相続(読み)ソウゾク

デジタル大辞泉 「相続」の意味・読み・例文・類語

そう‐ぞく〔サウ‐〕【相続】

[名](スル)
家督・地位などを受け継ぐこと。跡目を継ぐこと。「宗家を相続する」
法律で、人が死亡した場合に、その者と一定の親族関係にある者が財産上の権利・義務を承継すること。現行民法では財産相続だけを認め、共同相続を原則とする。
[類語]継承相承承継踏襲後継世襲受け継ぐ引き継ぐ

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精選版 日本国語大辞典 「相続」の意味・読み・例文・類語

そう‐ぞくサウ‥【相続】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 物事を続けて行なうこと。また、繰り返し絶えまなく続くこと。
    1. [初出の実例]「然則、一乗仏戒、歳歳不絶、円宗学生、年年相続」(出典:顕戒論(820)中)
    2. 「終に十念相続して他界にうつりぬ」(出典:海道記(1223頃)木瀬川より竹の下)
    3. [その他の文献]〔漢書‐五行志・上〕
  3. 先代にかわって戸主となること。跡目(あとめ)を継ぐこと。また、前任者に代わって組織・技芸などを受け継ぐこと。
    1. [初出の実例]「その余流、わづかに二三代の相続をば過ず」(出典:文机談(1283頃)五)
    2. 「主人の跡目相続(サウゾク)致す」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)長町)
  4. 法律で、人の死亡によってその人に属した財産上の権利義務を一定の身分関係にある者が受け継ぐこと。昭和二二年(一九四七)以前の民法旧規定は家督相続と遺産相続の二つを認めていたが、現行民法では家督相続を廃止して、遺産の共同相続だけを認めている。〔仏和法律字彙(1886)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「相続」の意味・わかりやすい解説

相続 (そうぞく)

ある人(自然人)の財産法上の地位,つまり権利・義務の総体が,その者の死亡時に,法律および死亡者の最終の意思の効果として,特定の者によって承継されることを相続という。死亡した親の財産を子が取得するのは,死亡者の子が法律によってその相続人と定められているからである。また,死亡者の財産の一部が第三者に与えられることがあるのは,その者に当該財産(部分)を与えるという死亡者の最終の意思が遺言によって表明されているからである。

 相続は,自然人(法人に対していう)についてのみ生じる死亡を原因とする地位の承継である。法人においては,合併や解散はあっても相続は成立しない。また,相続は,財産法上の地位の承継であって,身分法上の地位(たとえば,夫であること)には及ばない。明治民法では戸主の地位の承継としての家督相続が認められていたが,現行民法はそれを全廃したため,相続は純粋に財産法上の地位すなわち権利・義務の総体の承継となった。なお,財産法上の権利義務であっても,扶養請求権のような一身専属的な性質を有するものは除外される(民法896条但書)。

 相続は,死亡によって開始する(882条)。自然的死亡のほか,失踪宣告(31条)による擬制的死亡が相続の開始原因である。明治民法下では,隠居や女戸主の入夫婚姻が家督相続を開始させたが,現行民法では,死亡のみが相続開始原因である。

 相続は,法律の規定に基づいて,相続人が知っているといないとにかかわらず効力を生じる。これを法定相続という。相続はまた,死亡者の最終意思とみなされる遺言に基づいても行われる。これを遺言相続という。法定相続と遺言相続の関係をどう考えるかは,重要な問題である。実際の遺言を見ると,法定相続制度とくに相続分を修正するものもあれば,修正しないものもある。法定の相続分を修正することは,必ずしも自由ではない。配偶者,直系卑属または直系尊属が相続人として存在する場合には,遺産の一定部分は,第三者のためにも相続人の一部のためにも,遺言によって処分することができない。この割合を遺留分といい,そのようにして相続権を保障される相続人を遺留分権者という。法定相続と遺言相続のいずれを原則と考えるかについては,後者を原則とし,前者は遺言がない場合に被相続人の意思を推定して定められた補充的制度だという考え方(遺言相続主義)と,前者を原則とし,後者を一定の範囲において法律上の相続分を再調整することを認めるために定められた調整的制度だという考え方(法定相続主義)が対立する。フランスのように遺留分が大きいところでは法定相続の観念が強く,逆に相続人の決定を中心として,相続制度を組み立ててきたイギリスでは伝統的に遺言相続の観念が強い,というように国による差異があるが,相続を相続人の生活保持の観点から考える必要が大きい今日では,一般的傾向として法定相続主義に接近している。

 相続は,法律または遺言によって定められる者による財産法上の権利義務の包括的な承継である。法定相続主義ではもっぱら法律によって相続人となるべき者が定められるのに対して,遺言相続主義では,相続人を指定することが遺言の役割である。日本の民法は,遺言によって相続人を定めることはできないという点では前者に属するが,包括受遺者が相続人に準ずる地位に立つ限りで,実質的に遺言によって地位承継者が決定されるしくみが存在している。

 相続は,このようにして特定された者(相続人,包括受遺者)による被相続人の地位の当然の承継である。相続人および包括受遺者の意思は,地位の承継を遮断または制限することを望む場合に,相続や遺贈の放棄として,または,相続の限定承認として法律効果を生じるにとどまる。承継者の主観的・客観的状況のいかんを問わず相続開始によって当然に財産権の移転が生じると考られることから,相続人は,相続財産に対してただちに所有権を取得するだけでなく,占有権もただちに取得するものとされている。共同相続関係では,被相続人の死亡によってただちに相続財産のすべてについて,相続人全員(放棄者を除く)の共有が観念的に成立することとなる。この特殊な共有関係を解消して各相続人が単独の所有権者となる手続を遺産分割という。遺産分割の効果は相続開始時にさかのぼる。相続人A,B,CのうちAに分与された財産については当初からAのみが所有者であって,B,Cはなんら権利を有しなかったものとして取り扱われる。そのため,遺産分割前にBまたはCがその財産について行った処分の効力が問題となる。

 ところで,相続に関する基本的用語について簡単に説明しておく。その者の死亡によって財産法上の地位の包括的承継が生じる者を〈被相続人〉という。被相続人の財産法上の地位を承継する者として法律によって定められている者を相続開始後について〈相続人〉と呼び,相続開始前においては〈推定相続人〉と呼ぶ。推定相続人は,相続の開始によって最先順位で相続人となるべき資格を有するため,相続に対する期待権を有する。この期待権を〈相続権〉という。なお,相続権の語は,相続の開始によって確定的な権利となったのちも用いられることがある(たとえば,相続回復請求権。884条)ほか,広義では,配偶者や非嫡出子など一定の地位にある者が相続人となることができること一般を指すことばとしても用いられる(たとえば,配偶者相続権)。相続によって被相続人から相続人に移転すべき権利義務の総体を〈相続財産〉と呼ぶ。資産(積極財産)だけでなく,負債(消極財産)も含まれる。相続人が数人存在する場合には共同相続関係が成立する。この場合に,相続開始後共同相続人間で分割が行われるまでの相続財産をとくに〈遺産〉という。遺産は,分割されるまで共同相続人の共有に属する(遺産共有の性質については説が分かれる。〈遺産分割〉の項参照)。

だれが相続人になるかは,法律によって一律に定められる。被相続人との生前の合意によって相続人となることを約束した場合でも,被相続人が遺言によって指定した場合でも,それらの合意または指定は効力を生じない(これに対して,遺言相続主義をとるところでは,遺言によって指定された者が相続人となるが,日本民法では,遺言による相続人の指定を許していない)。

 法律によって相続人を定める場合にも,その定め方にはいくつかの類型が区別される。区別の基準の第1は,血族に限定するか,配偶者も含めるかである。今日,先進諸国には配偶者をいっさい相続人としない立法例は存在しないが,他の相続人との関係において配偶者をどのように位置づけるかという点では,大きな差異が存在する。たとえば,フランス民法では,配偶者は,兄弟姉妹以外の傍系血族に優先するにすぎない地位にあるが,日本では他のすべての相続人と競合してつねに相続人となる特別の地位におかれている。これを配偶者血族競合型と呼び,血族優先型と区別する。

 第2は,血族をどのようなグループに分けて優先順位を与えるかである。これには,日本民法のように(1)直系卑属,(2)直系尊属,(3)兄弟姉妹と,いわば下・上・横の三つのラインに沿って分ける3系システムDreiliniensystemと,ドイツ民法やフランス民法のように(1)被相続人の子,(2)被相続人の父母およびその卑属で(1)以外の者,(3)被相続人の祖父母およびその卑属で(1)(2)以外の者というように分ける親系システムParentelensystemが区別される。両者の具体的な差異は,祖父母と兄弟姉妹の優先劣後関係にある。親系主義では,父母の子である兄弟姉妹は父母とともに祖父母に優先するが,3系主義では,兄弟姉妹は直系尊属である祖父母につねに劣後する。後者は,直系尊属への恭順の観念が強い立法主義であって,スペイン民法がこれに属する。

 第3は,嫡出の血族に限るか,非嫡出の血族も含めるかである。近代の諸法典は,非嫡出子を父の相続から排除していたが,今日では,非嫡出子(嫡出でない子)を嫡出子と競合する相続人とする方向で大きな変化をとげるに至った。イギリスでは1969年に,西ドイツでは70年に非嫡出子に相続権を付与する立法が行われ,さらにフランスでは,72年の立法によって相続法上嫡出子・非嫡出子の平等化が達成された。日本では,早くから非嫡出子に相続権を認めてきたが,嫡出子との平等化については抵抗があり,80年の改正においても見送られている。

日本では,(1)子およびその代襲者たる卑属,(2)直系尊属,(3)兄弟姉妹およびその代襲者たる子(被相続人のおい・めいまで)が,血族相続人である。これら3群の間には,上記のような順位が定められ,たとえば,被相続人の父が生存していても,第1順位である子が1人でもいれば--その子が非嫡出子であっても--相続人とならない。また,被相続人の弟は,第3順位であるから,被相続人に第1順位の子も第2順位の直系尊属もいない場合にはじめて,相続権を有することになる。上記3群の血族相続人以外の血族,たとえば被相続人のおじ,おばや,兄弟の孫が存在しても,それらはもはや相続人ではなく,相続財産は〈相続人不存在〉として特別縁故者へ分与されない限り国庫に帰属する。

 第1順位の子は,被相続人の実子で他の者と縁組をして養子となった者を含む。養子は養親だけでなく,実親とも相互に相続しあう関係に立つ。このように養子が縁組後も実親の家族にとどまっている点は,むしろ日本民法の特徴である。子のうちさらに子を残して被相続人より先に死亡した者がある場合には,代襲相続が行われ,孫は,代襲相続人としてその親が生存していれば相続したであろう分を代わって相続する。孫のうち,さらに子を残して先に死亡している者があればその者についても代襲が認められる(これを再代襲という)。

 胎児は,相続に関してはすでに生まれたものとみなす(886条1項)。相続が成立するためには被相続人と相続人は同時点でともに存在しなければならないとする同時存在の原則に対する例外である。なお,胎児が死体で生まれた場合には,相続しなかったものとして取り扱われる。

 第2順位の直系尊属については,親等の近い者が遠い者を一方的に排斥して相続人となる。たとえば,父方の祖父母および母方の祖父母が健在で父のみが先に死亡しているという場合には,母のみが相続人となり,祖父母はいずれも相続権を有しない。同一親等にある直系卑属の間では,相続は平等に行われる。

 第3順位の兄弟姉妹については,一代限りの代襲が認められる(887条2項,889条2項)。

配偶者は,他の共同相続人の存否・順位にかかわらず相続人となる(890条)。これは現行民法が新たに設けた最重要の規定の一つである。たとえば,フランスでは,配偶者は直系卑属,兄弟姉妹,直系尊属によって排除されるのに対して,日本ではつねに相続人としてそれらの者と競合する地位におかれている。両者のちがいは,主として夫婦財産制のしくみのちがいに由来している。フランスでは,法定財産制である後得財産共通制に服する場合に,婚姻中夫婦のいずれかが有償で得た財産は婚姻解消時に折半されるため,たとえば,夫が死亡すると妻は相続に先立って共通財産の2分の1を取得する。これに対して,日本では,婚姻中夫婦の一方の名義で得た財産はその者の特有財産であって他方に分与されないため,配偶者の相続権を重視する必要が大きいのである。逆にいうならば,配偶者の相続権とは,婚姻中に夫婦が形成した財産に対するそれぞれの権利でもあって,本来夫婦財産制の枠内で解決されるべきことがらが,夫婦別産制の下で相続法の領域に繰り込まれてきたものである。配偶者は,被相続人と相続開始時において婚姻関係にある者であって,内縁の相手方や離婚配偶者はこれにあたらない。

 配偶者については,代襲相続は認められない。配偶者もまた代襲相続権を有しない。

相続人が相続に関して不法・不当の行為を行った場合にその相続において失権させる制度である。欠格事由は,故意に被相続人,先順位・同順位相続人を殺しまたは殺そうとして刑に処せられた場合(891条1号),詐欺・強迫によって被相続人の遺言の作成等を妨げたり,遺言をさせたりした場合(同3号,4号),被相続人の遺言書を偽造,変造,破棄,隠匿した場合(同5号)など五つの場合に限られている。欠格事由該当者は,裁判上の手続をなんら必要とせずに,法律上当然に相続人の地位を失う。ただし,欠格の効果は,当該相続に限られる。欠格者の子が欠格者を代襲して相続することも妨げない(887条2項,889条2項)。

相続欠格事由にはあたらないが,被相続人に対して虐待または重大な侮辱にあたる行為をしたり,著しい非行があったりした場合に,その者を相続から除外するための裁判手続を相続人の廃除という。遺留分を有しない兄弟姉妹については遺言で相続分なしと指定したり,他の者に贈与・遺贈するだけで足りるから,廃除はもっぱら遺留分権利者に対する制裁の手続である。被相続人はみずから家庭裁判所に廃除を請求することができるほか,遺言によって廃除の意思を表示し,遺言執行者から家庭裁判所に廃除の請求をさせることもできる(892,893条)。家庭裁判所はいっさいの事情を考慮したうえで廃除の審判を行うが,調停によって廃除を確定してもよい。廃除の請求は,被相続人の一身専属的権利であり,その効果も相対的である。父によって廃除された子でも母の相続権は失わない。廃除は欠格と同様に被廃除者の代襲原因となるので,廃除者の死亡に際しては被廃除者に代わってその子が相続することとなる。

 被廃除者は,被相続人からあらためて贈与や遺贈を受けることができる(相続欠格者には遺贈を受ける資格がない)し,廃除の取消しの審判・調停を経ることによって相続権を回復させることもできる(894条。相続欠格については,このような宥恕の手続が欠けている)。

相続分とは,共同相続関係において各相続人が有する相続権の割合であるが,またそれぞれの相続分に相当するものとして配分される具体的な相続財産を指す場合もある。このほか,遺産分割前の共同相続人の地位を指す場合もある(905条)。

 相続権の割合としての相続分にも,なお次のようないくつかの観念がある。第1は,法定相続分と呼ばれるもので,競合関係に立つ相続人の間での相続権の割合を法律によって定めたものである(900条)。第2は,指定相続分と呼ばれるもので,被相続人が法定相続分とことなる相続分を遺言で指定し,またはそれを定めることを遺言によって委託された第三者がそれに基づいて指定した相続分である(902条)。法定相続分を遺言によって修正しようとするものであるから,遺留分を侵害することはできない。法定相続分は,後述のように分数比で規定され,指定相続分も原則として分数比で示される抽象的な権利割合である。第3は,相続人が被相続人から得た一定の受益を相続開始時の相続財産に計算上持ち戻して,現に存在する相続財産を受益相続人とその他の相続人の間でどのように分けるかを明らかにするための相続分である。これは,しばしば金額比によって提示され,その額に達するまで個々の具体的な相続財産が配当されるという意味で具体的相続分ないし配当相続分とも呼ばれる。

法定相続人間の競合関係は一方では配偶者の存否,他方では(1)子,(2)直系尊属,(3)兄弟姉妹のそれぞれの存否の組合せによって決定される。配偶者が先に死亡している場合または離婚している場合には,順位相続人(1)(2)(3)のうち先順位の者が平等で相続すべきこととなる。ただし,子の間の平等は,嫡出子と非嫡出子との間では否定され,非嫡出子は,嫡出子の相続分の2分の1に限定されている。嫡出子A,Bと非嫡出子Cの3人が相続人であるとき,Cの法定相続分は5分の1となる。また,(3)の兄弟姉妹中に被相続人と父母の一方を同じくしない半血の兄弟姉妹が存在する場合には,その者の相続分は,父母を同じくする全血の兄弟姉妹の相続分の2分の1に限定されている。先妻の子A,BのうちAが死亡し,後妻の子C,DがBとともにAを相続する場合には,Bの相続分は2分の1となる,という具合である。

