ある温度(臨界温度)以下(多くの場合、絶対温度20Kすなわち零下253℃以下)の低温で、金属または合金の電気抵抗が突然ゼロになる現象。1911年、オランダ、ライデン大学のカマーリン・オネスが水銀の超伝導を発見したのが最初である。現在では25種類の金属元素が超伝導になることが知られている。臨界温度のいちばん高い元素は、テクネチウム(Tc)の11.1K、ニオブ(Nb)の9.1Kなどである。いちばん低いのはタングステンの10ミリK(1ミリKは1000分の1K)である。現在、元素周期表の1族にある金属からは超伝導現象はまったくみつかっていない。そこで、核断熱消磁法の発展によって0.1ミリK以下のいわゆる超低温の実現が可能になってきた1981年以降、金あるいは銀における超伝導現象を発見しようとする試みがなされている。
[渡辺 昂]
1960年以降、材料科学の進歩によって、臨界温度が20K近くで、かつ15万ガウスの高磁場をコイルとして発生することのできる超伝導材料が開発されてきた。これらは、合金のニオブ‐チタン(NbTi)、ニオブ‐チタン‐ジルコニウム(NbTiZr)、金属間化合物としてバナジウム3‐ガリウム(V3Ga)、バナジウム3‐スズ(V3Sn)、ガリウム‐ヒ素(GaAs)などである。材料科学の進歩によって、これらの超伝導材料を線材として巻き上げたコイルをデュワー瓶(魔法瓶ともいう。二重壁の内部が真空の断熱容器)に入れ、液体ヘリウム温度に冷却することによって、比較的容易に15万ガウスまでの強磁場を発生させることが可能になった。鉄心を用いた従来の電磁石で発生できる磁場は、2万ガウス程度である。
これらの超伝導コイルによって発生した高磁場は、物理学の基礎研究ばかりでなく、磁気浮上式鉄道、超伝導発電機・電動機、超伝導送電、MHD発電(磁気流体発電)、核融合発電などに利用されている。
[渡辺 昂]
カマーリン・オネスは
のような実験で、超伝導状態になった鉛のリングに一度電流を流すと、電気抵抗がゼロになるため電流が永久に流れることを発見した。コイルに外部から電流を流して磁場を発生させ、このコイルに鉛のリングをできるだけ近づけておき、この状態でコイルにつないである外部電源のスイッチを切ると、磁場は一定の強さからゼロまで変化し、鉛のリングにはコイルに生じた磁場の変化を打ち消す方向に誘導磁場が発生し、その結果、鉛のリングには誘導電流が流れる。このようにして発生した誘導電流は、超伝導状態にある鉛のリングの電気抵抗がゼロであるためにジュール熱となって消えることなく、永久に流れ続ける。カマーリン・オネスはこの電流を永久電流と名づけた。
[渡辺 昂]
磁石が浮上する液体ヘリウムの容器の底に、鉛かニオブの皿を沈めて、フェライトなどでつくった軽い棒磁石を、 のように上から降下させると、棒磁石は皿の上にはのらずに皿の近くで空中に浮上する。これは、超伝導状態にある鉛またはニオブの皿の裏面が磁力線をはじき返す性質をもっているからである。すなわち、超伝導体の内部には磁場が入ることができずに外に向かって押し出されてしまう。この現象を発見した(1932)のは、ドイツのマイスナーWalther Meissner(1882―1974)である。これをマイスナー効果という。
1957年アメリカのバーディーンとL・N・クーパーとシュリーファーは、電子が のようにフォノン(音響量子)の着物を着て対をつくる結果生ずる巨視的な量子現象が、超伝導の本質であることを明らかにした。3人の頭文字をとってこの超伝導理論をBCS理論とよび、彼らはこの業績により1972年にノーベル物理学賞を授与された。その後、アメリカのフェアバンクWilliam Martin Fairbank(1917―1989)は、超伝導体のコイルに電流を流すことによって発生する磁場がh/2π(hはプランク定数)を単位としてとびとびの値を示すことを発見した。この現象を磁場の量子化という。
超伝導を特徴づけるもっとも基本的な現象として(1)直流抵抗ゼロ、(2)マイスナー効果、(3)磁場の量子化、(4)ジョセフソン効果、の四つが考えられる。
[渡辺 昂]
