーの高い豆類を煮込んだ田舎(いなか)料理も有名である。一般的に穀類、野菜、果物、肉、魚、乳製品のどれをとっても材料に事欠くことはなく、食生活は十分すぎるほど豊かであるといえる。
日本人に親しまれている料理には、バレンシアの米を使ったパエリャがある。これは野外でつくるものとされ、手元にある魚貝、肉を取り混ぜて炊き込むが、油はオリーブ油を使い、サフランを入れて香りと色を楽しむものである。肉料理では子豚の丸焼き、羊の焼き肉が特出しているほかは、あらゆる調理法が一般に普及している。アングーラスangulas(ウナギの稚魚)をニンニクとオリーブ油で炒(いた)めた一品はスペイン独特の料理で、国外の食通にも評判が高い。このほか、イカの墨煮やガスパチョgazpachoとよばれるアンダルシア地方の夏向きのスープなどがよく知られている。なお、食事にはワインが付き物で、地方地方により特産のワインがある。
[ペレス・高木香世子]