チュバシ族の母語。ロシア連邦内に住むチュバシ族(184万2300人。1989)の81.7%が母語としている。チュバシ共和国とその隣接地域に分布する。チュバシ族の約50%がこの共和国内に住み,同国の68.4%の人口を占める。教育も印刷もチュバシ語で行われる。言語の系統としてはチュルク諸語に属する。チュルク諸語を方言で分けるときにチュバシ語とそれ以外とに二分されるほど,他のチュルク諸方言と地理的にも文化的にも離れている。隣のタタールスタン共和国のタタール人とは同じチュルク語なのに会話ができないほどである。ウラル語(ペルム語(ジリャン(コミ)語とボチャーク(ウドムルト)語),チェレミス(マリ)語など)との接触が強かったので,ウラル語へ200個以上の語を与えたが,自らもペルム語から前置詞ан(禁止を表す)を借用した。名詞の接辞の配列順序は,人称接辞が複数接辞に先行する。例:тус-ǎм-сем-е(友・私の・たち・に)。ちなみにトルコ語ではdost-lar-ım-a(友・たち・私の・へ)である。なお,複数接辞が-семであることもチュバシ語独特である。13~14世紀のアラビア文字文献がある。文字言語は18世紀に始まったが,発達は19世紀後半である。正書法は,1938年以後ロシア文字正書法を採っている。
執筆者:柴田 武
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
アルタイ語族のなかのチュルク語の一方言。チュワシ語ともいう。ロシア連邦、チュバシア共和国および周辺で話され、ボルガ川上流地域のウィルヤル方言と下流地域のアナトリ方言に大別される。相互に話の通じやすい他のチュルク諸語と異なり、他のチュルク諸族からもっとも早く分離し、宗教的にも他の諸族から隔絶されていたため、チュバシ語には独特の要素が多く、話し手は他のチュルク諸語の話者と相互理解ができない。たとえば、チュルク語にR方言(tahhar_《9》)とZ方言(toquz_《9》)とあるなかで、チュバシ語のみが前者に属する。また、たとえば複数を表す接辞の形態も、つき方も、他の方言と異なり、「私の馬(複数)」はat-lar-ïmではなく、ut-ǎm-sem(馬‐私の‐複数)である。
[綾部裕子]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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