 配偶者が存在する場合には,配偶者と(1)(2)(3)のうちのいずれかとの競合関係が成立するので,両者の間の相続分を法定する必要がある。まず,配偶者と子の場合には,子の人数および嫡出・非嫡出の区別にかかわりなく,1:1の割合で権利を有する。つぎに,配偶者と直系尊属の場合には,直系尊属の人数,親等にかかわりなく,2:1の割合で権利を有する。最後に,配偶者と兄弟姉妹の場合には,兄弟姉妹の人数および全血・半血の区別にかかわりなく,3:1の割合で権利を有する(900条)。これらの比率は,かつては,1:2,1:1,2:1であったが,1980年の民法改正によって配偶者の相続分を増大させる方向で改められたものである。

 子および兄弟姉妹について代襲相続が行われる場合には,被代襲者が生存しているものとみなして算定された相続分を代襲者の相続分とする(900条)。兄弟A,Bがそれぞれ1人と2人の子を残して死亡した場合には,Aの子はBの子のそれぞれに比して2倍の代襲相続分を有する。

遺言による指定または遺言による委託に基づく第三者の指定によって相続分が定められる。指定が相続人の一部について法定相続分と異なって行われた場合には,残りの部分について他の相続人が法定相続分の比率に従って相続するものとして相続分を算定する。子A,B,C,DのうちBのために2分の1の指定があった場合には,A,C,Dの相続分はそれぞれ6分の1とされる。ここで,子のほかに配偶者Xが存在する場合に,Bのための2分の1の指定はXの法定相続分に影響を与えるか否かが争われている。被相続人の意思解釈によって決定されるべきことがらであるが,不明の場合には,Bが2分の1を控除した残部をX,A,C,Dが法定相続分に従って分け,Xの相続分は4分の1となると解すべきである。

 Bのための指定が遺留分を超えるという場合には,その指定はただちに無効ではなく,遺留分を侵害された共同相続人からの減殺請求の対象となるにとどまる。上例でXの相続分を2分の1,Bの相続分を2分の1と指定した場合には,A,C,Dは遺留分(各自16分の1)を主張してBに対して減殺を請求すべきである。

共同相続人中に婚姻や養子縁組のために,または生計の資本として支出を受けた者がある場合には,それらを相続の前渡しとして行われた贈与とみなして遺産分割の際の各相続人の取り分を決定するうえで考慮することが妥当である。被相続人が死亡時において残した財産を具体的にどのような数比に従って分けるかは,このような共同相続人の特別受益を計算に入れてはじめて決定することができる。この具体的相続分は,被相続人が相続開始時に有した積極財産の価額に相続開始時点において評価した特別受益の額を加え(これを〈持戻し〉という),それに法定相続分(相続分の指定がある場合には指定相続分)を乗じて算出される各自の相続分額から特別受益を差し引いた額として算定される(903条1項)。共同相続人の1人への遺贈がある場合には,その価額は相続開始時の財産額に含まれているので,法定相続に従って算出された受遺者の相続分額から遺贈の額を差し引いた額がその者の具体的相続分となる。

 ところで,これらの遺贈または贈与の額が法定相続分等に従って算出された相続分額を超える場合には,もはや差し引くことができない。この場合には,当該受益者は共同相続人の遺留分を侵害していない限り,超過分を差し引いたり返したりする必要がなく,遺贈または贈与の全体を保持することができる(903条2項)。特別受益の持戻しの考え方は,相続の前渡しとみることから出発しているのだから,被相続人が相続分外として与えることを表示した場合には持ち戻す必要がない。被相続人がはっきりと相続分外であることを表示しなかったが,現実に相続分を超える遺贈・贈与を行ったときはその意思をもってしたのであろうと推測し,超過分については相続分外として取り扱うのである。

 受益者が超過分を保持してよいとなると,その分を共同相続人が負担しなければならない。それを含めて行われる具体的相続分の算定は複雑である。民法上明確な規定がないため学説も一致していないが,簡明な方法として支持されている方式を示せば,次のようである。子A,B,C,Dのうち,Aに500万円の遺贈,Bに700万円の贈与があり,被相続人死亡時の積極財産額は900万円であったとしよう。Aへの遺贈もBへの贈与もともに現財産額に贈与額を加えて法定相続を乗じた相続分額400万円を超えているのでそれらの者は不存在として除外し,残余400万円をC,Dが折半する(C,Dの遺留分額は各自200万円であるから,この場合には遺留分の侵害は成立しない)。Aは,相続財産から遺贈の全額500万円を受け取る。

 被相続人による具体的な諸支出が特別受益とくに生計の資本にあたるかは,個々の事情に即して判断されなければならない。開業資金や住宅取得資金が生計の資本にあたることは明らかであるが,たとえば,学資の負担については,将来の職業従事との関係のほか他の共同相続人との格差を考慮して,相対的に判断する必要がある。逆に,療養費の負担は,原則として特別受益とみるべきでない。

 特別受益は,相続人の一部が相続財産に入るべき財産から特別に受けた利益を返還して公平を図る,という考えに基づいている。したがって,それとは逆に,相続人の一部が相続財産に入った財産をみずからの負担によって形成した場合にはその寄与を考慮し,相続財産から当該相続人に相当額の償還を行って公平を図るべきである。これを寄与分という。寄与分は,相続財産側の特別受益であるから,遺産分割にあたっては,それを控除した財産額について上記の具体的相続分を算定すべきである。民法は,これを寄与相続人の相続分に加算してその者の具体的相続分とするという考えをとっているが,本来は,相続人であれそれ以外の者であれ,他人の資産形成に寄与した者は,不当利得返還請求権を有するということから出発すべきことがらである。現行民法では寄与分を相続人に限っているので,たとえば,子の配偶者が父の経営に寄与した場合にはこれにあたらないという問題がある。

被相続人の債務は,相続人によって承継されるが,それはどのような割合によるべきか。各相続人の相続分額の決定においては被相続人の積極財産の額が基礎とされるから,債務もそれぞれの相続分額に応じた割合で分割して承継することになるが,それは,特別受益者がない限り債務の総額に各自の法定(指定)相続分を乗じた額と一致する。これに対して,特別受益者がある場合には,(1)法定相続分によって負担すべきか,(2)具体的相続分によって負担すべきか,(3)持戻しを免れた受益部分も含めた総取得積極財産額の割合に従って負担すべきか,必ずしも明らかでない。債権者のためには法定相続分比準方式が望ましいが,相続人の公平と受贈者の保護を考慮すれば,具体的相続分によるかそれに遺贈の額を加えて負担割合を定めるのが現実的な解決であろう。

相続人は,遺産分割以前であれば,相続によって承継した財産法上の地位つまり権利義務の総体を共同相続人または第三者に譲渡することができる。譲受人は,相続人として有する権利義務の総体を取得したのであるから,以後相続人と入れ替わりそれと同一の地位で分割協議に参加するなど権利行使をすることができる。ただし,債務については,債権者を保護するため,譲渡人も引き続き重畳的に弁済義務を負うものと考えられている。

 相続分が第三者に譲渡された場合には,共同相続人は譲渡の価額および費用を償還してそれを取り戻すことができる(905条)。第三者が共同相続人の承諾なしに共同相続関係に入ることを阻止する法的手段である。

相続は,被相続人の死亡によって法律上当然に生じる財産法上の地位の承継であって相続人の意思による変動ではないため,たとえその効果が財産権の取得であっても,受益者の意思に反して強制することはできない。相続人は,相続の開始後,その相続を放棄してはじめから相続人でなかったものとすることができる(939条)。近代法は,たとえ利益であってもその意思に反して強制されない,という意思自由の思想に従って,相続を放棄する自由を各人に認めた。法律上放棄の自由を認めたことによって,逆に,放棄をしなかった相続人は受益の意思を有するものとみなされ,相続による変動も法律行為(契約など)による変動と接合しうるものと考えられるのである。

 ところで,相続の放棄は,被相続人の死亡によってすでに生じている権利義務の変動を例外的に相続開始時にさかのぼって生じなかったものとする制度であるから,意思自由の原則に基づくとはいえ,例外的な行為でしかありえない。これは,次の2面において確認することができる。第1は,相続放棄は,一定の時間的制限に服すことである(915条以下)。第2は,承認または承認とみなされる行為等があった場合には,もはや相続を放棄することができないということである(919条1項)。相続の承認(単純承認)は,積極的に権利義務の変動を生じせしめる行為というよりも,放棄する自由を放棄する行為として特別の意味をもつ。一定の事実行為が法律によって単純承認とみなされるのも,承認が放棄権の制限として位置づけられていることを意味している。

相続を放棄しようとする相続人は,自己のために相続が開始したことを知ったときから3ヵ月以内にそれぞれ単独で家庭裁判所に相続を放棄する旨の申述をすることができる(915,938条)。この期間は,例外的に利害関係人または検察官の請求によって家庭裁判所の審判によって伸長することができる(915条1項但書)が,いずれにしても比較的短い期間に限られる。このようにして定められる期間内に放棄の手続をとらなかった場合には--限定承認の場合を除いて--相続を単純に承認(単純承認)したものとみなされる(921条2号)。放棄の意思表示を行ったのちは,上記の期間内でもそれを取り消すことができない(919条1項)。

相続人は,上記の期間内に家庭裁判所への申述によって相続を承認することができる(920条)が,それがなくても期間の徒過によって同一の効力が生じる。また,相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合や,隠匿,私消,悪意による目録脱漏の場合には,単純に承認したものとみなされる(921条)。単純承認が成立すると,被相続人の権利義務を無制限に承継することとなる(920条)。

 相続人は,相続によって得た財産の限度内でのみ債務および遺贈を弁済することを条件として相続を承認することができる(922条)。これを限定承認という。限定承認は,財産目録を調製したうえで上記の承認・放棄の期間内に家庭裁判所に対する申述によって行う(924条)。共同相続関係においては,限定承認は,相続人全員が行う場合にのみはじめて効力を生じる(923条)。

放棄した相続人は,はじめから相続人でなかったことになるので,共同相続人の具体的相続分が結果的に増大する。この増大はそれぞれの相続分に比例して生じるが,配偶者をその他の順位相続人と別枠とする日本民法においては,比例増大は順位相続人のうちでしか生じない。たとえば,配偶者が放棄すれば子の相続分は増大するが,子の1人が放棄すると他の子の相続分は増大しても,配偶者の相続分は増大しないのである。

 相続放棄の制度が本来の目的を具体的に達するのは,相続財産の状態が悪く,負債超過となるような場合である。相続人は,相続人となることをやめることによって自己の資産状況が悪化することを避けることができるからである。しかし,現実に相続の放棄が行われる場合の多くにおいては,相続財産の負債やそれを承継することの個人的得失が問題ではなく,農業のような被相続人の個人経営資産の維持,被相続人とその配偶者の扶養・療養・看護等の負担引受け,〈家〉として観念される家族的結合の保持,祭祀の承継等共同相続人全員にかかわるさまざまなことがらについての直接・間接の合意の結果,その対価ないし補償として放棄の手続がとられることが少なくない。これはまた,ヨーロッパ諸国において相続放棄がきわめてまれであるのに,日本においてはそうでないことを説明している。

 このような相続放棄制度の転用と同時に,家庭裁判所への申述の手続をとらないで相続を回避する慣行も全国的に見いだされる。遺産分割協議書において,ある相続人の相続すべき財産をなしとし,または特別受益を理由とする相続分なしの証明書を別個に作成して不動産の登記を行うなどの方法がそれである。

相続人でない者が遺産の全部または一部を相続人であるかのように占有している場合に,真正の相続人が表見上の相続人に対して,相続権の侵害を理由に相続財産の回復を請求する権利である。民法は,この請求権について,権利行使の期間制限(消滅時効)に関する規定(884条)をおくにとどまっているため,その性格や内容について学説上多くの議論がある。

 相続回復請求によって回復されるのは,具体的には相続財産の対物的支配(占有)である。したがって,相続回復請求の訴えは,所有物返還請求権の集合的行使とみることもできるが,そこで争われているのは単に個々の財産の所有権の帰属ではなく相続人たる地位そのものであり,財産の帰属はその帰結として解決されるべきものであるから,個別の所有物返還請求権とは性質を異にする相続法上固有の請求権であるというべきである。このことから,相続回復請求の訴えは返還を求める個々の財産を列挙しなくても提起することができると解されている。もっとも,勝訴して遺産の占有を取り戻すためには判決において目的物が特定していなければならないから,訴えを提起したのち口頭弁論終結時までに回復すべき財産を特定しなければならない。

回復請求権は,真正相続人から表見相続人に対して行使される。請求権の行使は裁判によることが多いが,裁判外で行使することも認められ,実務上も裁判外の行使によって回復請求権の時効を中断する実益がある。訴えを提起する場合を考えるならば,原告は真正相続人に限られる。相続財産の譲受人など特定承継人は,相続権を侵害される立場にはないから相続回復請求権を行使することはできない。被告もまた,表見相続人に限られる。表見相続人とは,返還請求に対してみずから相続権を有するとして抗弁する者である。表見相続人からの譲受人(第三取得者)に対しては相続回復請求権を行使することができない。

 ところで,第三者でなく,共同相続人のうちの1人が遺産を独り占めにしているという場合に,相続回復請求権が成立するか。これは,この請求権が消滅時効にかかることとの関係で問題とされる。共同相続人はつねに遺産の分割請求権を有し,その性質はそれぞれが固有な共有持分権に基づく物権的請求権であると考えるならば,共同相続人相互間の請求権は,消滅時効にかからないというべきである。1978年の最高裁大法廷判決は,この点について逆に解して回復請求権の成立を原則として認めたが,占有者が相続権侵害について悪意または有過失の場合は例外である,とした。共同相続人の分を侵害していることを知りながら占有をつづけている相続人(悪意の相続人)は,時効を援用できないというのである。

相続回復請求権は,相続人またはその法定代理人が相続権侵害の事実を知ったときから5年で時効によって消滅する。また,相続開始から20年で絶対的に消滅する(除斥期間)。この点について,物権的請求権の非時効性と対比して考えるならば,相続回復請求権は,個別の財産について所有権を証明することなく,相続財産に属していたことを証明するだけで占有を回復することを許すと同時に,占有権利行使期間を制限することによって表見相続人にも保護を与えることを目的とした制度であるということになる。権利行使期間を経過したのちは,真正の相続人は,個別の財産について被相続人が所有権など本権を有したことを証明し,その承継人として返還請求を行う以外に目的物の対物支配を回復することができない。

農家の財産の大部分は,農地である。そのため,自作農業経営者が数人の子を残して死亡すると,民法の規定に従って相続が行われる限り,共同相続人の間で農地を分割してそれぞれの相続分にあてなければならないことになる。1人が農業を継ごうとしても,農地の一部しか取得することができず,そのため,農業を続けていくに必要な経営面積を確保することが不可能となる。農地は分割されて売却され,または他の目的に転用されて,農業を衰退させる一因となる。かりに,農業後継者以外の共同相続人に分与すべき預貯金や有価証券などがあればよいが,そのような蓄えのある農家は少なく,むしろ通常は農業機械の購入などのための借入金のほうがはるかに大きいというのが実情である。このように,平等相続の原則に従えば農業経営の継続が困難となり,経営の存続を図るためには,共同相続人の権利を事実上制限しなければならないというのが,今日各国共通に見いだされる〈農家相続問題〉である。

 この問題は三つに分かれる。第1は,農地の現物分割を回避して経営の一体性を維持するための方策である。共同相続人間で遺産分割の協議がまとまらない場合に裁判所が共同相続人の1人の請求に基づいて分割のための裁判を行うが,たとえば,フランスでは,一定の条件を満たした相続人が農地の全体を自己に分与せよと請求すると,それに従った遺産分割を命じるという制度がある(農業資産の優先分与手続)。日本にはこのような制度はないが,家庭裁判所が遺産分割の審判を行う際に同じような配慮を行うことは可能である。ところで,裁判所が農地の一括承継を命じる場合にも,平等相続の原則に反することはできないから,農地以外の財産が少ないときは,農業後継者たる子に,相当分を金銭に換価するなどして他の共同相続人への補償の支払を命じなければならない。後継者は,補償の支払のためあらためて借入れを行い,以後その返済にあたることになるが,日本のように地価がきわめて高いところでは補償金も巨額にのぼり,借入れをしても,農業収益からその返済をしていくことが不可能とみられることも少なくない。

