日本大百科全書(ニッポニカ) 「タペストリー」の意味・わかりやすい解説
タペストリー
たぺすとりー
tapestry
日本の綴織(つづれおり)、綴錦(つづれにしき)に相当する織物であるが、英語でタペストリー、フランス語でタピスリーとよぶものは、壁掛け・絨毯(じゅうたん)などの室内装飾品、あるいは染織美術品として取り扱われるものをさすことが多い。これは、東洋と西洋における綴織の用途の差異に起因している。この組織は平織の変化組織であって、経(たて)糸を強く張ったところへ、絵緯(えぬき)糸を文様の色に従って縫い綴(つづ)るように織り込んでいくもので、簡単な手芸的操作によることから、古くから各地で生産されていた。エジプトのコプト織、ペルーのプレ・インカ織などはよく知られており、フランスのゴブラン織、京都西陣(にしじん)の綴錦などは伝統的織物として世界的に名声を博している。これが大きく絹と羊毛の綴織として西洋と東洋に分かれて織り続けられている。しかし、構成糸の扱い方が違っており、西洋では経糸は麻、緯(よこ)糸は羊毛、東洋では経緯糸とも絹を用いることが多い。
現在の用途は、壁掛け、衝立(ついたて)、緞帳(どんちょう)、室内装飾品などである。フランスのジャン・リュルサはタペストリー工芸家として知られ、ほかに有名作家の下絵に基づくものも発表されている。また、運搬が容易であるところから、ピカソの『ゲルニカ』のような大画面の絵画の複製にも利用されている。
[角山幸洋]