神経痛(読み)シンケイツウ(その他表記)Neuralgia

デジタル大辞泉 「神経痛」の意味・読み・例文・類語

しんけい‐つう【神経痛】

末梢の知覚神経の分布領域に沿って痛みを生じる病態。三叉さんさ神経痛肋間ろっかん神経痛座骨神経痛など。

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精選版 日本国語大辞典 「神経痛」の意味・読み・例文・類語

しんけい‐つう【神経痛】

  1. 〘 名詞 〙 神経の経路に沿って、しびれるような軽い痛みから、切られるような激痛までの症状が、持続的・発作的に起こる病気。大部分は神経炎性疾患による。三叉(さんさ)神経痛・坐骨神経痛肋間神経痛・舌咽(ぜついん)神経痛などがある。
    1. [初出の実例]「神経痛『ネウラルギア』羅」(出典:扶氏経験遺訓(1842)一〇)

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家庭医学館 「神経痛」の解説

しんけいつう【神経痛 Neuralgia】

◎症候性(しょうこうせい)と特発性(とくはつせい)とがある
[どんな病気か]
◎骨の変化をまず調べる
[検査と診断]
◎原因の治療が先決
[治療]

[どんな病気か]
 痛みは、痛さ、熱さ、冷たさなどの温痛覚(おんつうかく)をつかさどる末梢神経(まっしょうしんけい)が刺激されておこります。
 この痛む病気の代表格が神経痛で、古くから知られ、なじみの深い病名ですが、痛めばすべて神経痛というわけではありません。
 医学的には、つぎのような特徴がみられるときに、神経痛といいます。
①痛む部位が、1本の末梢神経の支配領域に一致している。
②鋭く、激しい痛みが突然おこり(発作性(ほっさせい))、持続時間が、ふつう、数秒~数分と短く、いったんはおさまっても、再発をくり返す(反復性)。
③痛みのおさまっているときに、痛みの生じる末梢神経の部位を指で押すと痛みがおこる(圧痛点(あっつうてん)の存在)。
④痛みのおさまっているときに、痛みの生じる皮膚や粘膜(ねんまく)を指で刺激すると痛みが誘発される(引(ひ)き金帯(がねたい))。
⑤特定の姿勢をとったり、せき、くしゃみなどをしたりすると痛みが誘発される。
 そのほか、発症が中年以降の人に多いことも神経痛の特徴です。
●神経痛の分類
 神経痛は、原因のわかる症候性神経痛(続発性神経痛)と原因のわからない特発性神経痛(原発性神経痛、真性神経痛)とに分類されています。
 このように分類しているのは、原因がわかれば根本的な治療が可能になるのに対し、原因がわからなければ、痛みという症状に対する治療が主になるなど、どちらに属するかによって治療の内容がちがってくるからです。
■症候性神経痛(しょうこうせいしんけいつう)(続発性神経痛(ぞくはつせいしんけいつう))
 診察や検査で、末梢神経を刺激して痛みをおこしている病変、たとえば、骨の変形、神経およびその周囲の炎症(帯状疱疹(たいじょうほうしん)など)、腫瘍(しゅよう)、変性、外傷(がいしょう)などが見つかる神経痛です。
 本人は自覚していないことが多いのですが、綿密な検査を行なってみると、運動障害、筋肉の萎縮(いしゅく)(やせ細り)のほか、発疹(ほっしん)、しびれ、突っ張り、こわばりといった知覚障害、および反射の障害が証明されることが少なくありません。
■特発性神経痛(とくはつせいしんけいつう)(原発性神経痛(げんぱつせいしんけいつう)、真性神経痛(しんせいしんけいつう))
 綿密に診察や検査を行なっても、痛みをおこす病変が見つからない神経痛です。
 この場合、一般に痛みをおこしている末梢神経の名称を冠した病名が用いられます。
 この病名は、原因となっている病気が見つかるまでのとりあえずの病名として用い、原因となる病気がはっきりすれば、その病名に切り替えられることもあります。
 以下におもな神経痛について解説しますが、痛む部位や症状はちがっても、行なわれる検査や治療はほぼ同じなので、検査と治療は、最後にまとめて述べることにします(「検査と診断」参照)。
三叉神経痛(さんさしんけいつう)
舌咽神経痛(ぜついんしんけいつう)
後頭神経痛(こうとうしんけいつう)
膝状神経節痛(しつじょうしんけいせつつう)
翼口蓋神経節痛(よくこうがいしんけいせつつう)
迷走神経痛(めいそうしんけいつう)
非定型的顔面痛(ひていけいてきがんめんつう)
上腕神経痛(じょうわんしんけいつう)
肋間神経痛(ろっかんしんけいつう)
大腿神経痛(だいたいしんけいつう)
閉鎖神経痛(へいさしんけいつう)
坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)