 そこで第2に,農業経営の存続のために,農業経営資産に限って民法の平等原則を修正する特例を設けるべきかが問題とされた。これには,後継者に特別の相続分を与える方式や,被相続人の指定によって相続人の1人に全経営資産を帰属させ,他の共同相続人には一定の条件のもとにあらためて分割請求を行うことを許すという方式がある。1949年に政府が国会に提出した農業資産相続特例法案は後者の形式をとるものであったが,家督相続の復活につながり,平等の原則に反するという批判が強く,審議未了のまま終わった。その後,日本では,立法の動きはない。ヨーロッパにおいても,共同相続人間で法律上,不平等を生みだす上記の諸方式を採用することには慎重である。しかし,たとえば,西ドイツのように,農地について実際の取引価格と比べて著しく低い〈統一価格〉を定め,他方,一括承継を法律または親子間の農場譲渡契約によって保障しているところでは,共同相続人への補償が少額に抑えられ,後継者の相続分がその分だけ実質的に拡大されるというしくみがある。日本においても,地価高騰が農家相続問題の解決をいっそう困難にしているという認識から,相続財産の評価にあたっては,相続人間の具体的な平等を実現するために,農地をその収益価格(平均収益の元本還元額)によって評価せよ,という主張が有力である。また,相続税納税猶予特例措置においては,すでに収益価格に近い農業投資価格なる評価方法がとられているが,遺産分割上の評価方法としてはいまだ普及していない。地価の高騰自体が収益価格方式の採用を困難にしているという逆の事情があるからである。

 地価が高いために農業後継者が相続に際して負う土地の税負担が過大となり,所有権の一括承継が不可能となることが,今日最重要の問題である。そのため,第3に,土地所有権は共同相続人各人に分割帰属させ,そのうえで農業後継者に賃貸して経営地としての一体性を維持する方式が注目されている。後継者は,相続に際して土地負担をいっさい免れ,共同相続人としては,賃借人として毎年の収益の中から地代を支払っていけば足りる。この方式の問題は,共同相続人が任意に賃貸借に応じてくれるか,という点にあり,日本ではそれを確実にする法律上の手段は存在しない。フランスでは,1980年の農業基本法によって民法典が改正され,長期賃貸借の締結を条件として現物分割や非農業後継者への優先分与を命ずる裁判手続が導入された。共同相続人は,賃貸借の設定による減価を強制されるので,必要がある限り現物分割に際してそれを考慮するものとされている。

 特別の法律制度が存在しない日本では,農家相続問題の解決は,さまざまな方法を活用して行う以外にない。遺留分を侵害しない範囲での生前贈与,相続分の指定,遺贈,寄与分の認定評価,特別受益の算定,農地価格の適正な評価などがそれであるが,いずれにおいても被相続人の生存中に相続人との協議を通じて取決めを行うか,少なくとも遺言によって分割方法の指定を行うことが望ましい。
相続税

明治期以降の日本の法制度に大きな影響を与えたフランス,ドイツ,イギリスについて,その現行相続法制の特徴をみてみる。

ヨーロッパ諸国では最も厳格な法定相続主義を採用している。すなわち,遺留分は,子1人の場合2分の1,2人の場合3分の2,3人以上の場合4分の3,尊属が相続人である場合には2分の1であって(フランス民法913,914条),贈与,遺贈による無償処分は大きく制限されている。

 相続人は,その順位に従って3群に分かれる。(1)子(代襲可。745条1項)。(2)兄弟姉妹(代襲可)と父母(748,750,751条)。共同相続関係に立つ。(3)父系・母系に折半されたうえで,(a)その系の尊属(746条),(b)配偶者(766条),(c)他の系の尊属(753条1項),(d)その系の傍系血族(753条1項),(e)他の系の傍系血族(755条3項)。(a)(b)(c)が存在しないときは,相続財産は,国に帰属する(768条)。このようなシステムは,被相続人の卑属,被相続人の父母とその卑属,被相続人の祖父母とその卑属……を順次優先させるところに特徴がある(親系システム)。

 非嫡出子も相続権を有する。相続分は原則として嫡出子と平等である(757条)が,姦通から生まれた子については,以下の例外がある。第1に,嫡出子が存在する場合には,非嫡出子が嫡出子であれば得られたであろう部分の2分の1に限定される(760条1項。嫡出子A,Bと非嫡出子Cの3人が相続人であるとき,Cの法定相続分は,6分の1となる。前述の日本民法と比較せよ)。第2に,嫡出子がなく,かつ,配偶者が相続人である場合には,配偶者に2分の1(尊属が存在しないとき)または4分の1(父方または母方のいずれかに尊属が存在しないとき)が与えられる(759条1項,2項)。

 配偶者は,第3群第2順位に位置する劣位の相続人である。すなわち,被相続人に子,兄弟姉妹,父母,その他の尊属が存在する限り相続人とならない(765条。ただし,父系母系の一方に尊属が存在しない場合には,その系の尊属に与えられるべき分が配偶者に与えられる。766条)。配偶者は,傍系血族にのみ優先する。遺留分も認められない。他方,配偶者は,子が相続人であるときは4分の1(姦通から生まれた非嫡出子の場合には2分の1),兄弟姉妹,尊属が相続人であるときは2分の1について,用益権(終身の物権的使用収益権)を与えられる(767条1項)。

法定相続主義を採用するが,遺留分は,2分の1にとどまる(ドイツ民法2303条)ほか,祖父母以上の尊属は,遺留分権を有しない。

 相続人は,親系システムによって以下のように分けられる。(1)卑属(代襲。1924条)。(2)父母およびその卑属。父母双方が存在すれば父母のみが折半して相続し,一方が死亡していれば,その者に帰属すべき2分の1についてその卑属が相続する(代襲。1925条)。(3)祖父母およびその卑属。祖父母がすべて存在すれば各自4分の1を取得するが,その1人が存在しない場合には,その者に帰属する分をその卑属が相続する(代襲)。卑属が存在しない場合には先に死亡した祖父母の配偶者に,その者も存在しない場合にはその卑属に,さらに父方または母方の一方に祖父母が存在しない場合には他方の祖父母,その卑属に帰属する(1926条)。以下,ほぼ同じ原理によって親系システムによる相続が行われる(1928,1929条)。配偶者は,これらの相続人と共同相続関係に立つ(後述)。法定相続人中,卑属,父母,配偶者が遺留分を有する(2302条)。

 非嫡出子は相続権を有する。ただし,母に対しては嫡出子と平等であるが,父に対しては長い間相続権が否定されていた(1970年まで)こととのかかわりで,配偶者または嫡出の卑属がある場合に相続代償請求権のみを享受する(1934条a)。相続代償請求権は遺留分の保障がある債権的金銭請求権であるが,その額は法定相続分と等しい。相続人としての地位を否定して嫡出家族の精神的不安を除去することがその目的である。相続開始前に放棄が認められる点に注意すべきである。

 配偶者は,血族相続人と競合して相続人となる。その相続分は,第1順位相続人と競合するときは4分の1,第2順位と競合するときは2分の1,祖父母と競合するときは2分の1プラス死亡した祖父母の分である。第1順位,第2順位,祖父母で相続人となる者がいない場合は全相続財産を取得する(1931条)。配偶者についてはこのほかに,第2順位相続人または祖父母と競合する場合に,土地の従物以外の世帯財産および婚姻時の贈物を取得する先取分の制度(1932条)があり,さらに,夫婦財産制として剰余共同制をとる場合に剰余の清算に代えて相続分を4分の1増大させる制度(1371条1項),別産制をとる場合に1人または2人の子と競合するとき相続分を4分の1でなく子と同等に2分の1または3分の1とする制度(1931条4項)がある。

沿革的に遺言相続を原則とする。遺言が存在しない場合について法定相続制度があり,相続人,相続分が定められるが,相続人に遺留分を保障するというシステムはとらず,それに代えて,被相続人の配偶者,再婚していない離婚配偶者,子,その他被相続人に扶養されていた者に遺産に対する扶養措置を請求する権利を付与している(1975年相続法)。裁判所は,この請求に対して,一時金または定期金の支払,財産の分与,継承的不動産の設定等を命ずる。遺言処分は,この扶養措置命令を別としてその効力を生じる。

 遺言がない場合には,以下の者の間で遺産の分配が行われる(1925年遺産管理法)。(1)配偶者と卑属が存在する場合には,配偶者が動産の全体と1万5000ポンドおよび残余の2分の1についての生涯権を取得し,子には残余財産が制定法上の信託として保有される(以下,単に信託されるという)。(2)配偶者と父母が存在する場合には,配偶者が動産の全体と4万ポンドおよび残余の2分の1の保有権を取得し,父母のために残余財産が信託される。(3)父母がなく配偶者と全血の兄弟姉妹が存在する場合にも(2)と同じ。(4)配偶者がなく卑属が存在する場合には,全財産が卑属のために信託される。(5)配偶者が存在し,卑属も父母も存在しない場合には,配偶者が全財産を取得する。(6)配偶者も卑属も存在しない場合には,順次,(a)父母が取得する。(b)兄弟姉妹のために信託される。(c)祖父母が取得する。(d)おじ・おばのために信託される。

 非嫡出子は,1969年家族法改正法によってその父母と相互に相続関係に立つことが認められ,嫡出子と平等の地位を享受することとなった。1975年相続法による扶養措置は,無遺言相続の場合にも認められる。無遺言相続で配偶者が優遇される結果として他の被扶養家族の保護が必要になることを考慮したものとみられる。
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例えば,在日韓国人Aが日本に土地と建物を残して死亡したとする。この場合に生じるAの相続は日本と韓国の双方に関係がある。このように,二つまたはそれ以上の国にかかわって生じる相続を国際的な相続または渉外的な相続という。

 国際的な相続については,これをどの国の法によって規律するかという,相続の準拠法の決定の問題が発生する。相続に関する法制は国によって異なるからである。この相続準拠法を決定するのが,相続に関する各国の国際私法である。ここで,〈各国の〉と述べたのは,相続に関する国際私法もまた,現在のところ,世界的に統一されてはいないからである。したがって,冒頭の例で,Aの遺産の相続につき争いが生じ,日本の裁判所に訴えが提起されたならば,日本の裁判所は相続に関する日本の国際私法規定である法例26条を適用し,もし,韓国の裁判所に訴えが提起されたならば,韓国の裁判所は,相続に関する韓国の国際私法規定である大韓民国渉外私法26条を適用するであろう。

渉外的な相続問題をどの国の法によって規律するかについて,諸国の国際私法は,相続分割主義を採るものと相続統一主義を採るものとに分かれる。前者では,動産についての相続と不動産についての相続は分けられ,動産の相続は死者である被相続人の住所地法に,不動産の相続はその所在地法にゆだねられる。これに対して,後者では,相続財産を構成する個々の財産が動産か不動産であるかを区別せず,すべての財産の相続は単一の法により支配される。この場合の単一の法は死者である被相続人の属人法である。属人法を何にするかについては,これを本国法とする国と住所地法とする国とに分かれているので,同じく相続統一主義をとっていても,さらに相続の準拠法を本国法とする国とこれを住所地法とする国とに分かれる。

 相続分割主義は19世紀の中ごろまで,西欧諸国を広く支配し,現在でも,イギリス,アメリカのほかフランス,ベルギー,中国等の国々において採用されている。この主義の下では,被相続人の住所と個々の不動産が複数の国に分在しているときには,1人の死によって生じる相続問題が複数の法秩序に服することになる。このため,例えば,被相続人の住所地法上の相続人と不動産所在地法上の相続人が異なっていたり,被相続人が負債を残して死亡したような場合には,複雑で解決の困難な問題が生じる可能性がある。しかし他方,不動産がその所在地の社会制度や経済制度と密接な関係を有すること,および,当該不動産に利害関係を有する者の利益を考慮するならば,その相続問題を所在地法にゆだねることにも十分な理由があると考えられる。また,不動産物権に関しては,その所在地法によることが広く諸国の国際私法上認められていることから,相続分割主義によれば,不動産に関する物権の準拠法と相続の準拠法が一致することになるので,後にみる相続統一主義のもつ難点を避けることができ,権利の実効性が確保されるという長所を有する。

 相続統一主義は,相続を財産および身分の包括的な承継と見るローマ法の包括承継の原理を採る実質法に対応する抵触法上の立場とみることができる。この主義は,相続分割主義をしだいに圧倒して,19世紀後半にはヨーロッパ大陸の多くの国々を支配するところとなり,今日,イタリア,スペイン,オランダ,ドイツ,スウェーデンノルウェーデンマーク等で採用されている。この主義の下では,相続が単一の法により規律されるため,相続分割主義におけるような複数の相続関係が生じることがなく,相続問題の処理が簡明になされるという利点がある。しかし,他方,属人法が財産所在地法と一致しない場合に,例えば,相続準拠法によれば,不動産の所有権は登記がなくても,直接,相続人に移転するにもかかわらず,物権の準拠法である所在地法によれば,登記をしなければ相続人に移転しない場合には,登記をしない限り,相続人はその所有権を取得できないという結果となり,相続準拠法上の権利の実効性が,その限りで,そこなわれることになる。

法例26条は,相続を全体として被相続人の本国法にゆだねる相続統一主義を採っている。同条は,被相続人が生前に国籍を変更していたときに,どの時点に有していた国籍を基準にしてその本国法を決定すべきかについて明示していないが,死亡時の国籍に基づくことについては疑いがない。同条は,また,単に,〈相続〉と規定するのみで,どのような相続がそこに含まれるかも明らかにしていない。しかし,同条の相続には,〈およそ,世代を超えた財産的権利ないしは身分的地位の承継一般〉が含まれていると解釈されている。したがって,財産相続か身分相続か,あるいは,法定相続か遺言相続かの別なく,法例26条が適用されるのである。ただ,ここで注意しなくてはならないのは,相続の準拠法と遺言の準拠法との関係である。後者については法例27条に規定がある。このことから,遺言相続については,同条によるかのように考えられる。しかし,法例27条は,意思表示としての遺言そのものの成立とその遺言としての効力発生時期,遺言撤回の可能性等の諸問題に適用される法を指定しているにすぎないのであって,遺言の実質的内容となっている相続に適用される法を指定しているのではない。

法例26条は,相続準拠法を被相続人の本国法としているので,法例32条の規定する反致(〈国際私法〉の項目参照)の成否が問題となる。同条に定める反致は,外国人の本国法が準拠法として指定されたとき,その本国の国際私法によれば,かえって,日本法が準拠法とされているときには,その本国の国際私法に従って日本法が準拠法とされることを意味する。例えば,相続財産である不動産が日本にあり,被相続人の本国の国際私法が相続分割主義に従っているときには,当該不動産の相続については,所在地法としての日本法への反致が成立することになり,日本法が準拠法となるのである。この場合に,被相続人の住所が,その本国にあるならば,動産の相続については,日本法への反致は成立せず,これは本国法によることになるので,結局,動産と不動産はそれぞれ別個の法に従って相続されることになって,法例の採る相続統一主義は貫徹されないことになる。
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日本古代の相続は,大きくいって地位継承と財産相続に分けられる。

(1)地位の継承は時期により,また階層により異なった様相を見せている。まず奈良時代には,天皇の地位は嫡系継承(嫡子から嫡孫へ)が目ざされ,そのために間に何人かの中継ぎの女帝を挟みつつ,天武天皇の嫡系の子孫が奈良後期まで続く(皇位継承)。官人層については,継嗣令に明確に嫡系継承が規定されているが,それはもっぱら位階継承(蔭位(おんい))のためであって,中国流の祭祀相続・家長権を伴った実体としての〈〉の継承を意味するものではない。位階継承の背後に存在した現実の集団としては〈〉が想定される。〈家之名〉を継ぐことは〈祖名(おやのな)〉を継ぐことと同義であり,〈氏門(うじかど)〉を継ぐことであった。その氏上の地位は,嫡系継承の適用外たることが継嗣令に規定されており,実際の例についてみても,族長的地位の継承はかなりに広い範囲での傍系継承である。また庶人については,戸籍に嫡子注記があり,次代の戸主には嫡子をあてるというのが当時の法解釈である。しかし,実際には戸主の地位は主として兄弟継承によったことが,戸籍の分析より明らかにされている。また戸主の地位は直接には課役納入責任者としてのものであって,社会的存在としての家長は未成立であった公算が大きい。このように奈良時代の地位継承には,制度と実態のずれが見られる。

 そこで律令制以前についてみると,6世紀以降の確実な系譜によれば,天皇の地位は兄弟継承がなされている。貴族・豪族についても,族長的地位の継承は一貫して傍系継承であるので,上述の戸籍に見られる庶人の戸主継承の実態ともあわせ考えるならば,日本古代における地位の継承は傍系継承が一般的であったといえよう。さらに,古系譜に示されるところによれば,この期には,政治的地位の母方継承も広範に存在していた。ただしこうした例は,〈男女之法〉による父系継承の制度的確立によって,公的にはほぼ跡を絶つ。そして律令制の成立に伴い嫡系継承が導入されたのだが,それは庶民層においてはまったくの法的たてまえにとどまった。支配層にあっても,律令制初期には,官職,位階の継承とかかわる場で機能したにすぎない。皇位の継承も,天武天皇の嫡系は孝謙=称徳女帝でゆきづまり,光仁天皇以降はふたたび兄弟継承が繰り返されていく。貴族・豪族層の族長的地位が現実に嫡系継承となるのは平安中期以降のことである。

