CMOS(読み)しーもす

日本大百科全書(ニッポニカ) 「CMOS」の意味・わかりやすい解説

CMOS
しーもす

半導体の構造の一つ。complementary metal oxide semiconductor(コンプリメンタリーメタルオキサイドセミコンダクター)の頭文字をとった略称で、相補型金属酸化膜半導体ともよばれる。同一基板上にnチャネル形MOSFET(モスエフイーティー/モスフェット)とpチャネル形MOSFETを相補型に配置したものである(MOSFET=金属酸化膜半導体電界効果トランジスタmetal-oxide-semiconductor field effect transistorの略)。

[吉川昭吉郎 2016年4月18日]

MOSFETとCMOS

MOSFETは、シリコン基板上にソース(電流の入口)、ドレイン(電流の出口)、およびゲート(電流を制御して止めたり流したりする役目から門になぞらえられている)の三つの電極をもつ半導体素子で、ゲートにかけられた電圧によってソース‐ドレイン間に流れる電流を制御するものである。nチャネル形とpチャネル形の二つのタイプがある。nチャネル形MOSFETは、p形シリコン基板上にソースおよびドレイン用のn形の領域を2か所つくり、その2か所を橋渡しする形で、酸化シリコンの絶縁層と金属膜を設ける。金属膜がゲート電極となる。pチャネル形MOSFETは、n形シリコン基板上にソースおよびドレイン用のp形の領域を2か所つくったものである。ここで、n形、p形というのは、半導体の物理的状態をいう。n形は真正半導体であるシリコンに比べて電子が過剰にあり、この電子が多数キャリアとして電流の運び屋の役をするもので、四価元素のシリコンに、五価元素のリンやヒ素を注入することでn形領域がつくられる。p形は真正半導体であるシリコンに比べて電子が不足し、正の電荷をもった正孔(ホールともいう)が多数キャリアとして電流の運び屋の役をするもので、四価元素のシリコンに、三価元素のホウ素アルミニウムを注入することでp形領域がつくられる。

 MOSFETは、そのままではソースからドレインに向けて電流が流れることはない。しかし、nチャネル形MOSFETの場合、ゲートにプラスの電圧をかけるとシリコン基板の絶縁層に接する境界部分に電子が引き寄せられてn形のチャネル層が形成され、電流が流れる状態になる。pチャネル形MOSFETの場合は、ゲートにかける電圧がマイナスで、チャネル層が正孔で形成されるp形の層であるという違いのほか、動作はn形の場合と同様である。ゲートにかける電圧は数ボルトという低電圧であり、ゲートに電圧をかけなければ電流が流れることがないので、ベース(制御電極)に流し込む電流によってエミッタ(入力電極)‐コレクタ(出力電極)間に流れる電流を制御するバイポーラトランジスタに比べて消費電力が少ない特長がある。このほか、ゲートの入力インピーダンスが高い、動作速度が速い、平面構造のため集積化が容易である、大電力を扱うのに適している、などの特長がある。

 CMOSは、MOSFETの改良型で、一つの基板上にnチャネル形MOSFETとpチャネル形MOSFETを並べて配置した構造で、お互いの短所を相補う動作をさせるものである。消費電力が少なく、集積化に適するといった特長はそのまま引き継がれる。CMOSは汎用(はんよう)性があり、さまざまなデジタル機器・装置に用いられている。

[吉川昭吉郎 2016年4月18日]

CMOSの応用例

電源装置におけるインバーター

CMOSの代表的な用途に、直流を交流に変換するインバーターとよばれる装置がある。家電品への適用例として、受電した50ヘルツまたは60ヘルツの商用電力を整流器で直流に変換し、これをインバーターで50キロヘルツというような高い周波数の交流に変換して機器に供給することで、ルームエアコンや冷蔵庫の性能・効率を高めたり、蛍光灯のちらつきを軽減したりすることなどがある。

[吉川昭吉郎 2016年4月18日]

パソコンの主要部品

CMOSは、ほとんどのパソコンのCPU中央処理装置)に用いられ、重要な役割を果たしている。またパソコンに接続されたキーボードやディスクドライブなどの設定情報(BIOS(バイオス):Basic Input/Output System)などを保存する不揮発性メモリー(電源が供給されなくてもデータが消えないメモリー)にも使われる。

[吉川昭吉郎 2016年4月18日]

カメラのイメージセンサー

CMOSのカメラへの応用例として、イメージセンサー(固体撮像素子)がある。イメージセンサーはホトダイオードによって光電変換された電気信号の強さを認識する素子である。競合素子に電荷結合素子(CCD:charge coupled device)がある。両者を比較した場合、CMOSは安価であるが、暗い被写体を写すとノイズが多くなる、動きの速い被写体を写すと像がゆがむ、などの欠点があるため、高級カメラには不適とされ、デジタルカメラが実用化された当初は、ほぼ100%がCCDで占められていた。しかし、CCDがイメージセンサー以外に用途がほとんどなく改善がはかどらなかったのに対し、CMOSは汎用性に富んで用途が広かったことから性能改良が進み、デジタルカメラ用CMOSにおける、前述のような短所も大きく改善された。日本では、2004年(平成16)キヤノンが高級一眼レフカメラに採用して実績が認められて以来、ニコンやソニーなどの高級カメラにも採用され、CCDにかわってイメージセンサーの主力を占めるようになった。CMOSは、コンパクトカメラ、携帯電話(スマートフォン)、Web(ウェブ)カメラ(生中継カメラ)、HDビデオカメラ(ハイビジョンビデオカメラ)など多くの用途に使われている。

[吉川昭吉郎 2016年4月18日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「CMOS」の意味・わかりやすい解説

CMOS
シーモス

「コンプリメンタリ型MOSFET」のページをご覧ください。

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