前述のような低い遷移温度をもつ超伝導材料に対して、1986年に、より高い遷移温度をもつ酸化物超伝導体が発見された。ベドノルツとK・A・ミュラーは、ランタン、銅、バリウムを含む酸化物が従来より高い温度で超伝導性を示すことを指摘し、その1年後の1987年にノーベル賞を受けた。発見から受賞までの異例の早さは、高温超伝導が自然科学はもとより、社会からも期待される大発見であることを物語っている。以後もさまざまな組成の物質による研究によって遷移温度は上がってきたが、安定性に課題を残している。これが解決し実用化のめどが立てば、それまで高価な液体ヘリウム(温度4.2K)を使わなければならなかった超伝導が、はるかに安価な液体窒素(77K)で実現できることになる。現在、大学や研究所ばかりでなく産業界においても、大電流を流すことのできる安定な材料の開発が進められている。
[広瀬立成]
『中嶋貞雄著『量子の世界――極低温の物理』(1975・東京大学出版会)』▽『長谷田泰一郎・目片守著『低温――絶対零度への道』(1975・NHKブックス)』▽『佐々木祥介著『超流動・超伝導って何だろう――未知の世界に夢を追いかける科学者たち』(1988・ダイヤモンド社)』▽『益田義賀著『超流動と超伝導』(1989・丸善)』▽『渡辺昂著『超流動から超伝導へ』(1991・大月書店)』▽『恒藤敏彦著『超伝導の探究』(1995・岩波書店)』▽『村上雅人著、堂山昌男・小川恵一・北田正弘監修『高温超伝導の材料科学――応用への礎として』(1999・内田老鶴圃)』▽『恒藤敏彦著『現代物理学叢書 超伝導・超流動』(2001・岩波書店)』▽『丹羽雅昭著『超伝導の基礎』(2002・東京電機大学出版局)』▽『新潟大学大学院自然科学研究科ブックレット新潟大学編集委員会編、山口貢・福井聡著『夢を実現する超伝導』(2004・新潟日報事業社)』▽『松下照男編著、長村光造・住吉文夫・円福敬二著『超伝導応用の基礎』(2004・米田出版、産業図書発売)』▽『渡辺昂著『極低温の世界――目に見える量子現象』(新日本出版社・新日本新書)』
超電導とも書く。ある種の金属や合金,あるいは半導体や有機化合物において,温度を下げていくと,ある温度(転移温度)以下で電気抵抗が突然0になる現象。極低温領域で生ずる場合が多い。1911年オランダのH.カメルリン・オンネスが,約4.15Kで水銀の電気抵抗が突然0になるのを発見したのが最初で,その機構の理論的解明は57年,アメリカのバーディーンJohn Bardeen,クーパーLeon N.Cooper,シュリーファーJohn R.Schriefferによってなされた。この理論は彼らの頭文字をとってBCS理論と呼ばれるが,超伝導の発見からその解明までに長い時間がかかったのは,この現象がまったく量子力学的であり,いかなる古典的説明も成立しないためである。
一般に電気伝導を担っているのは導体の内部を自由に動き回ることのできる伝導電子であるが,超伝導を担っているのは,伝導電子と格子振動の相互作用の結果生ずる電子の対(クーパー対という)である。いま,1個の電子があると,そのまわりの正電荷をもつ格子点はクーロン力によって少しこの電子に引き寄せられる。伝導電子は108cm/sというような速い速度(フェルミ速度)で運動しているので,すぐに遠くへいってしまうが,格子点は質量が大きいためにすぐには平衡の位置に戻れない。したがって,その場所には他所よりも余分の正電荷が取り残されることになる。これを第2の電子が感ずると,クーロン力は引力となり,結局,第1の電子と第2の電子の間に引力が働いたのと同じになる。この引力が,もともと同符号の電荷のために斥力であった電子間のクーロン力に打ち勝てば,電子間には正味の引力が残り,そのために,二つの電子は互いに相手から離れられない束縛状態に入る。これが超伝導の担い手となる電子対である。格子の動きが遅いために,対の大きさは電子間の平均距離よりもはるかに大きい。低温になると,このような電子対が多数でき,多くの対が空間的に重なり合う。このようなとき,すべての対が同じ位相で振動すると全体のエネルギーが低くなり,さらに,対が多いほど次の対が作りやすい。そのために,温度が下がり熱によるじょう乱が小さくなるとある温度Tcから急に多数の対が現れ始めて(2次の相転移)新しい相が出現し,絶対0度ではすべての電子が対を作る。この相を超伝導相といい,Tcが超伝導相への転移温度である。