(2)つぎに財産相続についてであるが,この期の相続法である大宝令の戸令,応分条と,養老令の戸令,応分条には,きわめて大幅な相違点が見られる。これは従来,嫡子の単独相続から諸子均分的方向への修正とみなされてきた。しかし両応分条はその原理を異にしており,大宝令文は主として〈氏〉の財産の相続を規定したものと思われる。したがって,上述の地位継承における嫡系継承の理念に対応して,嫡子による一括相続を規定してはいるが,実際には,それは族長による管理統轄権の継承を意味している。この管理権の下で,他の成員には実状に応じた分有が認められていた。〈氏〉の財産の中では,奴婢と宅とがとくに重要なものである。戸籍の奴婢所有注記が,中国のように各戸の所有としてではなく,各個人の所有として記されていることは,こうした分有に基づく。ただし奈良時代中期には,〈氏〉の財産とは区別される個別産の成立もみられ,それは任意に処分された。養老令文にはこうした〈氏〉の財産相続法としての性格はなく,観念的色彩が強い。その中で支配層にとっての現実の財産にかかわる規定として,氏賤は氏上が相続し,功田功封は直系の男女によって相続された。後者は家の財産の形成につながっていく。

 大宝令文には女子の財産相続権の明記がない。しかしそこでの〈妻家所得〉は,特殊な財産分与としてのいわゆる持参財(持参金)ではなく,実質的には男子と同様に〈氏〉の一員たることに基づく分有である。したがってこの意味で女子の相続権も存在していたのであり,それは女子の子孫によって相続された。戸籍には,母から娘への奴婢相続を推定できる例がある。つまりこの期の支配層の財産相続は,男女ともに〈氏〉の一員としての資格に基づき,しかもそれを父方母方双方から相続しえた点に特質が存する。こうした相続原理は当時の婚姻とも大いに関係があろう。奈良時代の庶人の財産相続法については,大宝令の注釈書に〈均分〉とある以外は不明だが,平安前・中期の在地の諸階層の実際の処分例からは,ほぼ男女均分相続であったことが明らかにされている。嫡子優位の相続が広範に見られるのは平安後期以降のことであり,それも主として職の継承とかかわる財産についてである。したがって,一般的には男女均分相続的慣行が支配的であったといえよう。
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中世の相続制には,家督相続(継嗣相続)と財産相続の2種類がある。

(1)家督というのは,一門・一統の首長のことで,鎌倉幕府の盛時にあっては,その一門を統率しつつ,幕府に対する数々の御家人役の勤仕(ごんし)に当たった。この家督の地位を,一門の子孫らが引き継ぐことを,当時〈家督を継ぐ〉と表現していた。家督の立場は,その一門の本家の相続人がこれを継承するのを慣例としたので,家督の相続とは,また〈家〉の相続のことにほかならなかった。家を相続することを,その当時〈家を継ぐ〉とか〈家を承ける〉とか表現したが,それはその家に所属している家業の継承のことを意味した。家督の地位を受け継ぐ者を嫡子といったが,これには,出生と同時に,嫡子たる身分を取得する〈生得の嫡子〉と,生得の嫡子が存在しないか,なにかの事故でその相続ができないときに,父祖が改めてこれを定める〈取立の嫡子〉との区別があった。父祖に家督を譲与すべき実子らがいないときには,その親族あるいは他人の中から養子をたてて,しかるのち,これを嫡子とするのを慣例としていた。また,実子がなお幼少であって,家業を継承する能力に欠けているときには,後家が中継相続人としてその地位を一時的に継承することがしばしばみられた。鎌倉時代の文書をみると,女子(後家)にして,一族の地頭職をもつものがしばしばみえるが,これなどは,まったくそうした後家の中継相続の事例と見るべきものである。被相続人である父親が不慮にして死去したときは,母親(後家)が単独で,またはその子供たちとの協議のうえで嫡子を決めるのがふつうであったが,それでもなお決定をみないときには,幕府に訴え,その裁定を求めるということも少なくなかった。しかし,少なくとも父祖が生存している限りにおいては,家督をだれに定めるかはその父祖の一存にゆだねられているのがふつうであって,父祖の定めた決定に対しては,幕府といえども,これに干渉することのできない定めであった。しかし,南北朝・室町時代以降になると,この家督の制度は,しだいにすたれた。それはこのころ,家督の統率対象である一門・一族そのものが解体しはじめ,その一門を構成する各家族がしだいに独立するようになったためであった。

(2)つぎに,財産相続について述べる。鎌倉時代,所領を諸子にどのような割合で配分するかは,被相続人たる父祖の自由意思に基づいていたが,一般的には,家督の継承者が全体所領の大部分,ことに先祖伝来の土地(本領)を継承し,残りの部分を庶子がほぼ均等に分割するという形をとっていた。また,この所領処分の形式には,被相続人(父祖)が,その生前において処分する形の処分相続と,被相続人が処分せずして死亡した場合に行われる未処分相続との二つがあった。処分相続はさらに,当該所領が被相続人の生前に相続人のもとに伝えられる生前譲与と,被相続人の死亡ののちにはじめてその財産移動の効力があらわれるきまりの死因譲与との二つに分かれる。そのころ普通に行われていたのは生前譲与で,そのことは,ある人物が生前に譲与を行うことなく死亡して,そののちその一族内に所領財産をめぐる争いが生じたために世人の物笑いの対象になったという《沙石集》の一挿話などからも確かめられる。これに対して死因譲与は,被相続人がその譲状のうちに,自己の死後において財産所領が相続人のもとに移動する旨を特記した場合のみに限られていて,必ずしも一般的な譲与の形式ではありえなかった。この死因譲与が行われたときには,被相続人がその所領財産に対して有する権利は,その一期(いちご)(一生)のみを限りとする一期分となり,他方,相続人はその指定された所領に対して一定の相続期待権をもつ未来領主となった。生前譲与・死因譲与いずれの場合も,被相続人はとくに譲状を作成してこれに加判し,これを相続人に譲渡することが必要だった。その譲状の面には,どこの所領をだれに対して処分(譲与)するかという旨を記した譲与文言が記載されることを必要とし,その文言を欠いたときには,未処分扱いをうけるのが慣例だった。

 ところで,被相続人は,その処分所領をいったん相続人に譲与したのちにも,これを自由に取り戻す(悔返(くいかえし))ことができたのであり,そののち,彼が別人にこの所領を処分したときには,後者の処分が正しい処分と認められていた。こうしたことを,その当時,〈後判〉は〈前判〉を破ると表現していた。被相続人が,このように強い悔返権をもっていたのは,彼が当該所領の開発主である先祖の権利(本領主権)の継承者であったためであり,それに対しては,幕府といえども対抗する力をもちえなかった。

 未処分所領の場合については,未処分であるが遺言が行われた場合と,未処分にしてかつ遺言のない場合との二つがあった。遺言があったときにはこれに従い,また遺言なくとも被相続人の生前の意思が分明なときは,それに従うのがふつうであって,その際の遺言の執行人には,後家や嫡子が携わるのを慣例としていた。他方,遺言もなく,また被相続人の生前の意思も明らかでない場合においては,被相続人に後家があるならばその後家がその遺産の処分にあたり,後家も死亡したような場合には,嫡子がその遺産の配分案を作成し,そののち諸子の合議をもって最終決定をするのがならわしだった。

 しかし,以上のような財産相続の制も,南北朝,室町時代以降,嫡子単独相続制が一般的となるにしたがい,しだいにその意味を失っていった。
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(1)武士 室町・戦国期に名字の相続と所領(一跡)の相続が合して名跡(みようせき)相続の観念が生まれ,長男による単独相続が一般化した。江戸時代の武士相続はその後身で,相続には幕藩領主の許可を必要とするなど,家臣団の掌握統制を目ざす領主の厳しい干渉のもとに置かれた。江戸時代の武士の家は,主君から与えられた封禄(これを家督と称した)によって成り立っており,主たる相続対象は封禄であった。ほかにこれに付随して家名,奉公義務なども受け継がれた。家臣は封禄の再給を主君に願い出ることができるだけで,厳密な意味での相続権はもたなかったといわれるが,現実には,譜代の家臣の場合は,不忠不奉公でないかぎり相続願に許可が与えられるべきものと観念され,事実上相続権とみるべきものが存在した。これに対し新参者や足軽などは原則として一代抱で,相続権は認められなかった。相続形態は,江戸初期には主君の許可を受けて分知する分割相続もかなり見られたが,中期以降は長男子単独相続が定着した。妾腹の子は嫡出子より先に出生しても,二・三男として扱われた。当主が相続人なく死亡した場合,原則として相続が認められず,家が断絶した。養子による相続も条件付きで認められ,かなり行われたが,中には禁令にもかかわらず持参金目当てに町人や富農などの子弟を養子にし,これに相続させる例もあった。幕府および多くの藩では,相続に際し家禄を増減せず,そのまま相続させる世禄制をとっていたが,藩によっては相続の際,禄高を減少する世減制や,相続人が幼少もしくは養子であるとき,禄高を削減して相続させる幼少減知制,養子減知制などを採用したところもある。

(2)百姓 百姓とくに本百姓の相続は,幕藩財政の基盤をなす貢租の担当者が交替することであったから,同じ庶民である町人の場合よりも領主による干渉,規制が多かったが,その程度は領主により差があった。中には相続人の耕作能力を重視し,領主の許可がなければ相続できないとする藩もあったが,幕府や多くの藩では遺言相続が認められた。農民の主たる相続対象は田畑家屋敷,とくにその核心は田畑家督といわれるように高請地であった。相続慣行としては,江戸時代初期は分割相続が盛んであったが,やがて先祖伝来の田畑家屋敷を家産として家相続人(通常は長男,長男が耕作能力を欠く時は二・三男,養子,弟などがなることも多い)に包括承継させ,被相続人の取得財産は他子にも分与する家産単独相続が,最も一般的な相続形態となった。しかしなお,分割相続,末子相続,姉家督,妻による相続(主として中継相続)なども見られた。一般的な単独相続化傾向が,分地制限令の結果であるかどうかは問題がある。

(3)町人 町人の相続については領主法の規制はあまりなく,遺言や慣習にゆだねられたが,ただ紛争防止のため遺言状を作成し,町役人等に届け出ておくべきことが命ぜられた。町人の相続対象は金銀,店舗,家屋敷,屋号等であり,金銀家督と呼ばれて金銀がその中核をなした。分割相続も単独相続も見られたが,家産は家相続人が単独相続し,金銀,不動産の一部を他子に分け与える例も多かった。家相続人には長男が選ばれるのが通例であったが,家業経営能力を考慮して二・三男や養子が選定されることも多かった。女性相続人も認められたが,中継相続としてであった。
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財産,社会的地位,家名などの世代的伝達を一般に広く相続とよんでいるが,これには財産の世代的伝達である相続と,社会的地位(身分など)や職分,家名などの世代的伝達である継承とがある。日本において,前者は古くから財産相続とよばれてきたものであり,また後者は家督相続とよばれてきたものである。家督の相続は日本の家族制度の根幹の一つであった。また財産相続は主として土地にかかわるものであって家族の経済的側面において重要な問題であり,一方,家督相続は主として祖先をはじめとする家の祭祀にかかわるものであって家族の祭祀的儀礼的側面において重要な問題である。相続と継承は密接にかかわっており,この両者の分析を通じて,広い意味での相続の形態と意味を明らかにする必要がある。

 相続と継承をめぐる具体的な問題としては,財産や社会的地位など対象となるものの性格と分配割合,相続人の続柄,相続者の決定方法,相続の時期などがある。まず相続・継承となるものの性格については,分割が可能であるかどうか,また一つに限定されているかどうかが重要である。財産としての田畑山林などの土地は一般に分割が可能であるが,屋敷地とくに家屋は分割が不可能である。また家長としての地位や祖先の墓地・位牌などは一つに限定されるから子供のうちの1人に伝達される。したがって相続継承の対象となるものの性格は相続継承が一子のみに対して行われるか,多子に対して行われるかを決定するから,財産相続における均分相続と不均分相続の2形態を生じる。相続継承者の続柄は,これまでの相続継承研究の中心的課題であり,さまざまな類型化が試みられてきたが,長子(ちようし)相続(長男相続),姉家督(あねかとく)相続(初生子相続),末子(まつし)相続,選定相続の4類型に分けるのが妥当である。このうち,姉家督相続は男女にかかわらず初生子を相続者とするものであり,また選定相続は親の指名や子供たちの相談で相続者を決定する方法である。長子相続と姉家督相続は相続者が規定的に決定されているのに対して,末子相続,選定相続はあらかじめ相続者が決定されておらず,相続の必要が生じたときに状況に応じて相続者を決定する。この両者は地域的分布も異なっており,長子相続は全国的に分布するが,姉家督相続は主として東北地方に,また末子相続や選定相続は主として西南日本に分布している。また財産相続については女性が結婚の際に持参財として田畑を相続する例が知られており,女性の相続も無視できない。

 相続者の決定方法には,任命,選択,強制,占いなどさまざまな方法があるが,日本の相続については制度的に規定されたものと,選択的に決定されるものとの差が重要である。さらに相続の時期は,隠居に関連して親の生存中に相続する形態と親の死後に相続する形態とがある。これら相続継承をめぐる諸問題は家族や親族のあり方に深くかかわっており,相続・継承形態の差異は家族や親族の構造の差を意味している。
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封爵の相続などの公法的関係による相続という特別の場合と,財産相続などの私法的関係による相続との2通りがある。

特別の場合を先に述べておくと,封爵は歴史的変遷はあるが少なくとも漢代以降は栄典であり,法上多少の特典を与えられ,爵位を世襲する。その性格上,単独相続であることはいうまでもない。なんらかの形で合法的に後継者が存する限り爵は奪われない。爵の種類は唐代を例にとると,国王,郡王,国公,郡公,県公,県侯,県伯,県子,県男の9等である。この爵位につき付与される〈食封(しよくほう)〉は後継者2,他の兄弟1の割合で分割相続する。後継者の基本は嫡妻(正妻)の長子で,これを〈嫡子〉といい,嫡子が死亡したり,刑を受けたり,病があったりすると嫡孫が後を継ぐ。嫡孫がなければ嫡子の同母弟を,それもなければ庶子,というように定められた順位で〈嫡〉の地位につけて後を継がせる。以上はしかしあくまで爵位に関連した制度である。

相続という意味を1個の人間の死によって,その人格に所属していた財産が別の他の人格,例えば妻や子に移転する,とすると旧中国の相続はいささか情況を異にする。一個人の財産の所有という法現象は,当該社会の,とくに〈家〉の現実の情況と法上の概念に深く関係しているために,相続といっても独特の様相を帯びるわけである。近年この分野の研究で滋賀秀三《中国家族法の原理》(1967刊,75再版)が大きな貢献をした。以下できるだけそれに準拠して述べよう。まず〈家〉は広義では〈宗〉と同じで,〈宗譜〉(一族の系図)を〈家譜〉という類である。狭義では法上の用語としても用いられる〈同居〉〈共財〉〈同居共財〉〈同爨(どうさん)〉の語が示すような家計を共にする生活共同体である。かような家を法上〈戸〉ともいい〈戸籍〉を編成するが,家と戸とは必ずしも一致しない。家は社会的現実としての存在で,戸は国家権力の統治上の一単位である。中国の家は,あくまで自己の血筋につながる自然的な結びつき,すなわち姓を同じくする個人の結びつきが核である。日本のように,人の要素とは別に家の価値が抽象されるのとは違う。親族外から養子を迎えて〈家名〉を継がせるなどは中国では許されず,養子は必ず同姓から迎えねばならないのは血筋のつながりという人の要素が核心であるからである。このような人の集団の生活様式が〈同居共財〉なのである。

 この同居共財の家の中に祖父母,父母,子,孫などが同居し,一個の財産を共同して維持している。一家の働き手による収入はすべてこの一個の財産に入れられ,たとえ遠くで出稼ぎしていても,同居であり共財である関係からのがれられず,収入は家に入れなければならない。父が死亡しても,この財産は息子たちによって管理され維持され続け,一家の共財の関係は少しも変わらずに続けられる。息子たちは彼らの収入をやはりこの一個の財産に入れる。通常の意味の相続のように父の死によって,彼の財産が相続人に移転し相続が開始されるという事件が起こらないのである。もしこうした同居共財の関係を絶ち切ろうとすれば家産分割しか方法はない。こうなるともはや〈分割〉の問題であり〈相続〉の問題とはいえないこととなる。しかし,上のような意味で相続は開始されることはないにしても,子が親の財産を引き継いでいることには違いないのだが,それは同居共財の関係の中で行われていると考えるしかない。

