改訂新版 世界大百科事典 「ハエトリグサ」の意味・わかりやすい解説
ハエトリグサ
Venus's-flytrap
Dionaea muscipula Ellis
二枚貝を割ったような,2片に分かれた葉身を閉じて小動物を捕食する,モウセンゴケ科の多年生食虫植物。1属1種。ハエジゴク,ハエトリソウともいう。日本や欧米では観賞植物として栽培されている。茎は短く,地表に近い土中を横にはう。数枚の葉が地面にロゼットをつくるが,個体によって葉が立ちあがるものもある。4~5月,長さ15~30cmの花茎を1~5本直立し,散形~集散花序に4~10個の白色の花をつける。2片に分かれた葉身の内面は,面積1.0~2.5cm2,約80度の角度で相対しており,中央部近くに逆三角形を描くそれぞれの頂点に1本ずつ,各捕虫葉で計6本の鋭敏な感覚毛がある。感覚毛の基部近くには感覚組織があり,獲物が短時間に2回以上感覚毛に触れると,その刺激が葉身に伝わり,膨圧と水分の葉身片中央部への移動により,容積の急な変化でバイメタル式にそり返りを生じ,0.01~0.02秒の速さで閉合運動を完了する。この葉身がハエを捕らえるしくみを表現してビーナスの蠅取り器という意味の学名,英名がつけられている。獲物を捕らえると,捕虫葉中央部に誘導するための狭窄(きようさく)運動をする。獲物を消化腺に密着させ,排出される尿酸の刺激を受けると消化腺は活動し,エステラーゼ,酸性ホスファターゼ,プロテアーゼという消化酵素を分泌して,7~10日かかって獲物のタンパク質を分解吸収する。アメリカ合衆国ノース・カロライナ,サウス・カロライナ両州にのみ自然分布するが,近年ニュージャージー州に人為移植されたものが分布を広げている。ノース・カロライナ州では天然記念物として保護されている。道路沿い,伐採あと,野火あとなど,林縁で日照条件のよい,貧栄養な酸性湿地を好んで生育場所とする。
執筆者:近藤 勝彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報