ディンカ族(読み)ディンカぞく(その他表記)Dinka

改訂新版 世界大百科事典 「ディンカ族」の意味・わかりやすい解説

ディンカ族 (ディンカぞく)
Dinka

アフリカのスーダン民主共和国南部,ナイル川流域の広大な低地に住む半農半牧民。自称名はジエンJien。乾季には河川近くで牛牧を行い,雨季にはサバンナ林にある定着村に集まるという移牧生活を送っている。おもな農作物はキビ,ヒエ類である。隣接して住むヌエル族とは言語的(西ナイル語系)に近いが,政治的には敵対関係にある。人口は約90万(1970年代)で,北,東,中央,南の四つの大地域に分かれ,方言の差は大きいが,同族意識は共有している。

 ディンカ社会は大小さまざまな部族(1000~2万5000人)に分かれ,各部族は3~9の亜部族に分かれている。父系クランも多く,全土に分散しているが,それにはバニイとよばれる司祭クランと,キチとよばれる平民=戦士クランとがある。クランはさらに亜クランに分かれるが,亜クランは共通祖先からの系譜をたどることのできる,共体的な出自集団である。通常,部族は一つの司祭亜クランに代表されるが,それ以外の多くの亜クランを含んでいる。亜部族は一つの司祭リネージと一つの戦士リネージを核とし,それぞれから司祭と戦争リーダーが出る。観念的には前者は後者の母方おじであるとされる。部族全体の司祭と戦争リーダーは構成亜部族の司祭と戦争リーダーの中から選ばれる。司祭は〈漁槍の主人〉とよばれ,祖霊が宿るとされる聖なる漁槍をもつ。その地位は父から子へ世襲的に継承され,就任儀礼が行われる。彼はさまざまな儀礼や供犠をつかさどり,和平交渉を行い,神ニアリチに祈りをささげる。ディンカはジョクと総称されるさまざまな神秘的存在を信じている。ニアリチはその一つで,創造者と考えられており,またいろいろな存在や活動をも意味する。他の神霊はヤスと総称されるが,クランの神格や天の精霊をも含む広い概念で,固有の名で知られており,ある神霊に憑依(ひようい)された人は予言者となることが多く,そうした予言者は多数知られている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ディンカ族」の意味・わかりやすい解説

ディンカ族
ディンカぞく
Dinka

南スーダン北部のナイル川沿岸のサバナに居住するナイル語系の牛牧民。人口は 21世紀初頭で 400万人以上。乾季には川辺ウシ放牧を行ない,雨季には丘上の定住地に帰り,トウモロコシ栽培を行なう。複合家族が社会組織の最小単位であるが,政治単位としては遊牧キャンプが集まって下位分節となり,それらが 1000~3万人の多くの社会集団を形成する。これらの集団は分散して自律的単位をなし,首長をもたない。伝統的に神話で認められた集団の精神的指導者である祭司は,各父系氏族から出る。ウシは経済上ばかりでなく,婚資,犠牲獣ともなる価値の中心である。

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