 今,XにA,B2人の息子がおり,Xの死後同居共財を続けている。ところがAに息子がなくBに複数の息子がある場合AはBの息子を養子として迎えるのが普通である。たとえAが死んでからでも養子を立てなければならない。家産分割が行われれば,この養子はAの分を引き継ぐことになるが,一個の共財の家という点からすると同じ家の中での息子のやりとりにすぎない。一個の財産に変動がないのにどうして養子を立てなければならないのか,そもそも養子は何を引き継ぐのであるか,というと,後継者は人そのもの(人格)を継ぐ必要があったからで,Aは死後,同姓のものから祭祀をうけることができ,Aが祭らねばならない先祖の祭祀も続けることができる。この祭祀に伴って財産は引き継がれる。こうした関係を〈承継〉といい,やはり独特の相続の形である。承継の形が何を根拠に存在するか,という点については,難しい問題を含むが,滋賀秀三の《中国家族法の原理》は中国人の相続観念の根底に,父と息子は一つの生命(血筋)の連続であるという観念が存在するとする。生命は絶やすことはできない。

 ここでもし承継資格者が存在せず,つまり息子もなければ同姓の中から養子を立てることもできないで後が絶える(〈戸絶〉という)ときに財産はどうなるのか,という時点ではじめて娘が登場するのだが,娘は〈宗〉を承継することはできない。そこで一種の財産の清算が行われる。戸絶の財産の女子分は不安定であり,制度の変遷もあって承継のように確固たるものではない。出嫁すれば財産の分与にはあずからないのが基本であって,こうした娘の相続関係は承継ではなく〈承受〉という。娘は出嫁すれば夫の宗に帰属するのみであった。妻となれば,夫が死亡し息子もいなければ財産はすべて妻の所有にかかり,養子を迎えて共財の関係を立てることとなる。

 父が死亡し,兄弟が共財を続けているうち,なんらかの理由で共財関係を絶たねばならなくなると,家産分割が行われる。共財関係の消滅であり,父の死の時期とは無関係である。父の生存中,家産は法律上は排他的に父の単独所有であるが,それにもかかわらず死後残されるであろう財産を遺言によって左右することはできない。父の死後は家産はあくまで兄弟の共有であり,祭祀も共同で行う。むろん家長として年長者が定められるが,家産処分は父とちがって年長者単独ではできない。かかる家産の分割の原則が,古来有名な〈均分〉である(均分相続)。正妻の子たる嫡子も妾の子たる庶子も同じ均分である。均分は少なくとも漢代以来の大原則であり,法上確認できるのが唐の戸令・応分の条の〈諸の分つべくんば,田宅及び財物,兄弟均分せよ〉というものである。そして均分は近年に至るまで,固く守られた。若干の例外として応分の条は未婚の男子に対して〈聘財〉という結婚費用を与えると規定するが,既婚者はすでに家産から費用を受け取っているための処置である。また法の上に現れないが,祀田などといって,長子に祭祀費用分を別に分ける地方がある。

 これは兄弟による共同祭祀行事の管理費と考えられ,長子の身分上当然に与えられるものではない。宗法では尊卑長幼の別ははっきり主張され,嫡長主義を強調するが,こと家産分割には均分原則が固く守られた。父の人格は各人平等に承継されることからくるのである。長子分というのは,家産分割の上にかすかに表れた上代の嫡長主義の痕跡としなければならない。
家族法
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高麗時代末から李朝時代の初めにかけては子女均分の財産相続が一般的であり,15世紀末に完成された《経国大典》(1485)においても,男女および出生順位に関係なく均分の原則が規定され,このほかには祭祀継承者に対してのみ5分の1の加算が認められていた。しかし父系血縁が重視され,祖先祭祀の継承による系譜の継嗣が強調されるに伴い,祖先祭祀の対象が拡大され,しかも嫡長子に奉祀が集中するようになると,嫡長子に対する祭祀のための財産相続が大幅に加算される傾向が顕著になった。こうして李朝時代後期には均分相続の原則は実質的に崩れはじめ,李朝末期には男子のうちでもとくに長男を優待した相続慣行が一般化していた。この男子優待の慣行は日本統治時代を経て,今日の大韓民国の民法の戸主相続と財産相続の規定にも引き継がれている。朝鮮民主主義人民共和国では,男女平等権法によってこのような慣行はなくなったとされている。
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インドのヒンドゥー家族は父系制であって,家父長は古来家族成員に対して高い権威をもち,日々の生計や成員の婚姻など家族のあらゆることがらに責任をもつとともに,家における宗教祭祀を施行する義務をもった。このため,相続は財産のほかに家長権と祭祀の継承を意味し,あとの2者は財産の分割相続とともに分かれた。祭具は分割できないものとされ,ふつう長男が継承したが,祖先の祭壇も墓もなかったので,祭具は決して多くなかった。ヒンドゥー諸王朝の王位も分割されず,1人の王子が継承するのが一般的であり,その王系は長子に限られなかった。同様に土地の領有権などでは特殊な相続が行われた。相続法はダルマ・シャーストラ(法典)とよばれた文献に詳しく規定され,それはバラモンなどの上層カーストの規範であって,各地方の集団にはそれぞれの慣習が行われていた。ヒンドゥー法はこれらの法典に記された法をさしたので,それに基づいて以下説明する。

 父の財産は死後あるいは生前に息子たちの間で分割され,その際には均等分割が多かったが,長男が特別の分を受けることもあった。息子のいない場合には,妻,娘,兄弟などの一定範囲の親族が相続し,相続順位は細かく定められていたが,王が没収したことも少なくなかったようである。家族成員には特有財産が認められ,家産によらず学識などによって取得した財産は特有財産とされて,所有者が処分権をもっていた。妻の特有財産はストゥリー・ダナとよばれ,これは婚礼のときなどに実父や夫から贈与された財産であって,娘がこれを相続した。この相続規定は《マヌ法典》などのヒンドゥー古法典に記されたものである。しかるに8世紀以後になると,バラモンや領主などの間では,息子たちが婚姻後も同じ家で共同に生活するいわゆる合同家族joint familyが広く見られるようになった。そこでは家族の男の成員は家産を共同に所有し,年長者の家長がこれを管理した。家産についての権利は出生によって生まれるが,男性成員の間で持ち分を分けることなく共有し,家長は家産の売却・贈与にあたって成年の成員の同意を必要とした。成員は家産分割の請求権をもち,人数に応じて分割されたが,分割前に死亡すると,彼の権益は息子に継承されるのではなく,残余の成員に継承された。この家産とその分割・継承の法は12世紀前半のデカンで著作された《ミタークシャラー》と題する法律書で確立し,それがインドの大部分の地方に広まった。しかしベンガルでは,これとは異なって,11世紀の法律書《ダーヤバーガ》の法が行われた。それは,父の存命中には息子たちは財産分割の請求権がなかったが,父の死後息子たちあるいはおじ・おいで合同家族が形成されると,各人の持ち分が認められ,その分は各人の息子が相続するものであった。この二つの法はイギリス支配下の裁判所で合同家族と相続の法として採用され,判例が積み重ねられて法が確立した。

 しかし20世紀に入ると,女性の地位向上を叫ぶ運動が高揚し,それに応じて1937年の制定法によって妻の相続権が認められ,ついで56年にはヒンドゥー相続法が制定され,法は大きく改正された。それによれば,相続人は息子と並んで妻,娘,母となり,この女の相続人がいる場合には,従来の法によって財産が継承されるのではなく,相続人の間で均等に分割することになった。これらの相続人がいない場合の相続順位も〈自然の愛情〉を基準として改められた。それと同時に,妻の財産について娘と並んで息子と夫が相続することとなった。この法律は合同家族自体の法を改正しなかったが,男女平等の原則を採用して相続法に大きな変化をもたらした。このほか,インドには母系制家族があり,とくにケーララのタルワドが有名であったが,近年その家族制度が法律のうえで廃止された。なお,ムスリムについては下述のイスラムの相続を参照。
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イスラム以前のアラビアの部族社会では,戦力とならない幼児や女性の人格は認められなかったから,相続に関与できるのは家族を守る義務をもった父系男性親族(アサバ`aṣaba)のみに限られていた。

 ムハンマドはこの部族社会に根ざした相続に幾多の改革を加えた。その顕著な点は,孤児と寡婦に財産権を認め,女性に相続権を与えたことである。ただし,女性の権利は男性と同等ではなく,男性の2分の1とされ,死者に男性親族が多い場合には不利な立場に立たされた。イスラムには長子相続制はなく,同位の親族の間では均等に分けられる。ムスリムは財産の3分の1を遺言によって処分することができる。残りの財産から葬式費用と負債を差し引いたものが相続の対象となる。被相続人を殺した者と異教徒は相続人になれないが,胎児の相続権は認められる。国籍にかかわらず,ムスリムは異教徒の相続人となれないのが原則である。

 相続人は大別して,(1)コーランにより割当てを決められた者,(2)アサバ,(3)その他の母系親族の三つに分けられる。(1)のコーランによる〈割当相続人〉は,(a)娘,息子の娘,(b)父母,父方祖父,父方・母方祖母,(c)全血姉妹,父方半血姉妹,母方半血兄弟姉妹,(d)寡夫・寡婦の4種であり,コーラン4章11~12,176節によって,割当てが(遺産の2分の1,4分の1,6分の1,8分の1などと)明記されている人たちである。しかし,彼らの多くは女性であって,共同で,または他の種類の相続人とともに相続する場合は,事実上排除されてしまうことがあった。彼らは2次的相続人であって,アサバへの配分が終わった後まだ残余があった場合にのみ請求権がある。しかし夫または妻の割当てはつねに確保され,夫は妻の財産の2分の1(共同相続人があれば4分の1)を,妻は夫の財産の4分の1(共同相続人があれば8分の1)を相続する。この分野の相続人の地位は低いとはいえ,このように分配率を明記できたことは,当時のメディナがかなり進んだ貨幣経済に基づく商業社会として栄えていたことを裏付けるものである。

 (2)のアサバである父系男性相続人は,(a)卑属,(b)尊属,(c)全血兄弟,父方半血兄弟とそれらの子孫,(d)全血伯・叔父,父方半血伯・叔父およびそれらの子孫たちであって,彼らの相続権はコーランに明記されているわけではない。しかしコーラン2章180節,4章34節に基づいて,彼らは前時代に引き続き優位に立っている。たとえば,祖父はアサバとして死者の兄弟と同額を受け取ることができるが,同時にほかに〈割当相続人〉がある場合は,〈割当相続人〉として6分の1の割当分にも請求権があり,どちらか有利なほうを選択できる。死者に娘と息子がある場合,娘は〈割当相続人〉を失格するが,この場合彼女たちはとくに〈女性アサバ〉と呼ばれ,息子の2分の1の相続権は確保される。すべての女性は男性アサバと共同相続する場合は,〈割当相続人〉としての権利を失う。このようにアサバはイスラム以後も主要かつ実質的な相続人であって,遺産はまず彼らの間で分けられ,残った場合に〈割当相続人〉に配分される。アサバがいない場合,〈割当相続人〉に割り当てた後の残余は,国庫bayt al-mālに入り,アサバも〈割当相続人〉もなく,国庫もシャリーアで運用されていないときに,初めて(3)の母系親族に分けられる。

 以上は正統派であるスンナ派の法の一般法則であって,部族的色彩を濃く残していることがうかがえる。これに反し,シーア派の法ではコーランを独自に解釈して別の相続体系を組み立てた。まず親族は次の3種に分類される。(1)卑属と父母,(2)兄弟姉妹とその子孫,祖父母,曾祖父母,(3)伯・叔父,伯・叔母,大伯・叔父,大伯・叔母およびそれらの子孫(いずれも父方母方とも)であって,この順位は互いに犯されることがなく,さらに夫または妻への分配はつねに確保される。しかし実際の運用は複雑であって,適用に当たっては,代理または取戻しの原則を援用して家産の分散を防ぐのが普通である。たとえば遺族が娘1人と従兄1人の場合,娘は〈割当相続人〉として2分の1を取り,さらに取戻権を行使して残りの2分の1も獲得する。このようにシーア派法の相続は,むしろ単一家族に向いているようにみえる。

 このような厳重でかつ融通性のない相続制度から生じる不公平・不便を救うために,種々の特別立法や便法がとられている。富豪は相続による家産の細分を避け,世襲財産を確保するため,不動産をワクフとして,その収益・用益権を子孫に引き継ぐ方法をとった。また,近時イスラム社会の都市化が進み,部族を離れた単一家族が多くなるにつれ,イスラム国家の相続法は単一家族を保護する傾向をもつようになった。たとえば,エジプトやスーダンでは,許されている3分の1の遺贈分を超えない範囲で,相続人の中の特定の者に遺贈することを許している。チュニジアでは1959年に部族的色彩の薄いマーリク派の理論を援用し,単一家族保護の相続規定(付則)を公布した。モロッコやパキスタンの立法も同様の傾向にある。
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相続法は,土地制度および家族制度のあり方によって国ごとにその内容,性格を異にしている。歴史的沿革を見るならば,とくにヨーロッパ大陸諸国においてはローマ法ゲルマン法の二つの淵源に由来する諸特徴が織り混ぜられて今日の相続法を形成していることが認められる。

ローマ法

ローマ法上の相続は,本質的に遺言相続である。それは,遺言による相続人の指定と,指定相続人への全遺産の帰属の二つを原則とし,そのしくみを通じて家長の人格的地位の承継が実現される。家長に属した全財産がその形態・性質・由来をとわず指定相続人に一括して移転するのはその者が被相続人の地位に没入してその人格を承継したことの一効果である,と説明される。

 被相続人が遺言で相続人を指定しない場合には,法定相続が行われる。十二表法では,第1順位相続人たる卑属のみを相続人heresとよび,第2順位の傍系親と区別した。卑属は,自権相続人suus heresとして年齢・性別を問わず全員が平等に相続し,それぞれが一家を創設することになるが,これは遺言がない場合であって,遺言によって相続人が指定されれば,上記の原則に服するのである。ただし,自権相続人については,遺言の中で相続人に指定するか廃除するかを明らかにしなければならず,家男についてこの点の脱漏があると遺言は無効となって法定相続が開始するものとし,その他の自権相続人の脱漏の場合には一定割合の相続分与を要求することができた。

 他方,遺言者の卑属,尊属,同父母兄弟姉妹など近親に財産をなんら与えない遺言を制限するため,受益が無遺言相続分の4分の1(義務分,のちにユスティニアヌス帝法では2分の1ないし3分の1)に達しない場合にその補充を請求することが認められた。義務分は,遺言の自由を前提とした債権的な補償請求権であって,ゲルマン法起源の遺留分とはその性質を異にしている。

ゲルマン法

ゲルマンの相続法は,遺言の自由を知らない法定相続であった。土地や住居や生産用具が家共同体に全一的に帰属したとみられる初期ゲルマン社会では,相続は独自の問題となりえず,例外的に個人に属すると観念されたものも死者分として副葬され,継承の対象とはならなかった。しかし,やがて家共同体の弛緩によって財産の人的帰属が意識されるようになるにしたがい,人の死亡に伴う財産の承継として相続の観念が形成されるようになった。それは,家共同体に由来する財産の承継として,いくつかの特徴をおびていた。第1に,相続は,血縁に従ってのみ行われた。一定の血族(息子・娘,父母,兄弟姉妹)がいわば生れながらにして相続人となるのであって,選定ないし指定されるのではない(法定相続主義)。第2に,〈死者が生者をして相続せしめる〉,すなわち,相続によって遺産の占有をただちに取得するが,これは家共同体に由来するゲウェーレの観念によるものであった。第3に,遺産は,その由来,性質等によっていくつかの群に分かれ,それぞれについて相続権を有する血族に帰属した。ローマ法でみられた全財産の無差別承継という観念はなく,動産と不動産,不動産の中でも封地と自由地とでは承継者も承継の方法も異なっていた。一般的にいえば子による平等相続が基本であったとしても,それが適用される範囲は限られており,たとえば不動産については,男子のみが相続し,かつ,封地財産については長男子が優越的な相続権を有していた。

 ゲルマンの古来の考え方では,配偶者は血族でないため相続人となりえなかった。これに加えて,夫婦財産関係が財産共同制をとるようになると,妻は共同財産について持分を有し,夫の死後子との間で共同制が続く過渡期に管理収益権を有したため,共同財産持分権と別個に配偶者に相続権を付与する必要は少なかったが,血族が存在しない場合など相続権を認められる場合もあった。また,地方特別法上では,法定分portio statuariaとよばれる妻の取り分(動産,遺産の全部または一部の用益権等)がさまざまな形で認められていた。財産承継に関するゲルマン法的観念,すなわち,配偶者は共同財産の持分権者であり,その過渡的継承者であっても,原則として相続人ではなく,終身の用益権者にとどまるという考え方は,のちの大陸諸国の相続法に基本的な影響を与えた。