三叉神経痛(さんさしんけいつう)
 顔面の片側が激しく痛む神経痛です。
 顔面が痛むことから、この神経痛は、俗に顔面神経痛(がんめんしんけいつう)とも呼ばれているようですが、顔面神経は、顔の筋肉を動かす運動神経であって、この神経が刺激されても痛みを感じるということはありません。
 したがって顔面神経痛は誤りで、三叉神経痛が正しい病名です。
 三叉神経は、顔面の左右ともに、上から第1枝(眼神経(がんしんけい))、第2枝(上顎神経(じょうがくしんけい))、第3枝(下顎神経(かがくしんけい))の3本に分かれていますが(図「三叉神経の分布」)、痛みのおこるのは、第2枝と第3枝の支配領域のことが多いようです。
 隣接する神経の支配領域まで痛みが響き、脊髄(せきずい)の神経の支配領域である後頭部や肩まで痛みを感じることがあります。
●症状
 刺しえぐるようだ、焼けるようだ、切られるようだなどと表現される鋭い痛みが、顔面の片側に突然おこります。あくび、くしゃみ、会話、物をかむ、水による洗面、冷風などが刺激となって、突然、痛み出すことが多いものです。
●原因
 原因のわからない特発性神経痛の代表にあげられていますが、よく調べてみると、脳幹(のうかん)に腫瘍や動脈瘤(どうみゃくりゅう)が発見されたり、多発性硬化症(たはつせいこうかしょう)(「多発性硬化症」)の症状であったり、帯状疱疹(たいじょうほうしん)(「帯状疱疹」)の後遺症(こういしょう)であったりします。
●手術
 脳幹部に小動脈の圧迫がある場合は、後頭部を切開し、手術用顕微鏡を使って、圧迫している血管をずらして神経を減圧します(神経血管減圧術(しんけいけっかんげんあつじゅつ))が、まれに再発することがあります。三叉神経節に針を刺して、高周波電流を流す方法もあります。

舌咽神経痛(ぜついんしんけいつう)
 刺すような痛みが、舌の奥、咽頭(いんとう)(のど)を中心におこる神経痛で、痛みが耳にまで響きます。
 物をかむ、飲み込む、話をするといったことをきっかけとして痛み出すことがよくあります。中年の男性に比較的多くみられるものです。

後頭神経痛(こうとうしんけいつう)
 第2頸髄(けいずい)から出る後根神経(こうこんしんけい)が刺激されておこる神経痛で、片側の後頭部、頭頂部、側頭部にかけて痛みがおこります。ちょうど、その人の手のひらでおおえるぐらいの範囲が痛みます。
 くびの運動、くしゃみ、せきなどで痛みが誘発されます。
 痛みがおさまっているときでも、後頭の中央にある隆起部の1~2cm外側を指で押すと痛む圧痛点があるのが特徴です。
 高齢者に比較的多く、変形性頸椎症(へんけいせいけいついしょう)(頸部変形性脊椎症(けいぶへんけいせいせきついしょう))などの頸椎(けいつい)の変形(「変形性頸椎症(頸部変形性脊椎症)」)やむち打ち症が原因のことが多いものです。

