日本大百科全書(ニッポニカ) 「ノードストローム」の意味・わかりやすい解説
ノードストローム
のーどすとろーむ
Nordstrom, Inc.
アメリカのファッション雑貨を中心とした百貨店(デパートメント・ストア)。接客技術が高い企業として評価されている。
1901年、ワシントン州シアトルのダウンタウンで、スウェーデン移民の創業者ジョン・W・ノードストロームJohn W. Nordstrom(1871―1963)がカール・ワリンCarl Wallinと共同で開いた小さな靴店ワリン・アンド・ノードストロームWallin & Nordstromが、ノードストローム百貨店の始まりである。1920年代、第一次世界大戦後の好景気を背景にビジネスは拡大したが、第二次世界大戦中は物資不足のため、靴は配給制となって1人年間3足しか購入できなかった。そのようななかで同社は、全米の靴メーカーを訪れて直接メーカーとの密接な関係づくりに奔走。その結果、スタイルとサイズの豊富な在庫を確保することに成功、1959年には10万足を扱う巨大な靴店となり、靴専門店チェーンとしては全米最大規模の会社にまで成長を遂げた。その後、1963年にシアトルの婦人服チェーン「ベスト・アパレル」を買収し、1966年には店名を「ノードストローム・ベスト」に変更。婦人服から子供服、紳士服、服飾雑貨、靴に至るすべてのファッション部門を取り込んだデパートメント・ストアへの業態転換を図り、1971年に株式を公開し現社名となる。
ノードストロームの名を全米にとどろかせるきっかけとなったのは、1978年のカリフォルニア州ロサンゼルスのオレンジ郡にある高級ショッピング・センター「サウスコースト・プラザ」にキーストアとして進出したことにある。当時の百貨店では満足できなかった高学歴かつ高感度の女性たちの消費者心理にこたえ、時代感性と質の高い接客サービスを伴ったファッション・デパートメント・ストアとして登場した。それは創業者ジョン・W・ノードストロームが唱える「すべてが売場から始まる」をモットーに、「顧客が望む商品を、顧客の満足する買い物環境のなかで、顧客が感動するサービスで提供すること」を具現化したものであった。また、高度な接客サービスの維持継続のための人材教育や、業界としては画期的な従業員(販売員)に対する「歩合制」を早くから採用した点も革新的な行動であった。
ノードストロームの成長要因は、(1)顧客の購買心理をたくみに取り入れた快適な買い物空間の創出、(2)顧客の心を魅了するビジュアル(視覚的)・プレゼンテーション、(3)商品知識が豊富な従業員によるコーディネート販売、などによって「商品・価格・サービス」が一体化した満足感を引き出していることにある。しかし、従業員個人の力量(販売力)に依存しすぎ、企業としての情報力が低下する一方、1999年には「歩合制」に起因する賃金未払いなど数多くの問題が浮き彫りとなり、肥大化した組織のゆがみが露呈した。
2010年度において総店舗数は225店、総売上高は93億1000万ドル。2009年1月時点の総資産は56億6100万ドル。
[角田正博]
『ロバート・スペクター、P・D・マッカーシー著、山中かん監訳、犬飼みずほ訳『ノードストローム・ウェイ――絶対にノーとは言わない百貨店』新版(日経ビジネス人文庫)』