改訂新版 世界大百科事典 「ディジタル回路」の意味・わかりやすい解説
ディジタル回路 (ディジタルかいろ)
digital circuit
ディジタル表現された電気信号の論理演算,相互変換,伝達,蓄積などを行う電子回路のことで,アナログ回路と対比してこのように呼ばれる。区別可能な複数個の物理的状態をとる素子または素回路を使用して,その物理的状態で情報を表現,処理する。複数個の物理的状態として,例えば高低二つの電位,電流の有無,パルスの有無,接点の開閉などを利用した二進法を基本としたバイナリーなディジタル回路が一般的であるが,三進法以上のn進的素子を基本としたディジタル回路も研究されている。ディジタルコンピューターをはじめ,近代的エレクトロニクスシステムや機器のもっとも重要で基本的ハードウェア構成要素がディジタル回路である。もっとも広く使用されているものは,二つの電位を1と0の二進情報に対応させた基本回路(ゲートもしくはゲート回路と呼ぶ)を多用する半導体集積回路で,二進的基本論理演算の組合せで任意のn進法(日常使用する十進法を含めて)の各種の演算,記憶などの処理を実現している。集積化された二進的基本回路を使用すると,以下のような特徴がえられる。
(1)区別する値が2値なので,しきい電位threshold levelの上か下かのみを判別できればよい。したがって小振幅(低電力)化できるとともに,素子の特性劣化(変化)や電源電圧変動,温湿度変化が多少あっても,また操作を何度繰り返しても信号の品質劣化はまったくない。(2)数種類の基本回路のみを準備すれば,あとはそれを論理的に組み合わせ重ねることによりどんな複雑高級な機能も実現できる。すなわち回路設計と論理設計を分離することができる。これは集積化をも容易にする。(3)集積回路化が容易なので超小型・高速化され,また外部接続点が大幅に減ずるので高信頼度化するとともに安価になる。このためアナログ-ディジタル変換器や集積回路が安価になった昨今は,アナログ信号を取り扱う各種通信・測定機器や録音・録画機器をはじめとして家庭用電化製品用の電子回路も高品質,高精度,高安定化が容易に実現できるので,急速にディジタル回路化されてきた。
基本回路出力は複数個の基本回路を駆動できなければならない。その個数をファンアウトと呼び,通常の最大値は10程度である。基本回路の入出力振幅特性は,回路の非直線特性によってしきい値特性をもつ。この特性値は入出力負荷の数や各種の変動によって幅をもつが,出力保証値の電位差は必ず入力保証値の電位差よりも大きくなければならず,その差が各種の雑音耐量となって動作を確実にする。基本回路形式は高速度用に電流モードロジック(CML)やショットキー・トランジスター・トランジスター・ロジック(STTL),一般用にTTL,低電力用にC-MOSなどがあるが,超伝導を用いたものも研究されている。
執筆者:川又 晃
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報