日本大百科全書(ニッポニカ) 「デポジット制」の意味・わかりやすい解説
デポジット制
でぽじっとせい
物に一定額の預かり金を上乗せして販売し、使用後、所定の場所に返却された場合に預かり金を返す制度。おもに環境保護や資源回収の観点から、瓶、缶、飲料容器のほか自動車、電機製品などの回収促進のため導入される。「預かり金払い戻し制度」「供託金制度」「保証金制度」ともいう。リサイクル率向上、省資源、ごみ散乱防止、ごみ処理量減少などの利点のほか、返却行為により対象物が廃棄、放置、紛失、盗難されなかったことを点検・証明できる利点もある。このため銭湯や美術館などのコインロッカーの鍵、貸しスキーやスケート靴などにも導入されている。一方で、預かり金の上乗せが購買意欲減退につながることや、回収物保管場所の確保が難しく、未導入地域から瓶、缶、ペットボトルなどがもち込まれるなどのデメリットもある。なお、法令で義務付けることを強制デポジット、民間業界が自主的に取り組むことを自主的(ボランタリー)デポジットという。また、景観保護や美化対策のため一定地域に限定導入することをローカル・デポジット、預かり金の半額のみを返却して残り半額分を回収・リサイクル費用として活用する制度をハーフバック・デポジット(カナダの一部の州で導入)という。
世界最初の強制デポジット例は、1953年にアメリカのバーモント州で行われた飲料容器を対象とする導入実験とされる。初めて法令として施行したのは1971年、アメリカのオレゴン州(Oregon Bottle Bill、オレゴン州瓶回収条例)で、その後アメリカ諸州やカナダ諸州に広がった。ヨーロッパでは1980年代にスウェーデンのアルミ缶業界が自主的デポジットを開始し、オランダ、スイス、デンマーク、ノルウェー、フィンランドなどに広がった。ドイツでは飲料や洗剤などの容器に罰則付きでデポジット制を課す容器包装令が施行されており、回収率(リターナブル容器)は95%を超えている。
日本では、ビール業界が自主的にビール瓶(1本あたり5円)をデポジット制で回収・洗浄・再利用しており、回収率は99%を超えている。ローカル・デポジットとしては、瀬戸内海の姫島(ひめしま)(大分県姫島村)が飲料缶に、伊豆諸島の八丈(はちじょう)島(東京都八丈町)が缶やペットボトルに導入した例などがあるが、八丈島では運営費が町財政を圧迫したとして導入から5年で廃止された。小泉純一郎政権時や京都市でデポジット制導入が検討されたことがあるが、小売・食品・化学業界などの反対で実現せず、日本での導入は観光地などに限られている。
[編集部]