超伝導のもっとも大きな特徴である電気抵抗の消失は以下のように説明される。一般に,電子の量子力学的に安定な状態(固有状態)は,磁場中に置かれると還流する電流をもつようになる。この電流は外部磁場と逆方向の磁場を生ずるように流れるために,原子や分子の反磁性の原因になっている。ところで,巨視的な大きさの超伝導体の電子の状態は,全体として原子や分子のそれとよく似ている。まず,どちらも一つの位相で記述され,また原子では強い磁場によって電子を異なった状態に移すには有限のエネルギーが要るが,これに対応して,超伝導体では電子の対を磁場で破壊するのには有限のエネルギーが必要である。このことから,超伝導体にも原子と同じように反磁性が生ずる。超伝導体が原子よりもはるかに大きく,また電子の数が多いため,この反磁性はきわめて強いものになり,外から磁場をかけても超伝導体の中には磁場はまったく入ることができない。これをマイスナー効果といい,このような磁気的性質を完全反磁性と呼ぶ。このとき磁場を超伝導体の内部から押し出して支えているのは表面近くに生ずる電流(反磁性電流)であり,したがって,磁場をかけている間この電流は減衰することなく流れ続けていなければならない。すなわち,反磁性電流は電圧を生じない。また針金に外部の電流源から電流を流すとき,電流によって針金の中に同心円状の磁場が生ずるが,超伝導体では前述のようにその内部の磁場は0とならなければならない。したがって,超伝導体においてはこの磁場を外へ押し出すための反磁性電流が表面に生ずる。この反磁性電流は,初めに流した電流が表面だけを流れているとしたものと等しいので,結局,超伝導体の針金には電圧が生じない。すなわち電気抵抗は0である。このことから,超伝導体のより本質的な特徴は,無限大の電気伝導度をもつ完全導体であることよりも,むしろ,完全反磁性体であることがわかる。
超伝導体にかける磁場を大きくしていくと,磁場を排除するのに必要なエネルギーが,電子対を作って超伝導状態になっているエネルギーを超えたとき,超伝導は破壊され常伝導に戻る。このときの磁場を臨界磁場と呼ぶ。超伝導体には,このように臨界磁場で一挙に常伝導状態になるもののほか,ある磁場から徐々に磁場の侵入を許し,高い磁場によって全体が常伝導に戻るような物質もある。前者を第1種の超伝導体,後者を第2種の超伝導体と呼び区別する。
→超電導材料
超伝導の応用は,大電力の分野では電気抵抗が0であることを利用した送電,高磁場発生用の超伝導ソレノイドがある。前者はまだ実用ではないが,後者は実験用高磁場装置,粒子加速器用磁場発生器などに実用され,磁気浮上式鉄道やエネルギー貯蔵器なども開発中である。
エレクトロニクスの分野では主としてジョセフソン効果と磁束量子化が利用されている。磁束量子化とは,リング状の超伝導体の中空部分に生ずる磁束が,hc/2e=2×10⁻7ガウス/cm2(hはプランク定数,cは光速,eは素電荷)の整数倍の不連続な値しかとれないという現象であって,リングをひと回りするとき電子対の角運動量がħ(=h/2π)の整数倍しかとれないという量子力学の要請に基づいている。リングの一部をジョセフソン・トンネル接合にし,適当な駆動回路をつけ加えると量子化された磁束を出し入れできる。これを利用して磁束の検出器や,記憶素子,演算素子を作ることができ,その応用として高速のコンピューターや心電図に代わる心磁図を測定する装置がすでに試作の段階を終わっている。
なお,ここで述べた機構以外の超伝導も理論的には可能性が指摘されているが,現実には見つかっていない。
執筆者:小林 俊一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