 ゲルマン法には,遺言自由の観念は存在しない。ただし,教会への死因贈与は早くから奨励され,その結果,血族の相続期待権との調整(遺留分と自由分の区別)がはかられるようになり,中世においてはさらに貴族家系において相続契約がしだいに行われるようになるとともに,一般に撤回可能な死因処分としての遺言が限られた自由分の範囲で漸次普及するようになった。したがって,ゲルマン相続法は,単純な法定相続ではなく,死因処分を許容しながらも基本的に遺留分によって保障された法定相続である。そこでは,遺留分は債権的権利ではなく,相続分の核心をなす物権的権利である。

フランスについて見るならば,ローマ法に従った南部成文法諸地域の相続法とゲルマン法に属した北部慣習法諸地域のそれとの対立がアンシャン・レジーム下の法のあり方の基本的特徴であった。1789年の革命は,相続法の全国的統一をはかり,その内容の近代化を進めるうえで最大の画期をなし,その成果は,1804年のナポレオン法典に継承された。まず,封建制の廃棄によって封地と自由地の区分が否定されたことから,財産の性質・由来等に基礎をおく相続原理が廃止され,他方,長男子相続権が否定されて男女平等の共同相続原理に一元化された。他方で,死因処分は不平等を形成し封建制を復活させる方向で用いられるという危念と,遺言の自由が交換の自由を中核とする所有権の自由からの当然の帰結ではないという認識から,厳格な遺留分によって保障された法定相続制が採用された。また,夫婦共通財産の持分権者である配偶者は,相続の域外におかれ,終身の用益権を付与されたにとどまる。このようにして,相続法の統一と近代化は,ローマ法とゲルマン法の折衷として達成されたが,より子細にみると,ゲルマン相続法の諸原理をローマ法的な一元的所有権の観念によって濾過し,体系化したものがナポレオン法典相続法であった,というべきである。
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形式上は,私有財産制度が発達した社会において個人の自由意思によって相続が行われるのを理想とするが,現実には,主として親族関係の中で法的・社会的規制をうける傾向が強い。財産相続に限らず,身分相続などの地位の継承まで拡大してみれば,さらにその傾向は強くなる。すなわち,相続・継承は各社会がもつ伝統的な決定原理に従って行われるのであり,それゆえさまざまな形式がみられることにもなる。

 相続をめぐる社会関係はきわめて多様であるが,代表的なものとして単系出自原理が支配する社会における相続・継承の形式があげられる。単系社会では,父系または母系いずれか一方の系譜をたどって個人と特定祖先を結ぶ出自のラインが形成されている。子供は自動的・生得的に父方(父系)または母方(母系)の出自集団に帰属し,集団成員のもつ権利・義務を与えられ,それらはさらに次の世代へと継承されていく。単系社会における相続は,成員権・財産権などとともに明確な出自原理に基づいて,父系社会では父から息子,母系社会では母から娘という形の,一貫した流れの中にあると考えられる。しかしながら,こうした理念型と一政する単系社会はそう多くみられるわけではなく,形式的に単系と見える社会でも内容は複雑な様相を示している。とくに母系社会の場合,実際には母から娘へと継承されるケースはきわめてまれであり,むしろ母の兄弟から彼女の息子へ渡されることが多い。また,一方のラインのみを重視するといっても,他方をまったく排斥するわけではない。その極端な例として,ブラジルのアピナエ社会の平行系,すなわち男子は父方,女子は母方の集団に帰属する出自の形式,あるいはナイジェリアのヤケ社会のような二重単系,すなわち父方から神聖な牛などの財産,母方から世俗的な財産を相続するという形式などが挙げられる。これに対して,明確な出自原理がみられず,出生時などに集団帰属について自由な選択が許容されている社会も存在している。もちろん選択の許容度には幅があり,一系性が保たれ,出自ラインは形成されているがそれがいずれか一方に限定されず,父系,母系が混在している場合から,まったくといってよいほどの自由裁量に任されるケースまで多様である。自由意思に基づく相続はこの極端な例である。さらに,一つの社会に異なった相続原理をもつ集団が共存している場合さえある。

 相続は,親子関係を軸とした集団の超世代的連続をはかる重要な要因であるが,親子関係の前提となる婚姻関係は多く異集団間に成立する(=外婚制)。そこで,婚姻で結ばれた2集団間に成立する姻族関係と,婚姻の結果生まれる親子関係との間の本質的な矛盾が,相続にさまざまな葛藤を加えている。とくに財産を母の兄弟から相続する母系制社会におけるおじ-おい関係と,実際に家族を構成している父親-息子関係との矛盾はその典型である。また同じ父系社会のように見えながら,婚姻によって女性の集団帰属を変える日本と,原則として帰属に変更のない韓国(朝鮮),中国などの例は,相続を決定する出自原理と婚姻関係の矛盾に対する社会の対応の違いと理解することができよう。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「相続」の意味・わかりやすい解説

相続
そうぞく

広くは、死亡その他の事情によってその人の財産上の法律関係を中心とする法律上の地位を、主として親族関係にある者が受け継ぐことをいう。その形態は、社会により、また時代によりさまざまである。

[高橋康之 2016年5月19日]

相続制度の諸形態

単独相続と共同相続

財産の大半が氏族や家に属し個人の財産というものがほとんどなかった時代には、相続は家長としての地位の承継、祖先の祭祀(さいし)、家名の承継という面に重点が置かれ、財産の相続はそれに付随するものと考えられた。そのような相続制度のもとでは、相続人は必然的に単独であることを要求される(単独相続)。だれが相続人となるかは、歴史的、地理的に諸種の形態がみられる。古代ローマでは、遺言によって指定された相続人が家長としてその地位と家産を承継するのが原則であった(遺言がない場合には無遺言相続として共同相続となる)。単独相続がもっとも厳しく要求されたのは、封建制のもとにおける封地の相続についてであった。中世ヨーロッパでは、主君と家士との間で臣従の契約が結ばれると、家士は主君に対し軍務を中心とする忠誠の義務を負うと同時に、封地の授与を受けた。この封地は、貴族の体面を保つためと、忠誠義務履行の物質的保証であることから、不可分のものと考えられ、相続に際しては多くの子のうち家士としてもっともふさわしい者1人がこれを受け継ぐことが要求された。その結果、長男子の単独相続制が生まれたのである。日本でも事情は同じであって、中世以降、武士の相続は、家名の承継の観念と相まって、長男子の単独相続が行われた。もっとも、家産の分散を避けるために、家業の基礎となる財産(田畑、商店など)について単独相続の形をとる必要のあることは、武士以外の庶民においても同様であった。その場合は、長男子の単独相続ばかりでなく、最年長であれば女子でも相続できる姉家督相続や、末子だけが相続する末子相続のような慣行もあった。近代になって氏族・家が分解し、財産も個人の私有財産として意識されるようになると、相続は夫婦・親子といった小さな範囲の近親者の間における純然たる財産の承継という性質をもつことになる(財産相続)。この場合には、遺産は一定の順位の相続人間に平等に分配されるのが常則である(共同相続)。とくにフランス革命は、長男子相続制を維持してきた封建制度を根本的に廃棄して、平等主義を唱え、相続における諸子均分主義を確立した。

[高橋康之 2016年5月19日]

自由相続主義と法定相続主義

以上の類別のほかに、相続には自由相続(遺言相続)主義と、法定相続主義の二つの形態がある。自由相続主義とは、被相続人(死者)の主として遺言による自由な財産処分を広く認める主義であり、法定相続主義とは、だれが相続人となるかを法律で定める主義をいう。人は生前に自分の財産をどのように処分するかの自由を有するのと同様に、死後の財産の処分についてあらかじめ定めておく自由もあるというのが自由相続主義の根拠であるので、一般的にいえば、自由相続主義は個人の私有財産の自由処分を認める比較的近代の所産であるといってよい。しかし他方において、遺言は、古代ローマの家長の指定相続や、封建時代の貴族の家産の維持のためにも用いられた歴史をもつので、そのような面から遺言による相続に反情的な社会もあるなど、自由相続主義をとるか法定相続主義をとるかはその社会のさまざまな要因によって左右される。イギリス、アメリカは遺言相続が、フランス、ドイツや日本では法定相続が中心となっているが、自由相続主義をとる場合も補充的に相続人を法定する必要があり、また法定相続主義をとる場合も多かれ少なかれ遺言の自由が認められているので、両者の差異は見かけほどではないともいえる。なお、法定相続のたてまえと遺言の自由とを調和させるために遺留分の制度がある。

[高橋康之 2016年5月19日]

相続人の範囲

相続が家産の維持継承を主たる目的とする社会では、家長となるべき相続人は、被相続人の血族のなかから広くこれを求める必要があった(日本の家督相続では血族関係のない他人が家督相続人になることすらあった)。共同相続が行われる場合でも、かつては死者の財産はできるだけ死者の血族に相続させようという考えが支配的であり、たとえば1804年のフランス民法では、被相続人の12親等の傍系血族まで相続人となる資格が認められてきた。しかし、大家族が解体し親族間の連帯関係も薄れ、生活が小家族中心に行われるようになってくると、このような制度は「笑う相続人」(被相続人の死によって泣くはずの相続人が、遺産が転がり込んで笑っている状態。そのような者に相続させる必要はないことを意味する)を生むばかりだという批判を受け、今日では相続人となりうる血族はきわめて狭い範囲に限定されてきている。

 ヨーロッパ諸国の相続法は、血族相続という観念が強く、配偶者は相続から除外されるか、きわめて劣った地位にたたされるかのいずれかであった(もっとも、夫婦共有財産制をとっている社会では、夫婦の一方が死亡すると共有財産が清算されることによって配偶者は分け前を得ることができる)。しかし、現代社会では、相続は遺族の生活保障であるという性格を強めてきており、その面から配偶者の相続権はしだいに強化される傾向にある。キリスト教国では、正当な婚姻によって生まれた子でない非嫡出子(嫡出でない子、婚外子)は家族メンバーたりえず、これを相続から除外するか、きわめて劣悪な地位に置くことが長い間行われてきたが、子の平等化の動きのなかで、1960年代以降、相次いで非嫡出子は嫡出子と平等の相続権をもつという立法がなされた。日本は、こうした流れに反して、非嫡出子に平等な権利を認めてこなかった。しかし、2013年(平成25)9月4日、「(2001年(平成13)7月に死亡した被相続人の)遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件」において、最高裁判所は、大法廷の決定によって、「平成13年7月当時においては、立法府の裁量権を考慮しても、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべき」であり、嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定める民法900条4号但書は、「遅くとも平成13年7月当時において、(法の下の平等を定める)憲法14条1項に違反していた」とした(民集67巻6号1320頁)。この決定を受けて、同年、同号但書のうち、非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする旨を定める部分が削除され、非嫡出子に嫡出子と同等の相続権が与えられた。

[高橋康之・野澤正充 2016年5月19日]

日本の相続制度の変遷

推古(すいこ)天皇(在位592~628)以前の上代は神の支配する時代であり、その前期である弥生(やよい)文化の時代(前2、3世紀~後2世紀ごろ)には、氏上(うじのかみ)の地位の相続は火の相続であったが、中期(3、4世紀ごろ)には、相続の目的は氏神(うじがみ)の祭祀権の相続に変わった。氏上は氏神を祭り、神がかりの状態で神意を宣(の)ることによって、氏を支配できたからである。後期(5、6世紀ごろ)には神の威力は衰えて、各氏上の地位は天皇によって認められることが重要になったので、ここに各氏上が天皇に対して負う業(わざ)が相続の主たる目的となった。この業の相続が明治民法の行われるまで、日本の相続の中心観念であった。当時、氏の名称はその業の名をつける例だったので、ここに氏の名相続(祖名相続)の観念も生まれた。相続人の選定については、前・中期では神意によることも行われたが、後期になると主として被相続人の意思によることになった。

 律令(りつりょう)時代の上世の相続には、継嗣令(けいしりょう)による相続と戸令(こりょう)応分条による相続とがあった。前者では、継嗣(嫡子)は、大宝(たいほう)令によれば、蔭位(おんい)(父祖のお蔭(かげ)により子孫に位を賜る)の形での位階の相続人であったが、養老令では、中国流の祖先崇拝を中心とする祭祀の相続人に変わった。後者は財産相続であり、養老令の規定では、遺産は被相続人の意思が分明のときはそれによったが、養老令には分明の証拠がない場合の法定相続人とその相続分が定められている。

 中世では、武士については本家および分家よりなる一族の上首である家督が生まれたが、その地位の相続は結局本家の相続に帰着する。家の相続人は嫡子とよばれたが、嫡子は家業(武士については主人への奉公)の相続人であり、嫡出長子が嫡子となるのが普通で(長子相続)、これを「生得嫡子」とよんだ。財産の中心は所領で、生前に諸子に譲与するのが普通であったが、分割相続を続けると、家領が細分化し、家の実力と名声とが衰えるので、内部的には分割しながら、外部的には総領(普通は家督)が全体を知行するようにみせる総領制が前期(平安時代後半期)の末ごろ発達した。後期(室町時代)になると総領制も衰え、長男が単独で相続する単独相続制が発達した。室町時代には、また名の相続の観念が発達し、家の相続のことを名字(みょうじ)の相続とよんだ。

 近世前期(戦国時代)には、武士の相続法と庶民のそれとが分離する傾向を示したが、江戸時代に入ると、両者ははっきり区別された。武士の相続は家名相続の観念と結合した封禄(ほうろく)の相続(それは家業すなわち奉公によって支持される)であり、長男の単独相続制であり、また相続とはいうものの、被相続人の願い出による封禄の再給にほかならなかった。庶民の相続では、家業の相続の意味で、農民では田畑屋敷の相続、商人では営業に必要な家屋(店)および金銀の相続が行われたが、地方によって相違はあるものの、一般的には、分割相続から単独相続へと移った。庶民には名字はなかったから、家名相続の観念はなかったが、これにかわるものとして、襲名があり、商人の間では屋号の相続が行われた。

 明治時代になってからの変化として注目すべきことは、初期には家禄の制を有する士族については特別の扱いがなされたが、1877年(明治10)に家禄の制もなくなったこともあって、この前後から、士族・平民が同様の扱いを受けるようになったことである。また江戸時代の武士の制を一般化して、士族・平民を通じた、長男が家産と戸主権を単独に相続する家督相続の制が生まれたことである。

[石井良助]

日本の現在の相続制度

日本では明治民法時代には、戸主の地位の相続である「家督相続」と、戸主以外の家族の財産の相続である「遺産相続」とがあり、「家督相続」は家の財産の相続であると同時に、戸主たる地位そのものの相続でもあった。そのため相続人は1人に限られ(単独相続)、また戸主が隠居することによって家督相続が行われることが認められていた(生前相続)。第二次世界大戦後の民法改正で家制度が廃止されると同時に家督相続も廃止され、現在では相続は死後相続・財産相続に限られ、数人の者が同時に相続する共同相続が原則となった(民法882条~1050条)。

[高橋康之 2016年5月19日]

相続人

相続人になるのは、被相続人(相続される人)の、(1)子、(2)直系尊属(父母、祖父母など)、(3)兄弟姉妹、および被相続人の配偶者である。その順位は(1)(2)(3)の順で、配偶者はどの順位のものが相続人となる場合でもつねにかならず相続人になる。子が数人いる場合にはみな相続人となる。実子・養子・男女の別によって差別されないし、よそへ嫁や養子に出ていることも問題にされない。子が被相続人より前に死んでいた場合には、その者に子(被相続人にとっては孫)がいれば、その被相続人の孫が、生存する被相続人の子と同順位で相続人となる。これを「代襲(だいしゅう)相続」という。代襲相続は子が欠格・廃除によって相続権を失った場合にも認められる。代襲すべき者(孫)も被相続人より先に死んでいる場合にその子(曽孫(そうそん))がいれば、その子が再代襲する。

 子や子を代襲する者が1人もいない場合には、第二順位として直系尊属が相続人となる。直系尊属のうちでは親等の近い者が相続人となる(父母と祖父母がいれば父母が相続人)。実父母・養父母どちらも相続人となることができる。直系尊属もいないときは、第三順位として兄弟姉妹が相続人となる。この場合にも代襲相続が認められる。すなわち、相続人となったはずの兄弟姉妹が被相続人よりも先に死んでいる場合には、その子(被相続人の甥(おい)・姪(めい))が代襲して相続人となる。被相続人の甥・姪の子は再代襲しない。

 これらの血族の相続人がいない場合には、配偶者だけが相続人となる。相続人となる者の有無が明らかでないときは、「相続人不存在」の手続がとられ、家庭裁判所が選任した管理人が一方で相続人を捜索し、他方で遺産の整理をする。相続人が出てこない場合には、遺産は被相続人と生計を同じくしていた者(内縁の妻とか事実上の養子など)、そのほか被相続人と特別の縁故があった者に分け与えられることがある。それでも残った遺産は国庫に帰属する。

