日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
チュニジア国民対話カルテット
ちゅにじあこくみんたいわかるてっと
Tunisian National Dialogue Quartet
中東の反政府民衆運動「アラブの春」が始まって以降、チュニジア国内で敵対する勢力を仲介・融和し、同国の政情の安定と民主化に貢献した団体。チュニジア最大の労働組合であるチュニジア労働総同盟(UGTT)、経営者団体のチュニジア産業・貿易・手工業連合(UTICA)、チュニジア人権擁護連盟(LTDH)、チュニジア全国弁護士会の4団体からなる連合体で、2013年に発足した。政情不安のシリアなどからヨーロッパへ難民が押し寄せるなか、政情安定に貢献した同カルテットの手法は平和と民主主義を推し進めようとする中東や北アフリカ、そして世界のすべての国の人々を鼓舞することになるとして、2015年にノーベル平和賞を受賞した。
チュニジアでは2010年末からの民主化運動「ジャスミン革命」が進み、アラブの春の先駆けとなった。しかし23年間政権を担ったベンアリ独裁政権の崩壊後、イスラム系政党による暫定政権と、政教分離を重視する世俗政党など野党との対立が激化。チュニジア国民対話カルテットはこうした時期に発足し、世俗派とイスラム勢力双方の議員、有力者、支持者らを説得して対話を仲介し、人権尊重を掲げて民主化プロセスを主導し、機能停止に陥っていた制憲会議の再開に道筋をつけた。2014年1月には男女平等や人権尊重を認める新憲法を制定し、同年12月には議会・大統領の自由選挙を実現し、同国初の民主的手法による大統領ベジ・カイド・セブシBeji Caid Essebsi(1926―2019)の選出につなげた。2015年2月には世俗派、イスラム勢力双方が参加する正式政府の発足にこぎつけた。アラブの春以降、エジプト、リビア、シリアなどの中東諸国ではイスラム過激派勢力や軍部が台頭して紛争や内戦が相次いでおり、チュニジアが唯一、民主化と政情の安定に成功した事例とされている。
[矢野 武 2016年7月19日]