ハンミョウ

改訂新版 世界大百科事典 「ハンミョウ」の意味・わかりやすい解説

ハンミョウ (斑猫)

甲虫目ハンミョウ科の昆虫の総称,またはそのうちの1種を指す。ハンミョウCicindela japonica本州から九州までの各地に生息する。藍色,紫色,赤色,緑色などにいろどられた体は金属光沢を放ち,地表から体を高く支える細長い胸脚と餌物をとらえる鋭い大あごをもつ。体長約20mm。5~8月ころに多く出現し,昆虫などの小動物を求めて地表近くを飛び,着地しては大きな複眼であたりをうかがう。また人が近づくと前へ前へと飛ぶ習性があり,ミチオシエ(道教え)と呼ばれる。初夏のころ地面に産卵管で穴をあけて1卵ずつ産みつける。幼虫は土中に縦に細い穴を掘り身を潜め,近づいた小動物をすばやくとらえて穴に引っぱりこんで食べる。幼虫は鋭い大あごと第5腹節背面には対をなすかぎ状の突起がある。幼虫で越冬,翌年の夏ごろ土中でさなぎを経て成虫となり,成虫で越冬する。

 ハンミョウ科Cicindelidaeは世界から約2000種,日本からは23種が記録されている。英名はtiger beetle。分類上からはオサムシ科に近いが,オサムシが夕方から活動するのに対し昼間活動する。主として地上の明るいところにすみ,イカリモンハンミョウC.anchoralisは海岸の砂浜に,ミヤマハンミョウC.sachalinensisは山のがれ場に生息する。熱帯,亜熱帯には葉上に生活し,幼虫が枝に孔道をつくって小動物をとらえる種類も知られる。卵から成虫までの期間は,幼虫期の摂食量や産卵期で異なるが,ハンミョウのように成虫で越冬して産卵する種類(2年で1世代)と,トウキョウヒメハンミョウのように成虫となった夏に産卵する種類とがある。なお,幼虫はいずれも3齢までであるが,産卵された年に発育の遅れたものは幼虫で2年越冬する。
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漢方の斑猫(はんみよう)(斑蝥(はんぼう))はほんとうのハンミョウではない。すなわち身体にカンタリジンを含み,発疱剤,利尿剤,そして媚薬として用いられる斑猫は,ツチハンミョウ科に属し,カンタリジンを含まないハンミョウは,ハンミョウ科に属する昆虫である。カンタリジンはきわめて強い毒物質で,約30mgが致死量であるという。ツチハンミョウ科のもの,たとえばオビゲンセイ,マメハンミョウなどの成虫の粉末数頭分で人は死ぬわけである。

 ツチハンミョウ科の虫には漢方で次のような名称が与えられている。(1)斑猫(Mylabris属) キオビゲンセイ,マダラゲンセイ。(2)芫青(げんせい)(Lytta属) ミドリゲンセイ。(3)葛上亭長(かつじようていちよう)(Epicauta属) マメハンミョウ。(4)地胆(にわずつ)(Meloe属) ツチハンミョウ。このうちでは芫青がいちばんハンミョウ科のハンミョウに似ている。そうして漢方薬の斑猫として保存されているものの中には,無毒のハンミョウが混じっていることもあるという。

 泉鏡花の小説《竜潭譚》の中でも〈羽蟻の形して,それよりもやや大(おおい)なる,身はただ五彩の色を帯びて青みがちにかがやきたる,うつくしさいはむ方〉なきハンミョウが主人公である少年の顔をかすめ,人相が変わってしまうほど顔をはれさせることになっている。これはむろん,〈色彩あり光沢ある虫は毒なり〉と主人公の姉が教えるような,ある程度は根拠のある俗信に由来する誤りである。

 タマムシが媚薬として用いられたことがあるというのは,やはりその美しさのゆえに,一種の強い,劇薬的成分を身体に含むと思われたからであろうが,西洋でも同じく,タマムシ,ツチハンミョウ科の昆虫,キンイロオサムシなどが混同されてきたようである。タマムシを表すラテン語のbuprestisは,ギリシア語のbousとprethōの合成にもとづき,本来,〈牛をはれさせるもの〉という意味の語である。牛が草といっしょにツチハンミョウを食い,毒のために腹がはれて死ぬ。これを草むらにいて美しく,毒のありそうなキンイロオサムシCarabus auratusのせいと考えたのであろう。ディドロ,ダランベールの《百科全書》はオサムシにcarabusではなくbupresteをあてている。
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漢方の斑猫を製するには,まず沸騰させた湯で虫を死なせ,さらし干しにして翅と脚を除き,内服薬や塗布薬として用いる。採る時期は7~8月間で,朝露のかわかないうちに捕らえる。その際,虫に触れると毒素の刺激で皮膚や粘膜がかゆくなったり,水ぶくれができたりする。適応症は,口がゆがんだり目が閉じられなくなる病気や,悪瘡(あくそう),瘰癧(るいれき)などで,古代中国ではツツガムシ病や狂犬病の治療薬,水銀粉軽粉)の解毒剤とされていた。このように有毒で猛烈な薬性をもつ薬物によって邪毒を散らすことを〈以毒攻毒(毒を以て毒を制す)〉という。薬性がはげしいため,虚弱体質の人や妊婦は使用を禁じられていた。なお現代中国における薬名は〈斑蝥〉で,マダラゲンセイ属Mylabrisの黄斑芫青(一名,黄黒小斑蝥,ヨコジマハンミョウM.cichorii)や南方大斑猫M.phalerataが使われている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハンミョウ」の意味・わかりやすい解説

