改訂新版 世界大百科事典 「ハナワラビ」の意味・わかりやすい解説
ハナワラビ (花蕨)
Botrychium
ヒメハナワラビやフユノハナワラビなどの仲間の総称で,栄養葉の上に胞子葉がつくという奇妙な形をした葉をもつシダ類ハナヤスリ科の多年草。ヒメハナワラビをヘビノシタということもあるが,その姿を二叉(にさ)になった蛇の舌になぞらえたものである。英名もいろいろつけられ,ヒメハナワラビB.lunaria(L.)Sw.がmoonwort,ヤマハナワラビ(エゾノフユノハナワラビともいう)B.multifidum(Gmel.)Rupr.がleather grape fern,オオハナワラビに近いB.dissectum Spreng.がgrape fern,ナツノハナワラビB.virginianum(L.)Sw.がrattlesnake fernなどと呼ばれる。
根茎は直立し,短い。葉を1~2枚つけ,二次生長をする。茎頂と幼葉は成葉基部の葉鞘(ようしよう)によって包まれる。葉は小型から中型で,さまざまな程度に切れ込む。栄養葉は有柄,葉身が発達し普通葉,葉脈は遊離脈。胞子葉は栄養葉の表(向軸面)に,葉柄下部から中軸下部までのいろいろな部位に1本(まれに2~3本)でて,葉身が発達せず,軸が枝をうった状態になる。胞子囊は軸端やその両側につき,姿がブドウの房に似るのでgrape fernの名で呼ばれる種がある。
生育期は種類群によってきまっていて,ヒメハナワラビ類,ナツノハナワラビ類は5~10月に,フユノハナワラビ類は8~翌年3月にかけて生育する。北半球の温帯に多くの種が分布するが,熱帯や南半球に分布する種もある。とくに利用されることはないが,ヒメハナワラビは形の面白さから観賞用に用いられる。穂状の胞子葉をもつミヤコジマハナワラビHelminthostachys zeylanica(L.)Hook.の根茎は,解毒剤として使用される。
この仲間は根茎が二次生長をすること,胞子囊が1個ずつついて,胞子囊群をつくらないこと,胚柄があるなどの特徴をもつので,他のシダ類よりもかなり原始的で系統もはなれていると推定される。しかしながら,系統を実証する化石はみつかっていない。
執筆者:加藤 雅啓
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報