トダ族(読み)トダぞく(その他表記)Toda

改訂新版 世界大百科事典 「トダ族」の意味・わかりやすい解説

トダ族 (トダぞく)
Toda

南インド,タミル・ナードゥ州のニールギリ丘陵に住み,人口わずか数百,急速に滅亡しつつある民族水牛放牧ときわめて未開な酪農に依存している。社会は二つの内婚集団に分かれ,そのおのおのがいくつかの外婚的氏族に分かれている。相続父系であるが,一妻多夫婚が行われている。雌の水牛は決して食べないが,雄の水牛は毎年儀式的に殺され食べられる。司祭の職は酪農家としての職から切り離すことはできず,酪農の手続は,一種宗教にも等しい儀礼を含んでいる。トダ族の言語はドラビダ系に属しているが,人種型は特にその多毛性の点で隣接諸族と対立し,一般的にいって南インドの人種型よりも北インドのそれに近いと思われる。おそらく,きわめて古い時代にイラン方面で牛の放牧を営んでいたものが,インドへ移住してきたものと考えられ,またその文化は,酪農が新しい発明であった先史時代にまでさかのぼるような種々な要素を含んでいるということも考えられる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トダ族」の意味・わかりやすい解説

トダ族
トダぞく
Toda

インド南西部カルナータカ州のマイアル川とバワニ川にはさまれたニルギリ丘陵に住む少数民族。ドラビダ語系の言語を話すが,形質的には北方インド系で,皮膚は暗褐色,背が高く,がっしりしている。スイギュウウシの放牧に従い,粗放な酪農を行う。文化的にはきわめて保守的で,周辺民族と往来しながらも同化されず,古来の習俗を保っている。社会は2つの内婚的集団から成り,おのおのがいくつかの外婚的父系氏族に分れる。幼児結婚が普通であり,一妻多夫婚がみられ,数人の男性,普通は兄弟が1人の妻を共有する。妻が妊娠すると,夫たちの一人が彼女に玩具の弓と矢を贈る。これが生れてくる子の父親の公示である。宗教は,水牛酪農の行事を中心とする特殊な儀礼をもっている。古くはイラン高原付近に居住したが,インド北部を経て,現住地へ移入してきたという説もある。

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世界大百科事典(旧版)内のトダ族の言及

【一妻多夫婚】より

…これは夫としての身分が明確であるか否かにより,単なる妻貸しや愛人関係とは区別される。チベットなどにみられる,兄弟が1人の妻と同一世帯を形成するタイプと,トダ族のように妻が別々に住む夫たちのところを定期的に巡回するタイプ,あるいはナヤール族のように数人の夫が1人の女のもとを訪れるタイプがある。この制度では,複数の夫のうち誰を子どもの社会的父親と認定するかが常に問題となる。…

【山神】より

…山神の属性は地域によって異なっていることが多く,一律に論じがたい。大筋において分類しても,(1)山自体を神とみなす場合,(2)特定の山を支配・管掌する神を認める場合,(3)山に住む諸霊を畏怖する例などがある。(1)は自然崇拝の一環としての山岳信仰であるが,アメリカ・インディアン諸族が特異な形をした山や岩を神そのものとみなして信仰の対象としたことや,日本古来の神体山崇拝などがその例である。(2)では,インドのトダToda族が,彼らの神々がそれぞれ周辺の峰々を個別に占めているとして,それぞれ頂上に環状列石(ストーン・サークル)や石塚(ケルン)などを築く事実や,アフリカのマサイMasai族が,彼らの神ヌガイNgaiはキリマンジャロの雪をすみかにしていると信じていることなどがあげられよう。…

【親族】より

…このような場合,〈ジェニトリックス〉もまた自分の生まれた子を育てないので,助産婦料を支払った男の妻が子どもの養育権を獲得し〈メーター〉となる。南インドのトダ族の間では一妻多夫婚が行われており,1人の妻は数人の夫をもっている(多くの場合,夫たちは兄弟である)。この社会では,数人の夫はみな〈ジェニター〉でありうるわけだが,子どもの法的な父親すなわち〈ペーター〉は,そのなかの1人に限られており,〈ペーター〉は〈弓矢の贈与〉という儀礼によって親権を得ることができる。…

※「トダ族」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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