日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニシュ」の意味・わかりやすい解説
ニシュ
にしゅ
Niš
セルビア南東部に位置する同国第二の都市(自治州の都市を除く)で、南部モラバ地方の重要な商工業都市。ニシャバ川に沿う。人口24万8561(2001推計)。住民はセルビア人、トルコ人、アルバニア人、ブルガリア人、ギリシア人からなる。古代のケルト人の居住地があり、ローマ時代はナイススNaisusとよばれた。274年、この城塞(じょうさい)でローマ皇帝コンスタンティヌスが生まれた。5世紀にはアッティラ王国によって滅ぼされ、その後、ビザンティン帝国が支配し、交通の要(かなめ)として発達した。12世紀末セルビアの支配下に入ったが、1386年トルコ(オスマン)が侵略し、5世紀の長きにわたって占領した。ロシア・トルコ戦争(1877~78)後のベルリン条約によってセルビアに帰属した。町の中央に位置する古城跡はトルコ時代の名残(なごり)で、ローマ時代の墓石、石棺、彫像、石柱などを利用してつくられた。郊外には1809年の蜂起(ほうき)に失敗したセルビア人の頭蓋骨(ずがいこつ)952を塗り込めてつくられた塔「チェレ・クーラ」がいまなお不気味に立っている。大学、各種専門学校、応用美術学校、劇場、博物館など、多くの教育機関や文化施設があり、古城跡では毎年映画祭が催される。工業都市としても有名で、水力・採鉱機械、家電製品、鉄道車両などを製作しているほか、化学・織物・皮革・ゴム・タバコ・食品工場などがある。南東10キロメートルにある温泉ニシュカ・バーニャNiška Banjaはリウマチ、喘息(ぜんそく)に特効があり、市民の行楽地としても知られている。
[田村 律]