日本大百科全書(ニッポニカ) 「トウギョ」の意味・わかりやすい解説
トウギョ
とうぎょ / 闘魚
Siamese fighting fish
[学] Betta splendens
硬骨魚綱スズキ目キノボリウオ亜目トウギョ科Belontiidaeの熱帯性淡水魚。一般にシャムトウギョとか属名のベタとよばれる。色彩のじみな野生原種からはでな色彩のものまでさまざまな飼育品種がつくられている。野生原種はタイやマレー半島北部に分布し、雄で5センチメートル、雌はやや小さい。池、水たまり、水田や溝にすみ、水草の陰や水底に潜んでときどき水面に出て空気呼吸をする。鰓腔(さいこう)上部に迷器という補助空気呼吸器官をもつ。迷器を包んでいる粘膜には毛細血管が密に分布し、直接に空気中の酸素を取り入れる。
雄は闘争心が強く、ほかの雄に出会うと鰓蓋(さいがい)とひれを広げて体を小刻みに震わせ、相手に突進して小さな口で首すじやひれにかみつく。闘いは14、5分続くが、ときには2、3時間、なかには一昼夜続けたものもあるという。勝者はさらにひれを広げて泳ぎ回るが、敗者は色があせて、ひれを垂れて逃げる。タイでは、この闘争性を利用して、雄どうしを闘わせて賭博(とばく)をする「闘魚」が行われている。そのために原産地のタイでは飼育品種よりも野生原種のほうが珍重され、高い値段で取引されている。
野生原種の雄はひれも短く、色も緑がかった灰褐色であるが、飼育品種はひれも長くて大きく、色彩も赤、青、紫、白や、それらの混じったものがあってはでで美しく、観賞魚として人気がある。飼育品種は日本では晩春から夏にかけてが産卵期で、雄は水面にある浮き草に泡を吹き上げ、直径5~10センチメートル、高さ約1センチメートルの淡黄色の椀(わん)形をした浮き巣をつくり、雌を誘って産卵させる。産卵後、雄は卵を一粒ずつ口で浮き巣に吹き上げ、ふたたび気泡を出して下から蓋(ふた)をする。このあと、雄は巣を外敵から守り、またひれで水流をおこして巣の中に酸素を補給する。孵化(ふか)後、稚魚は巣からぶら下がり、離れると雄が口で巣に戻す。
トウギョの仲間はほかに、口内哺育(ほいく)(マウスブリーダーmouthbreeder)をするベタ・タエニアタBetta taeniata、ベ・ピクタB. pictaが知られている。
[中坊徹次]