知恵蔵 「ネコノミクス」の解説
ネコノミクス
04年に大阪で国内初の猫カフェが開店し、全国に普及したことや、07年に和歌山電鐵で猫の駅長「たま駅長」が誕生したこと、野良猫が多く生息する離島がクローズアップされたことなどから広がった猫ブームに端を発している。14年頃からは猫関連の書籍やスマートフォンゲーム、テレビドラマ、CMなどが急増し、猫と入居できるマンションやシェアハウスなどにまで波及している。ペットフード協会の調査では、日本ではもともと猫よりも犬の方が多く飼育されていたが、犬の飼育頭数が年々減少する一方で猫は増加傾向にあり、15年は犬が約991万7000匹、猫が987万4000匹と犬に迫る勢いとなっている。こうした現象を受け、関西大学の宮本勝浩名誉教授は16年2月、猫1匹の飼育にかかる経費に飼育数をかけた金額に、関連商品の売り上げや観光関連効果、それによる波及効果などを合わせると、15年の経済効果は総額2兆3162億円になるというレポートを発表している。
東京・神保町では13年に猫の書籍専門店が開店し、全国から愛好者が訪れる。庭先にえさやおもちゃを置き、猫を集めるスマートフォン向けアプリ「ねこあつめ」は、14年のリリースから約1年で900万ダウンロードを超す大ヒットとなっている。うち3~4割は海外からのダウンロードで、米国のテレビ局、CNNでも特集が組まれた。15年末に光文社の女性週刊誌「女性自身」編集部が制作した猫の投稿写真や健康ガイドなどを取り上げたムック本「ねこ自身」は、発売約1カ月半で累計9万2000部を売り上げる。
自治体などが猫を観光PRに使う動きも加速しており、「猫のまち」尾道市が有名な広島県は、猫を「路地裏観光課長」に任命し、猫目線で尾道を散策できるウェブページ「広島キャットストリートビュー」を開設。地元の旅行会社や観光協会の協力を得て猫の出没スポットを巡るツアーや、愛好者らの交流イベントを展開し、人気となっている。
空前の猫ブームの一方で、自治体などは野良猫への対策に苦慮している。野良猫が多く生息する北海道羽幌町の天売島(てうりとう)は12年に飼い猫以外へのみだりなえさやりを禁止する条例を施行、京都市では15年、野良猫などへの不適切なえさやりを禁止する罰則付きの条例を施行するなどの動きがあるが、愛好者らからの反発は根強い。
こうした猫ブームの背景には、高齢化や単身世帯の増加で、犬と比べて世話の負担が少ない猫が好まれることや、人間関係が希薄化する中でのドライな性格へのあこがれ、短文投稿サイトのTwitterなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)により猫画像が容易に拡散・閲覧できるようになったこと、動画投稿サイトの普及があるとみられている。飼い主らが撮影した猫の画像や動画がインターネット上で発信して人気となり、写真集の出版につながるなど、猫愛好者の活動がブームを押し上げている。
(南 文枝 ライター/2016年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報