[高橋康之・野澤正充 2019年7月19日]

相続人の資格

相続人となるためには、被相続人の死亡当時に生存しているか、胎児であること、また相続欠格者でなく、廃除されていない者であること(相続人資格)が必要である。故意に被相続人や自分より先順位または同順位の者を殺したり殺そうとしたために刑に処せられた者など、一定の不徳な行為をした者は相続欠格者として相続人となる資格がない。また被相続人に対して虐待や重大な侮辱を加えるなど、著しい非行のある相続人については、被相続人は生前でも遺言ででも、家庭裁判所に相続人廃除の請求ができ、家庭裁判所が廃除を認めると、その相続人は相続権を失う。

[高橋康之 2016年5月19日]

相続分

相続人が1人の場合には、その相続人は相続財産のすべてを1人で承継するが、同順位の相続人が2人以上いるときは、各自の相続の割合が決められなければならない。その割合を相続分という。相続分は、被相続人が遺言で指定する場合(指定相続分)と、遺言がなくて法律の規定による場合(法定相続分)とがある。なお、相続人の実際の取り分は、特別受益分を控除したり、寄与分を加えたりするため、法定の割合とは異なる数額になる場合がある。

 また、2018年(平成30)の相続法改正により、相続人以外の親族が、被相続人の療養看護等を行った場合、一定の要件のもとで、相続人に対して金銭の支払いを請求することが認められた(特別の寄与。民法1050条)。すなわち、上記の改正前は、相続人以外の者は、被相続人の介護に尽くしても、相続財産を取得することができなかった。その結果、被相続人が死亡した場合に、相続人は、被相続人の介護をまったく行っていなかったとしても、相続財産を取得することができるため、不公平が生じる。そこで、相続人以外の被相続人の親族が無償で被相続人の療養看護等を行い、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合には、当該親族は、相続の開始後、相続人に対して金銭(特別寄与料)の支払いを請求することができることとなった(同法1050条1項)。

[高橋康之・野澤正充 2019年7月19日]

遺産の分割

遺産は、金銭、土地、動産、貸金債権などのさまざまな財産で構成されているが、この個々の財産をだれに与えるかを具体的に決めて分配することを遺産分割という。被相続人が遺言で分割の方法を定めたり、またこれを定めることを第三者に委託したときは、これに従う。遺言がないときは共同相続人間の協議で定める。協議がまとまらなかったり不可能であれば、家庭裁判所で決めてもらう。分割は、遺産に属する物または権利の種類・性質、各相続人の職業その他いっさいの事情を考慮して行われる。

 なお、2018年の相続法改正では、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他方配偶者に対し、その居住用建物またはその敷地を遺贈または贈与した場合には、持戻しの免除の意思表示があったものと推定し(同法903条4項)、遺産分割において、当該居住用不動産の価額を特別受益として扱わずに計算をすることができることにした。これによって、配偶者が保護されることとなった。

 このほか、2018年の相続法改正では、相続された預貯金債権について、生活費や葬儀費用の支払い、相続債務の弁済などの資金需要に対応できるよう、遺産分割前にも払戻しが受けられる制度が創設された(同法909条の2)。また、共同相続人の一人が遺産分割前に遺産に属する財産を処分した場合にも、共同相続人全員の同意により、当該処分された財産を遺産分割の対象に含めることができることとし(同法906条の2)、計算上生じる不公平が是正されている。

[高橋康之・野澤正充 2019年7月19日]

相続の回復

相続回復請求の制度は、相続人ではないのに相続人であると主張して遺産を占有する者(表見相続人)が、真正相続人の相続権を否定し、相続の目的である権利を侵害している場合に、真正相続人が自己の相続権を主張して、表見相続人に対し、侵害の排除を請求することにより、真正相続人に相続権を回復させようとするものである。民法は、この請求権を相続回復請求権(民法884条)とよび、相続人またはその法定代理人が相続権を侵害された事実を知ったときから5年間行使しないときは、時効によって消滅する、との短期消滅時効を定めている(このほか、相続開始の時から20年を経過したときも、時効によって消滅する)。

 民法が相続回復請求権について短期消滅時効を定めたのは、相続権の帰属およびこれに伴う法律関係を早期かつ終局的に確定させる趣旨である。それゆえ、実際の裁判においては、真正相続人が相続回復請求権を主張することは少なく、通常は、真正相続人が物権的請求権に基づいて相続財産の返還を請求した場合に、表見相続人が、その請求は相続回復請求権であるから時効消滅している、と主張することが多い。

 ところで、相続回復請求権は、本来は表見相続人に対する真正相続人の相続の回復を目的とする。しかし、最高裁判所は、共同相続人間においても、相続関係を早期かつ終局的に確定させる必要があるから、相続回復請求権が認められるとした(昭和53年12月20日最高裁判所大法廷判決、民集32巻9号1674頁)。

 ただし、相続回復請求権は、(1)他の相続人の権利を侵害しているという認識がない者、またはそう信じることに合理的理由がある者(善意・無過失の共同相続人)にのみ、短期の消滅時効の援用が認められる。これに対して、(2)自ら相続人でないことを知りながら相続人であると称し、またはその者に相続権があると信ぜられるべき合理的な事由があるわけではないにもかかわらず自ら相続人であると称し、相続財産を占有管理することによりこれを侵害している者(悪意・過失のある共同相続人)は、自己の侵害行為を正当行為であるかのように糊塗(こと)するための口実として名を相続に借りているものにすぎず、実質において一般の物権侵害者ないし不法行為者であって、いわば相続回復請求制度の埒外(らちがい)にある者にほかならず、消滅時効の援用を認められるべき者にはあたらない。したがって、この場合には、期間制限のない遺産分割手続を通して解決が図られることになる。

[野澤正充 2019年7月19日]

相続の承認・放棄

相続人が承継する遺産にはプラスの財産(積極財産)だけでなく、マイナスの財産(債務、消極財産)も含まれる。したがって遺産が明らかに債務超過の場合などには、相続人は相続しないほうが得であろう。そこで民法では、相続を承認する(相続承認)、あるいは放棄する(相続放棄)のいずれかを選ぶことができるようになっており、いわば選択の自由を相続人に認めた。相続を「放棄」すると、その相続人は初めから相続人とならなかったものとみなされる。相続を承認する場合には、積極財産とともに遺産のうちに含まれる債務をそのまま相続人が承継して遺産と相続人の固有の財産が融合してしまう「単純承認」と、相続によって得た財産の限度でだけ被相続人の債務や遺贈を弁済するという条件付きで遺産を承認する(したがって遺産はいちおう遺産だけで清算され、債務超過でも相続人の固有の財産は影響を受けない)「限定承認」の二つの種類がある。限定承認の場合は、相続人全員ですることが必要で単独ではできない。限定承認あるいは放棄をしようとするときは、自己のために相続が始まったことを知ったときから原則として3か月以内に手続をしなければならず、それをしないと単純承認をしたものとして扱われる。

[高橋康之 2016年5月19日]

相続手続

相続は、被相続人の死亡によって開始する(民法882条)。そこで、親族等は、被相続人の死亡を知った日から7日以内に、死亡の届出をしなければならない(戸籍法86条1項)。この死亡届を提出することによって、火葬許可証が交付される。その後、遺言書があるかどうか、また、法律上誰が相続人となるかが戸籍の調査によって確認される。そして、このようにして確定された相続人は、相続財産の調査を行い、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、相続をするか否かを決めなければならない。たとえば、被相続人に借金がある場合に相続人は、相続をしない(相続放棄)か、または、相続をした財産の範囲内においてのみ借金も相続する(限定承認)ことを選択することができる。しかし、この3か月以内に相続の放棄または限定承認をしなかったときは、相続人は、借金をも含むすべての財産を相続したことになる(民法921条2号)。

 相続財産は、相続開始と同時に相続人全員の共有に属し(同法898条)、相続人全員の協議によって遺産を分割することによって、初めて相続人個人の所有となる(同法907条1項参照)。この遺産分割協議について期限はない。しかし、被相続人の相続財産について相続税がかかる場合には、相続開始を知った日から10か月以内に相続人全員が相続税の申告および納税をしなければならないため、それまでに遺産分割協議が行われていることが前提となる。そして、この10か月という期限を過ぎると、控除や特例制度が利用できなくなるほか、延滞税を支払わなければならなくなる。それゆえ、相続税の申告期限は、かならず守らなければならない。もっとも、遺産分割協議がまとまらずに申告期限が迫っている場合には、「未分割の申告」という制度を利用することが可能である。この「未分割の申告」とは、各相続人が法定相続分を相続したものと仮定していったん納税を行い、その後協議がまとまった時点で改めて修正の申告を行って正式な納税を行うという手続である。

 ところで、相続財産のなかに不動産が存在する場合には、相続人が相続による所有権移転登記をしなければならない。しかし、近年は、相続登記が未了のまま放置されている不動産が増加し、所有者不明の土地問題や空家問題が生じている。そこで、法務省は、相続登記を促進させるために、法定相続情報証明制度を2017年(平成29)に新設した。この制度は、相続人が登記所に対し、(1)被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍関係の書類等と、(2)その記載に基づく法定相続情報一覧図(被相続人の氏名、最後の住所、生年月日、死亡年月日、相続人の氏名、住所、生年月日および続柄の情報)を提出すると、登記官が、その内容を確認し、認証文付きの法定相続情報一覧図の写しを交付するものである。そして、この写しは、相続登記の申請手続のみならず、被相続人名義の預金の払戻し等、さまざまな相続手続に利用することができ、それによって、相続手続に係る相続人と手続の担当部署の双方の負担が軽減することが企図されている。

[野澤正充 2018年1月19日]

国際私法上の相続

各国法の違い

相続に関する諸国の法律はさまざまである。大きな違いの一つは、承継主義と清算主義の違いである。承継主義とは、被相続人(死者)に属していた権利義務が包括的に相続人に承継されることを原則とするものであり、それを前提に、相続人は限定承認や相続放棄によって債務の承継から逃れることを認めるものである。これは、日本法を含む大陸法系諸国(フランス法系、ドイツ法系の国々)の法で採用されている仕組みである。これに対して、清算主義とは、人の死亡により、被相続人に属していた権利義務は、その人格代表者としての遺産管理人または遺言があれば遺言執行人の管理のもとで清算が行われ、プラスの財産が残ればこれを相続人が承継するが、マイナスになれば、破産の場合と同様に債権者の間で遺産の限度でこれを平等に分配し、相続人には影響を及ぼさないというものである。これは英米法系の諸国で採用されている仕組みである。もちろん、それ以外にも、相続人の範囲、それぞれの相続分の割合、相続人資格の喪失条件など多くの点で各国の法律は異なっており、その背景には文化や民族性などの違いが存在するため、世界中の相続法を統一することは困難ないし不可能である。

[道垣内正人 2022年4月19日]

相続の準拠法

以上のような法律の相違の結果、相続にいずれの国の法律が適用されるかによって結果に違いが生ずることになる。日本の国際私法典である「法の適用に関する通則法」(平成18年法律第78号)では、第36条で相続の準拠法について定めている。これによれば、相続は被相続人の本国法によるとされている。つまり、死者が死亡時に国籍を有していた国の法による。重国籍者については、その国籍のなかに日本国籍が含まれていれば日本法により、外国国籍ばかりの場合は、その国籍国のいずれかに常居所を有していたときはその国の法により、いずれにも常居所を有していなかったときは、他の関連要素を考慮して重国籍のうちでもっとも密接な関係のある国の法によるとされている(同法38条1項)。他方、無国籍者の場合には、常居所地国法により、常居所が認定できなければ、居所地国法による(38条2項・39条)。また、アメリカ合衆国のように、地域により法律を異にする国が本国である場合には、その国の規則により、またはそのような規則がなければ、もっとも密接な関係のある地域の法による(38条3項)。さらに、「法の適用に関する通則法」第41条によれば、本国法を適用すべき場合である相続については、本国法の国際私法によって準拠法を決定すれば日本法によるべきであるとされる場合には、本国法にかえて、日本法を適用するとされている。これを「反致」という。

 「法の適用に関する通則法」第36条は、動産、不動産を問わず、被相続人の遺産はすべて一括して本国法によって処理されることを規定している。このように、相続に関する手続きが相続準拠法により一体的に処理される仕組みを「相続統一主義」といい、日本や大陸法系の国際私法で採用されている。これに対し、英米法系や一部の大陸法系の国際私法では、動産については被相続人の住所地法により、不動産についてはその所在地法によるという「相続分割主義」が採用されている。そのため、たとえば、日本に不動産を残して死亡したイギリス人の相続については、「法の適用に関する通則法」第36条によれば本国法として英国法が準拠法とされるところ、イギリスの国際私法によればその不動産の相続は所在地法である日本法によるべきこととされているので、前記の反致により、日本では不動産相続についてのみ英国法ではなく日本法が適用されることになる(このように一部についてのみ反致が認められることは「部分反致」とよばれる)。

[道垣内正人 2022年4月19日]

国際私法の統一

各国の相続法そのものの統一は困難であるとしても、相続に関する準拠法の定め方を統一することは可能であり、必要なことでもある。そうでなければ、どの国で争われるかによって、債務を相続するのか否か、相続人の範囲や相続分などが違ってしまい、不公平な結果が生じてしまうからである。また、そのことを見越して、相続問題の処理をする地を選ぶという操作が行われる可能性があり、そのことをめぐって争いが生ずることにもなる。

 国際私法の統一を任務とする国際機関であるハーグ国際私法会議は、1989年にそのための条約として、「死亡による財産の相続の準拠法に関する条約」を作成している(未発効)。この条約の特徴は、前記の「相続統一主義」を採用したうえで、被相続人に一定範囲の法律のなかから自分の相続に適用されるべき法をあらかじめ指定しておくこと(当事者自治という)を認めている点である。その理由として、遺言を作成しても、相続に適用される法がはっきりしなければ、遺言の効果が認められるか否かの予測がつかないことになるので、被相続人の遺志を尊重するために、相続準拠法の被相続人による指定を認めることが望ましいと説明されている。この点は、相続というものをどう考えるかという根本問題に関係することであり、法令を改正して「法の適用に関する通則法」を制定するに際して、この条約にならって当事者自治の採否が議論されたが、結局当事者自治は採用されなかった。

[道垣内正人 2022年4月19日]

国際相続で問題となる状況

実際の事例では次のような問題が争いの対象となっている。まず、相続の問題として扱うべきか否かが争われることがある。たとえば、日本に所在する不動産の所有者である外国人が死亡し、「法の適用に関する通則法」第36条により被相続人の本国法上相続人となった者が、その不動産の持ち分を第三者に譲渡した後になって、買主に対してその不動産の返還を求めた事件がある。原告となった売主(相続人)は、被相続人の本国法である台湾法によれば遺産分割前の持ち分の処分は相続人全員の同意がなければできず、自分はそのような同意を得ていないので、譲渡は無効であると主張したのである。この事件について、最高裁判所は、共同相続した財産に関する権利関係がどうなるかとか、持ち分を単独で譲渡できるか否かなどの問題は相続の問題であるが、持ち分を第三者に譲渡してしまったときにそれによって所有権移転の効果が発生するか否かは物権の問題であり、物権は目的物の所在地法によるとされているので(同法13条)、日本にある不動産についての持ち分の第三者への譲渡については日本法によるのであって、日本法によれば、前記の持ち分譲渡は有効であると判示している(最高裁判所平成6年3月8日判決、民集48巻3号835頁)。

 相続準拠法の適用上の問題として、日本で英米法系の国の法律を本国法とする者の相続が処理される場合、遺産管理手続をどう進めるかという問題が生ずる。日本では承継主義が採用されているので、特別な場合を除いて遺産管理人が選任されることはないが、清算主義をとる法律のもとでは、つねに遺産管理人の選任が必要となる。一般に、手続法は実体法上の効果を実現するために存在するものであるとされ、日本の裁判所としては、外国法に定められたことを可能な限り実現すべく、遺産管理人を選任してその監督に当たるという処理がなされている。