多くの金属,ある種の酸化物および有機化合物は,それぞれに特有な臨界温度Tc 以下において,電気抵抗が0になる.この現象を超伝導という.低温における電気抵抗0は,1911年に,オランダの物理学者H. Kamerlingh-Onnes(カマリング-オンネス)が水銀を4 K に冷却したときに発見された.かれはその功績により,1913年にノーベル物理学賞を受けている.超伝導に関連する次の大きな発見は,1933年のW. MeissnerとR. Ochsenfeldによるマイスナー効果である.一時期,電気抵抗0とマイスナー効果をもつことが超伝導体の条件になったが,現在では,磁性イオンを含む超伝導体まで発見されている.超伝導は全世界の科学者の関心をよび,応用面の広さから工学的にも盛んに研究され,その利用は日々拡大している.金属や合金の超伝導を対象にしていた当時,超伝導体は磁場の強さの変化に対する対応から2種類に分類された.第一種の超伝導体は,外部磁場をかけたとき,磁場がある強さに達すると急激に超伝導性が壊れ,反磁性も消えるもので,ほとんどの金属と半金属がこれに属する.図は,超伝導が単体で観測されている元素である.ただし,C,V,NbおよびTcは次に述べる第二種に属する.*印のついた元素は高圧下でのみ観測される.たとえば,リンPは2.5×1011 Pa の高圧下で臨界温度 Tc は14~22 K である.また,**印の炭素Cは高圧下のナノチューブの状態でのみ観測される.第二種の超伝導体は,外部磁場が,ある強さに達すると,反磁性が磁場の強さとともに徐々に減少して,最終的には反磁性が消える.ほとんどの合金がこの型に属する.次に示すのはその一部で,( )内の数値は臨界温度 Tc(K)である.MgB2(39),Nb3Ge(23.2),Nb3Si(19),Nb3Sn(18.1),Nb3Al(18),V3Si(17.1),Ta3Pb(17),V3Ga(16.8),NbN(16.1),Nb3Ga(14.5),V3In(13.9),Nb0.6Ti0.4(9.8).このなかの最初のMgB2は,わが国の秋光 純らが2001年に発見したもので,現在,この種の合金としては最高の臨界温度をもっている.また,最後に示したNb0.6Ti0.4は,はじめて電線に加工された超伝導体である.以上のような金属や合金とは違って,従来は絶縁体と考えられていたセラミックスが超伝導体になることが1986年に,スイスのA. MüllerとG. Bednorzによって発表され,超伝導に新しい世界が開かれた.合成された酸化物はPb2(Sr,La)2Cu2O6で,転位温度は30 K であった.かれらは,発表の次の年,ノーベル化学賞を受けている.この発見後,世界中で超伝導酸化物の研究が進み,転位温度の高い,いわゆる高温超伝導体が追求され,現在も盛んに研究が続いている.わが国でも Tc = 133 K のTlBa2Ca2Cu3O9+が報告されたが,現在,最高の臨界温度をもつとされているのは,Hg0.8Tl0.2Ba2Ca2Cu3O8.33(138 K)である.これらの超伝導体は,簡便な冷媒である液体窒素によって超伝導が得られるので,応用面で大きく期待されている.超伝導酸化物は上述の分類からいえば,いずれも第二種である.有機化合物が超伝導体になる可能性は1960年代にすでに論じられていたが,1980年代に実証され,これらの研究も盛んである.[別用語参照]有機超伝導体
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)
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…断熱消磁
[極低温における現象]
一般に,構成要素の間に相互作用をもつ多体系では,相互作用のエネルギーと熱エネルギー(絶対温度にボルツマン定数を掛けたもの)が同程度になる温度よりも低温になると秩序状態が生ずる。秩序には,例えば,電子や原子核の磁気モーメントの磁気的な秩序や,超伝導や超流動などの運動量空間での秩序などがある。これらの秩序には極低温で出現するものが少なくなく,また,極低温で起こる場合には現象がきわめて量子力学的性質を帯びるために,物性研究の対象として極低温域は非常に興味深い。…
※「超伝導」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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