日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゾーン30」の意味・わかりやすい解説
ゾーン30
ぞーんさんじゅう
住宅街など生活道路が集まる区域(ゾーン)で、車速を時速30キロメートル以下に規制し、歩行者らを交通事故から守る規制策。ヨーロッパで1970年代から導入が始まり、日本では警察庁が2011年(平成23)から全国で推進している。一般に、速度規制は個々の道路(路線)ごとに設定するが、ゾーン30は学校、幼稚園・保育園、通学路、住宅街・団地、商店街、高齢者利用施設、観光施設周辺など、多数の歩行者や自転車の通行が想定される区域を「面」として指定し、事故防止を目ざす施策である。警察庁によると、車速が時速30キロメートルを超えると歩行者の致死率が急激に上昇するため、規制速度を30キロメートルとした。(1)ポールや路側帯などの設置による車道幅の縮小と歩道の拡張、(2)車道に蛇行、クランク、狭窄(きょうさく)部を導入、(3)中央線の抹消、(4)人工的に隆起させたハンプ(hump、こぶ)や、錯視を利用して障害物があるように見えるイメージハンプの設置、(5)昇降する車止めポールによる特定時間の侵入規制、などを適宜組み合わせ、自動車の走行速度を抑え、抜け道としての利用を抑制する。住民からの要請や事故発生状況などを基に、都道府県警察が指定。指定区域の入口などに、標識や路面表示でゾーン30地域であることを明示している。しかしゾーン30導入後も、かならずしも事故件数が減っておらず、2021年(令和3)6月には千葉県八街(やちまた)市の通学路でトラックによる児童5人の死傷事故が起きるなど、子どもを巻き込んだ輪禍が後を絶たない。この反省から、警察庁は国土交通省とともに2021年8月から、時速30キロメートル以下の速度規制と、ハンプ設置など物理的なハード対策の組合せを義務化した「ゾーン30プラス」の設置を全国で推進している。2022年3月末時点で、全国のゾーン30(ゾーン30プラス含む)は4288か所。
[矢野 武 2023年7月19日]