翻訳|boycott
ボイコットは,争議手段として,使用者の製品の不買を組合員,顧客や一般の公衆に対して訴えて,使用者の取引関係を妨害する行為である。アメリカで広く行われている。ボイコットの態様には,第1次ボイコットprimary boycottと第2次ボイコットsecondary boycottがある。第1次ボイコットは,使用者とその取引相手との間の取引関係を妨害する行為であり,第2次ボイコットは,使用者が労働組合の要求に応じない限り使用者の取引先企業の製品の不買を組合員,顧客や公衆に訴えるという,使用者の取引先とその取引相手との間の取引関係を妨害する行為である。このうちで,直接に使用者のみを相手とする第1次ボイコットに限り,正当な争議行為として刑事責任,民事責任を免除される,と一般的に理解されている。
日本では,使用者が悪質の製品を高価で売っているとか,腐っている食料品を売っているので買わないでくださいとか,自社の新聞を買わないでくださいと訴えたり宣伝した事例がある。前2者は,製品ボイコットというよりは,虚偽の事実を誇大に宣伝して使用者の利益を侵害し業務を妨害する開口サボタージュにあたる態様であり,正当性を有するとは限らない。後者は,第1次ボイコットの範囲内にあるとして,その正当性を認容された。第2次ボイコットについては,日本ではいまだ裁判例が存在しないが,アメリカでは,当該争議行為の当事者でない第三者の利益を侵害し業務を妨害する行為として違法なものと考えられ,タフト=ハートリー法上も〈労働組合の不当労働行為〉として禁止されている。日本においても,第2次ボイコットの正当性は認められていない。なお,第1次ボイコットの場合でも,会社の製品を買おうとする者に対し暴行脅迫や実力阻止が許されないことは他の争議手段の場合と同様である。
執筆者:渡辺 裕
ボイコットという名称は,イギリスの地主第3代アーン伯のアイルランドにおける代理人・土地差配人を務めたボイコットCharles Cunningham Boycott(1832-97)の名に由来する。イギリス統治下の19世紀後半のアイルランドでは,自治権獲得運動とともに土地同盟(1879結成)による小作権の安定,小作料の引下げ,土地所有権の回復を求める運動が展開した。1880年の農業不況という状況のなかで,土地同盟は土地差配人に小作料引下げを要求。要求を拒否した土地差配人に対しては,C.S.パーネルの指導の下に,暴力に訴えるのではなく,土地差配人との関係(経済的関係から近所づきあいに至るまで)をいっさい断つという戦術をとった。この戦術の最初の対象が,小作人を土地から追放しようとしたボイコットであったため,以後この戦術の名称として英語はもとよりヨーロッパ諸語に定着した。
→対日ボイコット運動
執筆者:上野 格
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ボイコットの用語は、1870年代末のアイルランドで、土地管理人ボイコット大尉の悪政に対して小作人が組織的に行った絶交に由来する。国際法上、ある国の国民が組織的、集団的に特定の国の商品の不買をなし、取引を断絶すること。このような不買が、各人の個々の自発的意思に基づく限りは、規模のいかんにかかわりなく、国際法上の問題は生じない。しかし、国家が不買を指導・推進した場合、または、国民の一部が他の国民を暴行や脅迫によって不買を強制するのを国家が故意または過失によって防止しなかった場合には、国際責任が成立する。ただし、相手国の違法行為に対抗するための手段として用いられる場合には復仇(ふっきゅう)として、また、集団安全保障体制の下における非軍事的強制措置としてなされる場合(国連憲章41条)、違法性が阻却される。国際的ボイコットは、国民的または民族的闘争の武器として用いられるものであるが、18世紀のアメリカ独立戦争前の英貨排斥運動にその萌芽(ほうが)をみることができ、20世紀に一般的となった。中国において五・四運動(1919)以降全国規模でなされた日貨排斥・英貨排斥運動は史上最大といわれる。また、対敵通商法に基づくアメリカの対北朝鮮、ベトナム、キューバ措置や、複数の国が強調して行う場合もみられる。
[広部和也]
使用者に対して経済的圧力を加えることを目的とし、使用者の生産する商品を買わないように呼びかけて不買運動を組織する争議行為戦術。ボイコットには、争議行為の直接の相手である使用者に圧力を加えるための不買運動である一次的ボイコットprimary boycottと、使用者と取引関係にある第三者に圧力を加えることによって不買運動を組織する二次的ボイコットsecondary boycottとがある。さらにボイコットには、その対象たる商品の性質によって、消費ボイコット、生産ボイコットとよばれるものもある。法的評価としては、一次的ボイコットと二次的ボイコットとは区別されており、一次的ボイコットは言論の自由の行使であり、正当な争議行為とされている。日本ではこの争議戦術は少なく、アメリカではよく行われている。
[村下 博]
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…19世紀後半には,C.S.パーネルの率いるアイルランド国民党が議会において自治権獲得の運動を進める一方,農民を組織して土地同盟(1879)を結成し,小作権の安定,小作料の引下げ,土地所有権の回復を求める土地戦争を展開した。このときの戦術で有名なものが,ボイコットという地主側の家族との交際をほとんど断つ方策である。これは,この戦術の対象になった土地差配人ボイコットCharles Cunningham Boycottの名に由来する。…
…日本の強引な政治的,経済的進出に反対する,日貨排斥を名目とする中国の民族運動。全国的規模の対外ボイコット運動は,1905年(光緒31)の対米ボイコットに始まるが,そのうち対日ボイコットは,08年の第二辰丸(たつまる)事件(辰丸事件)に関するもの以下,09年の安奉鉄道改築問題,15年の二十一ヵ条要求反対,19‐21年の五・四運動と続き,ことに1923年の旅順・大連回収要求運動以降は,中国共産党の成立,労働運動の激化等を反映して,経済絶交運動と名を改め,1925,26年の五・三〇事件に関連する運動,1927,28年の山東出兵反対,1928,29年の北伐,済南事件に関するもの,1931,32年の満州事変,上海事変に反対する経済絶交運動など十数回におよんだ。1905年の対米ボイコット運動と,五・三〇事件に関する対英経済絶交運動を除くと,他のすべてが市場開拓を急ぐ日本の強引な進出反対に集中しているのが特徴である。…
…製品に貼付された組合のラベル。労働組合の闘争手段のひとつであるボイコット戦術のひとつ。〈組合を交渉相手として承認せよ〉〈賃金率を上げよ〉などの組合の要求を使用者が拒否した場合,当該企業の製品やサービスの不買を労働者に呼びかける運動がそれである。…
※「ボイコット」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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