日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
チェック・アンド・バランセス
ちぇっくあんどばらんせす
check and balances
日本語では「抑制と均衡」。権力の専制化を防止するために、権力相互の間で抑制と均衡を保たせようとする政治原理。近代国家の政治制度に広く採用されている。
アリストテレスは、王制・貴族制・民主制の長所をそれぞれ取り入れた理想の政治形態の確立を提案しているが、この混合政体論も一種のチェック・アンド・バランセスの考え方にたつ政治思想といえよう。中世封建社会においては、絶対君主の権力が増大するなかで、議会が君権を抑制する機関と考えられ、いわゆる制限王政観が発達した。市民革命期に近代的意味でのチェック・アンド・バランセスの考え方が登場した。ハリントンは、立法部が専制化したときがもっとも危険であるとして、一院は法案を提議するだけの、一院はその法案を議決するだけの、立法部における両院間の権力分立を考案している。続いてロックは、立法権と執行権(行政・外交権)との間の抑制・均衡論を提案し、さらにモンテスキューが立法・司法・行政部間の三権分立論を説いて、権力分立思想が民主的政治制度論として定着した。
しかし、現実には、完全な権力分立制に基づく政治は不可能であり、イギリスの議院内閣制では、立法部と行政部はむしろ融合関係にあるといえよう。また三権分立を比較的厳格に守っているといわれるアメリカの政治制度においても、大統領は、議会における自党派の支持を基盤にして政治を指導しているのであって、強いていえば、司法部が違憲立法審査権をもつことによって立法部・行政部の行動をチェックしているところに、アメリカにおける権力分立的性格を指摘することができよう。
[田中 浩]