ロシアの哲学者、宗教思想家、詩人。歴史家セルゲイ・ソロビヨフの次男。モスクワに生まれる。モスクワ大学に学び、マギステル(修士)論文『西欧哲学の危機』を発表(1874)、西欧諸哲学の抽象的傾向を指摘し、ショーペンハウアーとハルトマンの哲学にこの傾向の超克をみる。1875年、エジプトで幻の女性との邂逅(かいこう)という神秘的経験をする。このころから詩作を開始。モスクワ大学、ペテルブルグ大学などで教えつつ、新しい独自の哲学体系の構築に専心するが、1881年皇帝暗殺者たちの死刑に反対して大学を辞す。その間、自由神智(しんち)学と称する体系を展開した『全一的知識の哲学原理』(1877)、神人とソフィヤ(知恵)の概念を核に、世界と神との再結合の方法と根拠を考察した『神人論』(1878~1880)、従来の倫理学と認識論を批判し、自由神政制と自由神智学の体系を確立した博士論文『抽象原理批判』(1877~1880)などを発表。1880年代は、『大論争とキリスト教政治』(1883)、『神政制の過去と未来』(1887・ザグレブ)、『ロシアと普遍公教会』(1888・パリ)などを発表して、自由神政制と万有普遍公教会の理念を核にした教会思想を主張、正教会とカトリック教会の再合同の必要性を説き、しだいにカトリックへ接近してゆく。1890年代は国の内外を転々として、美学、詩論、詩人論を発表、倫理学の大著『善の基礎づけ』(1897)を著す。終末論的視野より戦争と平和の問題を論じた『三つの会話』(1900)が最後の著書。彼は思想的に神秘主義にたち、スラブ主義宗教哲学の完成者とみなされる。
[御子柴道夫 2018年2月16日]
『御子柴道夫訳『ソロヴィヨフ著作集』全6巻(1982/改訂版・2010・刀水書房)』▽『御子柴道夫著『ソロヴィヨフとその時代』ソロヴィヨフ著作集別巻1、2(1982・刀水書房)』
ロシアの歴史家。哲学者ウラジーミル・ソロビヨフの父。モスクワの聖職者の家庭に生まれる。モスクワの大学で歴史を学び、グラノフスキーの影響を受けた。大学卒業後、パリ、ベルリン、ハイデルベルクなどの大学でミシュレやランケの講義を聞く。1847年モスクワ大学の歴史学の教授に就任。51年より『古代からのロシア史』を出版し始めた。これは死ぬ79年までに28巻刊行されたが、最後の29巻は死後出版された。若いときはスラブ主義的傾向をもっていたが、まもなく穏健な西欧主義に傾き、ピョートル1世(大帝)の改革をロシア史上重要な貢献として高く評価した。彼の業績は、次の世代のクリュチェフスキーらに大きな影響を与えた。
[外川継男]
ロシアの宗教哲学者,詩人,政論家。歴史家セルゲイ・ソロビヨフの子。モスクワ大学卒。ペテルブルグ大学で《西欧哲学の危機》によって修士号を,《抽象的原理批判》によって博士号を得,同大学で非常勤講師として講義。しかし1881年,皇帝を暗殺した革命家たちの恩赦を要求したために大学を追われ,その後は著述生活を送る。彼は人間の知的活動の最高目的を,科学と哲学と宗教を総合することに求め,神を忘れた人間崇拝(西欧世界の特徴)と人間を忘れた神崇拝(東方世界の特徴)とを統一して,神人という全一的知識に高めようとした。そこから,ローマ教皇と専制ロシアの指導による東西教会の合一を目ざすことになり,最終的にはキリスト教による世界的神政を夢見たが,晩年それに失望した。おもな作品に《神人論講義》(1877-81),《神政の歴史と未来》(1887),《善の意味づけ》(1897),《三つの会話》(1900)などがある。その哲学は,N.A.ベルジャーエフ,S.N.ブルガーコフや象徴派の詩人たちに大きな影響を与えた。
執筆者:高野 雅之
ロシアの歴史家。モスクワ大学卒業後,西欧諸国に遊学,ギゾー,ランケなどに学ぶ。1847年よりモスクワ大学教授となり,71-77年学長を務めた。帝室ペテルブルグ科学アカデミー会員。主著《古代からのロシア史》29巻(1851-79)のほか著書多数。その主要な関心はカラムジンの主観主義的ロシア史観に対して,豊富な資料を駆使して客観的な発展史観にもとづくロシア史を記述することであった。
執筆者:今井 義夫
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… 少なくとも18世紀の後半に至るまで,ロシア人の生活の大部分が森林地帯で営まれたところから,森はロシア人の民族的性格に甚大な影響を及ぼしたと考えられている。例えば19世紀の歴史家のS.M.ソロビヨフによれば,ヨーロッパは二つの部分,すなわち西方の石の部分と東方の木の部分からなっている。ロシアの貴族が石の城を構えて封建領主として割拠することなく,強大な君主のまわりで従士団を形成するにとどまったことも,また民衆が石の壁をもつ都市をつくらず,しばしば移動して安価な材料で手軽に住居を建て四方に分散する傾向をもったことも,ソロビヨフはロシアの自然的条件から説明している。…
※「ソロビヨフ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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