翻訳|rheumatism
リューマチともいう。古くは,体のあちこちの運動器に疼痛が多発し,その痛みや炎症の症状が移動して(流れて)いくように感じられる状態をさしていった。リウマチ性疾患という言葉は,このような移動性・多発性の運動器の疼痛を伴う疾患のほとんどすべてを含む。したがって,膠原(こうげん)病,代謝性疾患,感染症などで,このような症状をもつ多くの疾患が含まれることになる。独立した疾患として慢性関節リウマチrheumatoid arthritis(RAと略す)が記載されたのは16世紀になってからである。現在,リウマチという名をもっている単独疾患は,慢性関節リウマチのほか,リウマチ熱rheumatic fever(RFと略す)とリウマチ性多発筋肉痛polymyalgia rheumatica(PRと略す)で,このうち慢性関節リウマチとリウマチ熱が俗にリウマチといわれ,とくに前者をさしていうことが多い。したがって,単にリウマチという場合には,症状名として使用しているのか,疾患名として使用しているのか,また疾患名として使用されている場合にはどの疾患をさすのか,はっきりする必要がある。以下,慢性関節リウマチについて述べる。
リウマチ性疾患の代表であり,膠原病の一種である。有病率0.3~0.5%といわれる。発症は一般に成人以後,さらに中年に多く,女性と男性の比は5~7対1といわれるが,地区,調査方法などにより差がある。原因は不明であるが,素因(体質),老化などにウイルス感染,外来の刺激(物理的,化学的)などが加わり発症すると考えられている。免疫異常を伴うことが多いので,免疫,素因との関係が研究されている。遺伝因子の存在ははっきりしていない。妊娠中に症状は軽快し,出産後の初発,再発および症状の悪化があるので,ホルモンの影響も考えられている。また精神的ストレスが発症の引金になるともいわれている。
(1)診断 いくつかの症状,検査を総合して診断する。現在数種類の異なる診断基準があるが,一般にはアメリカ・リウマチ協会による分類が使用されている。それによると,朝のこわばり,少なくとも1関節の腫張など,11項目のうち五つ以上を満たすものを慢性関節リウマチと診断する。しかし,この診断基準の条件を満たす病気は慢性関節リウマチだけでなく他のリウマチ性疾患も入ってしまうので,これを除外することが必要で,そのための付加条件がある。慢性関節リウマチには,若年性関節リウマチ(小児期に発症し,関節外症状が比較的に多い),および悪性リウマチ(血管炎が強く,皮膚潰瘍,角膜潰瘍,出血など,これに伴う症状があり,症状が強く,予後が悪い)などが区別される。専門的には,さらに詳しい分類がされている。
(2)症状 朝のこわばり(起床時の手足,体全体のこわばった感じ)が先行することが多く,複数部位の関節炎(疼痛や腫張を伴い,ときに関節液がたまることがある)が左右対称的に発生し,移動する。関節病変は手足の指,手,ひじ,ひざ,足,関節などに多いが,どこの関節にも発生する可能性がある(顎関節,脊椎関節などが侵されることもある)。症状は,天候,気温の変化などに影響されやすく,とくに降雨前の前線通過時に疼痛を訴えることが多い。初期には典型的症状がそろわず数年後に慢性関節リウマチと診断されることもある。しかし,急激に発症することもあり,発症状況,症状の程度,予後の状態などには個人差が大きい。病勢が進むと,骨粗鬆症(こつそしようしよう)(骨がもろくなる)のほか関節の破壊また筋肉の萎縮が生ずる。病変は,運動器(関節,周囲組織,筋肉,腱など)のほか,呼吸器(肺繊維症など),消化器(口内炎など),眼(角膜潰瘍など),皮膚(無痛性で関節部伸側に多く,自然に消失する皮下結節や出血斑など)などの種々の臓器に異常を起こす可能性がある。貧血も起こりやすい。症状がすすむと,痛みからだけでなく,器質的に運動機能の障害が起こり,患者の約10%が日常生活に非常な不便を訴えるようになるといわれている(寝たきりリウマチ)。また慢性関節リウマチは,他のリウマチ性疾患を併発することがあり(重複症候群overlapping syndromeという),さらに他臓器の病変を伴うことがある。すなわち,外分泌腺の機能不全(シェーグレン症候群),漿膜炎(ライター症候群),顆粒球減少,肝脾腫(フェルティ症候群)などを併発することがある。
