翻訳|grassland
主として養畜のための採草または放牧のために供される耕地以外の土地で,採草放牧地ともいう。緑肥生産に利用されることもある。
草地は植生と利用法によって次のように区分される。植生を基準にした場合,植生がシバ,ススキ,ササ類などの野草からなる草地を野草地,オーチャードグラス,ラジノクローバーなどの牧草からなる草地を牧草地に区分し,後者はさらに,寒地原産のオーチャードグラスなどを植生とする寒地型牧草地と暖地原産のバヒアグラスなどを植生とする暖地型牧草地とに細区分される。また,利用法を基準とした場合は植生の種類にはかかわりなく,放牧に利用する草地を放牧草地,生草利用,サイレージ調製,乾草調製などのために採草する草地を採草地,放牧および採草に両用する草地を兼用草地に区分する。
一般に草地は地球規模で巨視的に見ると,乾燥または半乾燥気候で樹木の育たない,植物生態学でいう極相が草原になる地帯に成立し,安定する。これを年平均降水量でみると,熱帯では1000mm前後以下,温帯では500mm前後以下の地帯になる。大家畜生産は,これらの自然草地を利用して生産してきたが,近代になって,これらの地帯以外でも牧草類を導入して人工草地を造成し,面積を拡大しながら集約的な生産を行うようになった。しかし現在もなお,世界の草地は乾燥気候または半乾燥気候の地帯に多く分布している。一方,日本は温帯に位置し,年平均降水量が2000mmを超える地帯が多いため極相が草原となる地帯は少ない。このため,自然草地を維持するためには放牧と火入れ,あるいは放牧と刈払いなどの作業を継続して行う必要がある。また,牧草類も多くは乾燥気候または半乾燥気候の地帯を原産とするので,人工草地でも植生が不安定で周到な管理を必要とする場合が多い。
従来,日本では1960年ころまではウシは役・肉兼用,ウマは役畜として各地で飼養されてきたが,その飼料は主として山林原野などに自生していた野草類と稲わらなどの農業副産物であり,専用の牧草地はほとんどなかったといってよい。1960年ころからの技術革新にともなって農耕用トラクターが全国に普及したため役畜は不用となり,ウマの飼養は激減し,役・肉兼用のウシはそれぞれ専用の肉牛と乳牛にかわった。肉牛および乳牛を効率よくかつ大量に飼育するためには,旧来の飼料では栄養成分が低すぎ,また,量的にも不足するため草地の開発が切望されるようになった。近年は牧草類の品種改良,草地造成法の開発あるいは養畜技術の進歩などによって,日本のような湿潤気候の地帯でも草地を立地させることができるようになった。現在,寒冷な北海道地域,東北・関東・中部地域の高冷地あるいは高標高の山地傾斜地に寒地型牧草を主とした牧草地および野草地が,また西南暖地たとえば鹿児島・宮崎の低標高地域および沖縄には暖地型牧草地がそれぞれ造成され分布している。
牧草地の造成法は耕起法と不耕起法とに大別され,寒地型牧草地および暖地型牧草地のいずれの造成にも用いられる。耕起法は,さらに造成に使用する作業機の種類ならびに作業法によって,反転耕法,破砕耕法,かくはん耕法,その他に区分され,土地の傾斜が6~20度内外まで適用することができる。なお,多くの場合,土地の傾斜が6度内外以下の緩傾斜地では採草地または兼用草地が,土地の傾斜が10~15度以上の急傾斜地では放牧草地が造成される。一方,不耕起法は大型トラクターなどによる機械造成の困難な傾斜が20度内外以上の急傾斜地での草地の造成に用いられるもので,蹄耕(ていこう)法と直播(ちよくはん)法とに分けられる。蹄耕法は造成しようとする土地に家畜を放牧して自生している野草類を採食によって抑圧し,同時に放牧家畜の蹄圧で土壌をかくはんおよび鎮圧し,ここに施肥と牧草の播種を行う。さらに,放牧によって土壌を鎮圧して牧草類の発芽・定着を助ける。牧草類が定着した後反復放牧して,再生する野草類および牧草類を採食させ,牧草類の再生力の強さを利用して徐々に牧草地化する生物的造成法の一つである。直播法は蹄耕法における家畜の放牧工程を省略した方法で,牧草類を野草地などに直接導入し,牧草類の発芽・定着後,追肥と放牧利用とを反復し,野草類よりも肥料に対する生長反応ならびに再生力の大きい牧草類の特性を利用して,徐々に牧草地化していく生態的造成法とも呼べるものである。いずれも,土地の傾斜が20度以上35度内外までの急傾斜地での造成に採用される。
森林を優良野草地にするための造成法は現植生の種類と地域によって異なる。造成の基本は全国共通で,林木の伐採・搬出を行い,その後再生する雑灌木ならびに不良野草類の刈払い,あるいは,ウシ,ウマなどの放牧と火入れ作業の繰返しで,各地域別に生態的に分布している優良野草植生を誘導し野草地とする。一般に野草植生は土地保全機能が牧草類よりも大きいので,30~35度内外の急傾斜地での草地造成ならびに利用に向いている。
このような造成技術の改良によって,草地は普通作物の生産の困難な瘠地(やせち)あるいは急傾斜複雑地形などの不良地,または,寒冷地あるいは暖地などのいずれでも,その造成,維持,利用が可能となった。
執筆者:鎌田 悦男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…樹木の伐採,採草,放牧,火入れなどの人為的な植生の破壊の後,植生の回復過程が自然のままに放置されてできた草原は半自然草原と呼ばれる。農学的には草地という語を用いる。この場合,上記の半自然草原を自然草地といい,植生の回復過程までも人為的に管理している農耕的に造成した草原を人工草地という。…
…水田,普通畑,樹園地,桑畑などの肥培管理を行っている土地である耕地と,草地(牧草地や採草放牧を行う草生の土地)を農地という。農地法上は〈耕作の目的に用いられる土地〉をいうが,現在は耕作されていなくても,耕作しようとすればいつでも耕作できるような休耕地や不耕作地もこれに含まれる。…
※「草地」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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