ハンミョウ
はんみょう / 斑猫
[学] Cicindela japonica

昆虫綱甲虫目ハンミョウ科に属する昆虫。本州、四国、九州、対馬(つしま)、屋久島(やくしま)に分布し、よく似たシナハンミョウは中国、朝鮮半島に、オキナワハンミョウは琉球諸島(りゅうきゅうしょとう)に分布する。体長20ミリメートルほどの甲虫で、日本産ハンミョウ類ではもっとも美しく、頭は金緑色、前胸は金赤色で、前後が金緑色に光り、上ばねは黒紫色で赤銅色の横帯と白色の横紋がある。成虫は春から秋までみられ、日当りのよい砂地や道路に多く、大きく鋭い大あごでハエなどの虫を捕食し、人が歩くと先へ先へと飛んでは止まるのでミチシルベ、ミチオシエともよばれる。幼虫は地面に縦穴を掘って隠れ、平たくて大きな頭で穴をふさぎ、通りかかるほかの虫に食いつき、穴に引き込んで食べる。幼虫の巣穴にニラの葉を差し込むと、幼虫が葉に食いついてくるのでニラムシの名もある。なお「ハンミョウには毒がある」という言い伝えは、カンタリジンを含むツチハンミョウやマメハンミョウの類をさすものと考えられる。

 ハンミョウ科Cicindelidaeは世界各地に広く分布し、およそ2500種が知られ、熱帯・亜熱帯域に多いが北地にもおり、日本でも23種前後が知られている。一般に中形の甲虫で、オサムシ科に近縁で、ときにはその亜科とされるが、鋭くて大きい大あご、突出した目、幅広い頭楯(とうじゅん)、細く長い脚(あし)などが特徴的である。多くの種類は金属色を帯び、ハンミョウ属や近縁の属では背面が鈍い青銅様の光沢を示すものが多い。体下面などに白い鱗毛(りんもう)をもつものも多い。大部分は地表性で河原、海浜、山道などによくみられ、よく飛ぶものが多いが、南方には後ろばねが退化して飛べないハネナシハンミョウのような類もあり、クビナガハンミョウのように葉上にみられ、幼虫が樹枝に穴をつくる類もある。成虫・幼虫とも肉食でほかの虫を捕食し、幼虫は穴に隠れて獲物を待つ。日本産にはニワハンミョウ、カワラハンミョウ、ヒメハンミョウ、コハンミョウなどがあり、本州中部地方以北産のマガタマハンミョウは後ろばねが退化して飛べない。

[中根猛彦]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハンミョウ」の意味・わかりやすい解説

ハンミョウ
Cicindelidae; tiger beetle

鞘翅目ハンミョウ科の昆虫の総称。小~中型の甲虫で頭部は大きく,複眼は著しく突出する。大腮は長く,湾曲し,鋭い歯をそなえる。上翅には条線を欠く。オサムシ科に近縁で,その亜科とされる場合もあるが,頭楯が幅広く,その外縁が触角の基部より外側に広がっていること,幼虫が特異な孔道生活に適した形態をもつことなどによって区別されている。大多数の種は昼間活動し,地上にすんで活発に歩行,飛翔し,他の昆虫類を捕食するが,亜熱帯,熱帯には樹上性のものや,樹上性でありながら後翅の退化したグループもある。世界に約 2500種,そのうち日本に 20種余が知られている。ハンミョウ (一名ナミハンミョウ) Cicindela japonicaは体長 20mm内外,日本産ハンミョウ中最大かつ最美麗種で,頭部と前胸背は金緑色,上翅は紺色で金紅色帯があるので他種との識別は容易である。路上にすみ,人が近づくと先へ先へと飛ぶのでミチオシエの別名がある。本州,四国,九州に分布する。なお,以前に神経痛やリウマチなどの疼痛緩和剤として薬用に供されていた「ハンミョウ」は本科の甲虫ではなく,ツチハンミョウ (科) のミドリゲンセイ Lytta vesicatoriaなどのことで,それらの体内に含まれているカンタリジンを利用したものである。

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百科事典マイペディア 「ハンミョウ」の意味・わかりやすい解説

ハンミョウ

ハンミョウ科の甲虫の1種。北海道を除く本州から沖縄まで,朝鮮,中国に分布。体長20mm内外,濃紫色地に金赤色または金緑色の帯があり,前翅に白斑がある。5月ごろから,山間の路上に多い。路上で人の歩く先へ先へと軽快に飛ぶので,ミチオシエの俗称がある。幼虫は地面に穴を掘り近よる昆虫を捕食する。有毒といわれることがあるが,これはツチハンミョウを誤認したもの。ハンミョウ科は全世界に2000余種,日本に22種いる。

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小学館の図鑑NEO[新版]昆虫 「ハンミョウ」の解説

ハンミョウ
学名:Cicindela chinensis

種名 / ハンミョウ
解説 / 体色には変異があります。成虫も幼虫も肉食性です。成虫で越冬します。
目名科名 / コウチュウ目|ハンミョウ科
体の大きさ / 18~20mm
分布 / 本州、四国、九州、沖縄島

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