 また、外国法の適用結果が日本法の適用結果とあまりに違う場合にどうするかという問題が生ずる。「法の適用に関する通則法」第42条は公序則とよばれ、外国法の適用結果が日本からみてあまりに異質であることと、その事案の日本との関連性の程度との相関関係から、日本の公序良俗の維持のために外国法の適用結果を排除すべきか否かが判断される。たとえば、一夫多妻を法律上認めている国においては、第二夫人にも相続が認められる。そのため、そのような国を本国とする者が日本に財産を残して死亡した場合、日本においても第二夫人以下にも相続が認められるべきか否かが問題となる。まず、そもそも第二婦人との婚姻が有効に成立しているかという問題については、同法第24条1項により各当事者につきその本国法によることになる。仮に日本においてそのような一夫多妻婚をしようとする場合であれば、日本との関連性も大きいため、準拠法上は有効に成立しているとされていても、同法第42条により、そのような準拠法の適用結果は日本の公の秩序または善良な風俗に反するものとして拒否され、一夫多妻婚は認められないことになる。これに対して、婚姻成立時もその後も外国において生活していた夫婦である場合において、夫の死亡後に第二夫人が日本所在の財産に対して相続分を主張する場合には、日本との関連性は薄く、公序則を発動してその請求を否定するまでもないということになる。

 なお、遺言をめぐる国際的問題については、項目「遺言」の「国際私法上の遺言」参照。

[道垣内正人 2022年4月19日]

文化人類学からみた相続

相続と継承

広義の意味では、財産や地位などの世代的伝達が包括的に相続とよばれる。狭義の意味では、家、土地、財貨などの財産の世代的伝達のみを「相続」とよび、地位、称号、権限などの世代的伝達のほうを「継承」とよんで、両者を概念的に区別して用いる。この区別を明らかにするために、狭義の意味での相続に対して財産相続という用語を、継承に対して地位継承などの用語を用いることもある。日本の家督相続の場合には、「家」に付随する家屋・土地などの財産の相続と、「家」の家長としての地位・身分の継承との二つが含まれていた。そして、現在でも、狭義の意味での相続と継承を区別せずに、両者を一括して、広義の意味での相続という用語を用いるのが一般的である。確かに、相続と継承は相互に密接に関連している場合が多い。しかし、どの社会においても相続の形態と継承の形態がつねに重なり合うというわけではない。したがって、世界各地のさまざまな社会での相続、継承の形態をみるうえでは、両者を概念的に区別して考えるほうが有効である。

[栗田博之]

相続の対象・相続人

相続や継承の対象となるものは、社会によってさまざまである。おもなものとしては、家や土地などの不動産、財貨、家財、道具、家畜などの動産、集団の長などの官職、社会階層の帰属などの地位や身分、称号などがある。このほかにも、祭祀(さいし)、儀礼、呪術(じゅじゅつ)、舞踏、歌謡、種々の技術、それに女性なども相続や継承の対象となることがある。

 相続人は、一般に、被相続人と特定の関係にある者、とくに特定の親族関係にある者である。そして、被相続人と親族関係にある者のなかで、どの範囲にある者を相続人とするかに関して、それぞれ社会ごとに、さまざまな法的、社会的規範が存在しており、その結果、共同相続、分割相続など、複数の相続人を認めるもの、長子相続、末子相続、選定一子相続など、相続人を1人に限定するもの、そのほかさまざまな相続の形態がみられることになる。

 分割相続の一種である均分相続の場合には、相続対象が分割可能なものであれば、すべての相続人の間でできる限り均等に配分することが求められる。共同相続の場合には、相続対象を分割せず、相続人の共有となる。一子相続の場合には、相続対象の分割は問題にならず、年齢原理により、長子あるいは末子を相続人と指定したり、あるいは別の原理に基づいて一子を選定したりする。また、性別原理を用いて、男子のみ、あるいは女子のみを相続人として認める場合も多い。

 これらさまざまな相続や継承の形態は、家族や親族組織の形態と密接に関連している。また、相続や継承は、さまざまな権利や義務の世代的伝達の一つとして考えるべきものである。この点に注目すると、出自原理と相続、継承との関連が重要な意味をもってくる。

[栗田博之]

単系社会での相続

一般に単系社会とよばれる社会では、個人は父系あるいは母系のいずれかの系譜をたどって、特定の祖先と結び付けられ、父系あるいは母系の出自集団に属すことになり、それに伴って、さまざまな権利や義務が与えられる。父系社会の場合には、一般に、父系出自集団の成員権、財産や地位に関する権利や義務などが、父親から息子へと伝達される。一方、母系社会の場合には、さまざまな権利や義務は、母親から娘へ、より一般的には、母親の兄弟から姉妹の息子へと伝達される。しかし、単系社会において、すべての権利や義務が単系出自原理によって伝達されるというのは、単なる理念型にすぎず、一般に単系社会とよばれる社会での相続や継承は、実際にはより複雑である。そして、相続や継承の対象となるものごとに、どのような原理によって相続や継承が行われているのかを個々にみてゆく必要がある。この点を明らかにする一例として、ナイジェリアのヤケ人の社会がある。ヤケ社会には二重単系の出自原理がみられ、個人は父系出自集団と母系出自集団の両者に帰属する。そして、男性は父親から土地や家などの不動産を、母親の兄弟からは牛などの動産を相続するのである。

[栗田博之]

双系社会での相続

これらの単系社会に対し、一般に双系社会とよばれる社会では、双系出自原理に基づき、父方と母方の双方からさまざまな権利や義務が伝達される場合が一般的である。また、双系社会では、相続や継承をはじめとして、さまざまな権利や義務の伝達が出自原理に基づき一義的に決まることは少なく、そのほかのさまざまな要因に基づき、選択が行われる場合が多い。

 しかし、以上のような単系社会、双系社会という類型化は便宜的なものであることを忘れてはならない。集団への帰属、居住形態、相続や継承の形態などは、相互に密接に関連してはいるが、かならずしもすべてがある一つの出自原理に基づいているわけではないのである。

 また、相続や継承の形態は、伝達されるものの質や量に大きく左右され、伝達されるものごとに相続や継承の形態が異なってくる場合が多い。したがって、ある一つの社会の相続や継承の形態をみる場合に、長子相続、共同相続などの単純な類型化には限界があるということも十分に認識する必要がある。

[栗田博之]

『中根千枝著『家族の構造』(1970・東京大学出版会)』『泉久雄他著『民法講義8 相続』(1978・有斐閣大学双書)』『ロジャー・M・キージング著、小川正恭・笠原政治・河合利光訳『親族集団と社会構造』(1982・未来社)』『佐藤隆夫著『現代家族法2 相続法』(1999・勁草書房)』『市川四郎・野田愛子編『相続の法律相談』第5版(2000・有斐閣)』『中川善之助・泉久雄著『法律学全集24 相続法』第4版(2000・有斐閣)』『有地亨監修『口語六法全書 口語親族相続法』補訂版(2005・自由国民社)』『川井健著、良永和隆補訂『民法概論5 親族・相続』補訂版(2015・有斐閣)』『前田陽一・本山敦・浦野由紀子著『LEGAL QUEST 民法6 親族・相続』第4版(2017・有斐閣)』『松川正毅著『民法 親族・相続』第5版(2018・有斐閣アルマ)』

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百科事典マイペディア 「相続」の意味・わかりやすい解説

相続【そうぞく】

ある人が死亡した場合に,その者と一定の親族関係に立つ者がその財産上の法律関係(債務も含む)を承継すること(民法882条以下)。私有財産制度とともに発達した。相続の中心は財産相続であり,ほかに身分相続,祭祀相続,祖名相続などがあるが,本質は財産の相続である。相続の形態として,相続人を法定する法定相続主義と相続人を被相続人に選ばせる自由相続主義がある。両者の調節をはかるために遺留分の制度が生じる。法定相続主義には単独相続と共同相続とがある。現行法は,遺言(ゆいごん)による財産の処分を認め,また相続分(相続人の間の相続割合)を定めることができるとしている。ただし遺留分を害することはできない。遺言がなければ法定相続による。この場合,相続人は,第1順位は子,第2順位は直系尊属,第3順位は兄弟姉妹であり,配偶者はそれらの者とともに常に相続人となる。なお胎児も相続人になることができる。また孫以下の直系卑属は代襲相続人となる。第1順位である子と配偶者が相続人であるときは,その相続分はそれぞれ1/2,配偶者と直系尊属の場合には2対1,配偶者と兄弟姉妹の場合には3対1である(民法900条)。相続するか否かは相続人が自由に決定し得る。相続する意思を表示することを相続の承認といい,無限に被相続人の権利義務を承継する単純承認と,相続によって得た財産を責任の限度として被相続人の権利義務を承継する限定承認とがある。相続拒否の意思表示を相続の放棄(相続放棄)と呼ぶ。→寄与分
→関連項目遺産遺産相続遺産分割失踪宣告親族推定相続人相続税嫡出子内縁卑属分割相続

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「相続」の意味・わかりやすい解説

相続
そうぞく
inheritance; succession

人の死亡によって死者に属していたものが包括的に一定の者に承継されること。身分相続,祭祀相続,祖名相続などがあるが,その中心は財産相続である。近代法では相続は私有財産制と結びつき,(1) 被相続人の所有権の自由 (財産処分の自由) ,(2) 遺族の生活保障の必要,(3) 被相続人と取引関係にあった者の保障 (取引安全の確保) を根拠とする。日本法では (2) が重視され,たとえば (1) の結果,遺言自由の原則 (民法 946) が認められる一方,遺留分制度 (1028条以下) により (2) に対する考慮が払われている。また,相続放棄や限定承認の制度 (915条以下) は (3) を犠牲にしたうえで (2) を重視するものといえる。相続人や相続内容の決定方法には遺言相続と法定相続の2つがあるが,今日はほとんどの国で法定相続を認め,しかもこの場合単独相続でなく共同相続を原則とする。日本の現行民法も均分共同相続を前提とした法定相続を原則としている。

相続
そうぞく

財産や地位・役割などを次の世代へ伝達すること。一般には財産の世代的伝達を相続といい,これに対して地位や役割などの世代的伝達を継承と呼んで区別する。古来日本には,家長の地位を意味する家督と,それに付随する財産をほぼ一括して相続する家督相続の形態が多くみられた。跡継ぎと今日でも呼ぶのは,かつての家督相続の概念に近いといえる。相続形態としては,単独相続と共同相続,均分相続と不均分相続などのほかに,相続の時期や相続者の続き柄などによる分類がある。特に相続者の続き柄は重要で,日本には長子相続姉家督相続,末子相続選定相続などの形態がみられる。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「相続」の解説

相続
そうぞく

財産や身分などを受け継ぐこと。財産を受け継ぐことは,たんに相続または財産相続で,身分や地位・家名などを継承する家督相続とはわけて考えられる。家督は,鎌倉時代に武士団の一族一門の長を意味する言葉としてうまれ,家督の地位は一門の本家の嫡子が単独で継承した。この場合財産は嫡子以外の庶子にも分割相続されたが,室町時代以降になると,身分と財産を1人で受け継ぐ長子相続が一般化した。江戸時代,武士のおもな相続対象は俸禄であり,これを家督ともいい,長男が家督と家名などを単独で相続する制度が確立した。庶民では,家長の地位は単独相続されたが,財産は分割相続もあった。長子相続が基本であったが,末子(まっし)相続・姉家督の習慣もあった。明治期には長男による家督相続が法制化されたが,第2次大戦後はその制度が廃され,男女平等の共同相続になった。

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とっさの日本語便利帳 「相続」の解説

相続

死者が生前に持っていた財産に属する一切の権利義務を、他の者が包括的に承継すること。この場合の死者を被相続人、承継する者を相続人、承継される包括的な財産を相続財産(遺産)という。相続は被相続人の死亡だけを原因とし、相続人となる者は被相続人の子・直系尊属・兄弟姉妹及び配偶者に限られ、配偶者以外は相続順位が法定されている。

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知恵蔵 「相続」の解説

相続

人が死亡した時、その者(被相続人)の財産的な権利義務を、法律及び遺言で特定の者(相続人)に引き継がせること。相続人が複数の場合、共同して相続(共同相続)する。この引き継ぎ(相続)は、被相続人の死亡によってのみ発生し、相続登記や共同相続人の間での遺産分割協議が成立するなどの手続きは必要ない。

(吉岡寛 弁護士 / 2007年)

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普及版 字通 「相続」の読み・字形・画数・意味

【相続】そうぞく

うけ継ぐ。

字通「相」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の相続の言及

【家】より

…しかし,純血を尊ぶという点では西欧の方がより厳格であり,自他の血を混同しない。家の安定,永続を守るためには家産相続が重要だが,この権利と義務を,西欧では血縁者に限ろうとしてきた。しかし,日本には養子制度があり,他人であっても家のために役立つ人材なら,自分の子をさしおいても後継者とすることがある。…

【家筋】より

…したがって家は同じ稲の種子を代々伝達していく集団を意味していた。 祖先と子孫の関係を理解する場合には基本的に出自,相続,継承の三つが重要である。出自はどのような関係の祖先を祖先と考えて出自集団を構成するかという問題であり,祖先中心的な親族組織の構成原理をなすものである。…

【遺産】より

…相続財産と同じ意味であるが,法典上は主として遺産分割されるまでの相続財産をさして用いられる。また,相続財産は積極財産のみならず債務(消極財産)も含むのであるが,一般に遺産は債務を控除して残った相続財産の意味で使われることが多い。…

【親子契約】より

…このような,農家世帯内部における個人相互間での,労力や財産の提供による協力関係について,関係者が契約をすることによって,一方において,農家・農村の実態・慣習に即し,農民の感情を尊重しつつ,同時に他方において,国家の法律体系にも十分通用する形で,これを明確にしようとすることが,親子契約の第1の意義である。(2)相続に関しては,日本の現行民法は,生前相続や相続契約を認めていない。しかし,農家の世代的な経営承継および財産承継は,死亡を原因とする相続だけでは十分に処理できない性質をもっている。…

【家族法】より

…家族法は家族に関する法である。日本の民法には,第4編親族,第5編相続があるが,欧米諸国で家族法というときは,相続法を別にして親族法だけを指し,日本でもまずその意味に使われる。しかし,日本では,相続法まで含めて,広く家族に関する法を家族法と呼ぶことも少なくない。…

【勘当】より

…近世の法制度において,在宅者を家から追放し,家族関係を公的に解消することで,正式には領主の許可を得て行うものであった。勘当を実行するのは,その人物のひきおこす事件が家族に影響を及ぼさないようにするためであり,家族内部の秩序維持というよりも,社会的な責任を逃れようとしたものであるが,同時に家の相続に関連して相続権を放棄させる目的も含まれており,地主層や商人たちによって行われた。このような勘当は近世の幕藩権力が社会秩序を維持するために制度化したものであり,日本の伝統的家族の内部で行われていたものではなかったと判断される。…

【持参金】より

…持参金とは,一般に女子が嫁入りに際して生家より持参する財産のことであるが,これを婚姻に伴う財産の移動という広い視野からとらえるならば,日本では,男子主導の婚姻・相続形態の形成に伴って,身分による偏差をはらみながら,現代用いられている女性婚資という意味での持参金が生成してきたのは,中世である。
【日本】

[古代]
 日本古代には嫁入婚は未成立であったから,〈持参〉という概念は文字どおりにはあてはまらない。…

【代襲相続】より

…たとえば,Aが死亡したが相続人となるはずの子Bも死亡していたときはBの子CがAを相続するし(例1)(民法887条2項),また,Dが死亡したが相続人となるはずの妹Eが相続欠格者であるときはEの子FがDを相続する(例2)(889条2項)。代襲相続とは,このように,被相続人の子や兄弟姉妹が相続の開始以前に死亡・欠格・廃除(代襲原因)によって相続権を失った場合,その者の子(代襲者。…

【長子相続】より

…相続者の親との続柄からみた相続形態の一つで,通例男子のうちの長子,すなわち長男が親の財産を相続する形態をいう。長子相続は,未開社会のなかでは父系的傾向のつよい社会,歴史的にはヨーロッパの封建社会に顕著にみられた。…

【遺言】より

…養老令にみられる生前における死後のための処分を意味した〈存日処分〉は,その源流であるといわれている。しかし,それが普及するに至ったのは,江戸時代になってからのことであり,当時,庶民の間では,頓死など不慮の死のため遺言をなしえない場合を除くほかは,遺言相続が原則的に行われていた。しかし,当時も,武士の間では,主たる財産は封禄であり,その相続は君主の意思に依存していたから,遺言相続は庶民の間のごとくには普及しなかった。…

【養子】より

…事実,ローマ古法では祭祀の存続が国家的重要事と考えられ,そのため後継者を欠く家長は他の家長を養子としたが(アドロガティオ),これは〈家〉の吸収合併のようなものであり,現代の養子とはその内容をまったく異にする。ローマには家長が他家の家子を養子とするいま一つの養子制度があり(アドプティオ),これは相互扶助と財産相続のために利用されたが,ユスティニアヌスの時代(6世紀)には〈自然模擬〉の観念から養親適齢,年齢差の制限を加えるとともに,縁組効果の点でも養子は養親の父権に服しない〈不完全養子〉の形態を認めた。1804年のナポレオン民法典が採用したのはこの養子形態であり,しかも成年者のみが養子となりうるという制限を加えた。…

※「相続」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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