(3)検査と治療 炎症反応(CRP陽性,血沈亢進,補体価変化など)が活動期にあり,活動性が抑えられると正常化してくる。リウマチ反応(リウマチまたはリウマトイド因子の検出)は,陽性になるが必ずしも絶対的なものではなく,終始陰性の慢性関節リウマチ(血清反応陰性慢性関節リウマチ)もある。
治療の基本は,日常生活での適切な環境条件の整備と,運動療法を加味したリハビリテーションをとり入れたリズムある,精神的に安定した生活を確立することである。そのほか,冷房や寒気への暴露を防ぐ,過労にならぬ,睡眠を十分にとる,バランスのよい栄養をとることなどに注意する。とくに悪い食物ははっきりしていない。薬物療法としては,消炎鎮痛剤が対症療法的に使用される。副腎皮質ホルモン剤は,使用法によっては非常に有用である。原因が不明で根治療法はないが,金製剤(注射,経口による),ペニシラミン(経口),免疫抑制および調節剤(経口,注射)などが,長期的な効果を求めて使用される。使用薬剤による副作用に注意しなければならないが,予防的な検査,服薬により防ぐことができる。慢性関節リウマチの治療は,機能障害をできるだけ防ぐために,患者だけでなく家族が一体となって日常生活のなかで適当な運動,休養などが行われる必要がある。関節破壊に対しては人工関節の手術も行われる。治療は早期に行われるほど予後がよい。全治することもあるが,再発も頻繁で長期観察が必要である。慢性疾患で苦痛があり日常生活も不自由であることが多いので,療養に迷いがでることも多いが,一貫した正しい治療が必要である。
なお,研究のために動物で実験的に慢性関節リウマチをつくる試みがあり,これを実験的慢性関節リウマチという。アジュバント関節炎,コラーゲン関節炎などがある。類似性はあるが,ヒトの慢性関節リウマチそのものの再現ではない。
執筆者:広瀬 俊一
リウマチrheumatismという言葉は,ギリシア語のrheuma(〈流れる〉の意)からきたもので,古代医学の体液病理説にもとづいた概念である。ヒッポクラテスはリウマチ熱と痛風については述べているが,リウマチという言葉は用いなかった。はじめてリウマチという用語を使ったのはガレノスで,筋肉痛や神経痛もこのなかに加えていた。中国医学では《黄帝内経(こうていだいけい)》に〈痺症〉とあるのが,リウマチにあたる病気と考えられている。しかしリウマチに関する古病理学的資料はほとんど発見されておらず,この病気は近世以降のものではないかという説もある。万葉歌人の山上憶良が〈四支動かず,百節皆疼(いた)み〉と歌った持病は慢性関節リウマチといわれるが,あるいは変形性関節症とも考えられる。西洋では16世紀のバイユーG.de Baillou(1538-1616)が痛風とリウマチを区別したが,リウマチの病理学が解明されるのは19世紀後半になってからである。
執筆者:立川 昭二
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リューマチとも表記し、ロイマチスともいう。この名称は「流れる」という意味をもつギリシア語rheumaに由来し、悪い液が脳から身体各部に流れていき、痛みをおこすと考えられたもの(古代医学の体液病理説)で、現在でも一般には、運動器(関節、骨、筋肉、腱(けん)、靭帯(じんたい)など)が痛んだり、こわばったりする病気をリウマチ性疾患とよんでいるが、これにはいろいろな疾患が含まれているので、そのうちのどの疾患であるかはっきりさせる必要がある。代表的な疾患は関節リウマチであり、膠原(こうげん)病の一つであるリウマチ熱もよく知られている。
[高橋昭三]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…岩石とは地球の表層部(地殻とマントル上部)を構成する固体物質である。近年は地球以外の惑星や月の表層部を構成する固体物質も岩石と呼んでいる。岩石は一般に鉱物(おもにケイ酸塩鉱物)の集合物で,かつ固結したものである。鉱物の代りにガラスなどの非結晶物質が含まれることもある。岩石は鉱物の集合物であるため不均質であり,また鉱物の種類やそれらの量比によって化学組成は広い範囲にわたって変化する。岩石はこの点で,均質で一定(あるいは一定の範囲)の化学組成を有する鉱物と明瞭に区別される。…
※「リウマチ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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