膝状神経節痛(しつじょうしんけいせつつう)
 顔面神経の知覚枝である中間神経を受ける神経節(神経細胞が集合して太くなっている部分)の障害による神経痛で、頻度はまれです。
 帯状疱疹(たいじょうほうしん)(「帯状疱疹」)が原因になることが多いものです。
 耳の孔(あな)を中心に痛みますが、耳の奥から顔面の深部も痛み、同じ側の顔面まひがおこります。
 この膝状神経節痛に顔面まひ、耳鳴(みみな)り、難聴(なんちょう)をともなったものを、ラムゼー・ハント症候群(「耳性帯状疱疹(耳ヘルペス)/ラムゼー・ハント症候群(ハント症候群)」)といいます。

翼口蓋神経節痛(よくこうがいしんけいせつつう)
 三叉神経(さんさしんけい)の第2枝を受ける翼口蓋神経節が刺激されておこる神経痛です。顔面下部の痛みとともに、鼻を中心に耳へ痛みが響くのが特徴です。
 鼻汁(びじゅう)、涙、唾液(だえき)の分泌(ぶんぴつ)をともなうことがあって、非定型的顔面痛(ひていけいてきがんめんつう)(「非定型的顔面痛」)に属する神経痛と考えられています。まれな神経痛で、更年期の女性に多くみられます。
 さらに、鼻腔(びくう)の炎症が翼突管神経(よくとつかんしんけい)を刺激し、歯、耳に痛みが響くことがあります。これをビデアン神経痛といいますが、やはり、まれです。

迷走神経痛(めいそうしんけいつう)
 迷走神経の知覚枝の分布する外耳道(がいじどう)、鼓膜(こまく)、舌根(ぜっこん)、のどが痛む神経痛です。

非定型的顔面痛(ひていけいてきがんめんつう)
 痛みが顔面におこり、三叉神経痛(さんさしんけいつう)に似ていますが、まったくちがう神経痛です。神経痛の特徴(「どんな病気か」)を示しません。
 痛みが顔の両側におこり、涙や鼻汁(びじゅう)の分泌(ぶんぴつ)、鼻づまり、顔面紅潮などの自律神経(じりつしんけい)の症状をともないます。
 若い女性に比較的多くみられる神経痛で、感情、気分、気候の変化により、痛みが強くなったり、弱くなったりします。

上腕神経痛(じょうわんしんけいつう)
 片側のくび、肩、腕、手と広い範囲に痛みがおこる比較的多い神経痛です。
 くびから手のほうへ伸びるいろいろな末梢神経(まっしょうしんけい)が合流している上腕神経叢(じょうわんしんけいそう)という部分の病変が痛みの原因のことが多く、このため、広い範囲が痛み、ほかの神経痛とちがい、痛みが長く続いたり、鈍い痛みになったりすることも少なくありません。
 鎖骨(さこつ)の上のくぼみを押すと痛みが強くなり、腕を伸ばしたまま後ろ上方に上げ、上腕神経叢を伸ばすようにすると痛みが誘発されてきます。
●原因
 変形性頸椎症(へんけいせいけいついしょう)(頸部変形性脊椎症(けいぶへんけいせいせきついしょう))などの頸椎(けいつい)の変形(「変形性頸椎症(頸部変形性脊椎症)」)、胸郭出口症候群(きょうかくでぐちしょうこうぐん)(「胸郭出口症候群」)などによるくびの部分の神経や血管の圧迫が原因になることが多く、キーパンチャーなどの肩、腕、手を酷使する人によくおこります。
 くびから手のほうに伸びている末梢神経のうち、尺骨神経(しゃっこつしんけい)は肘(ひじ)の後ろ、正中神経(せいちゅうしんけい)は手くびのところで、それぞれ骨や関節周囲の靱帯(じんたい)の間を通るため、これらの組織に変化がおこると、末梢神経が圧迫されたりはさまれたりして神経障害がおこります。これを捕捉性(ほそくせい)ニューロパチー(「末梢神経障害(ニューロパチー)」)といい、このときにも、しびれや痛みがおこります。

肋間神経痛(ろっかんしんけいつう)
 肋間神経は、背中(胸髄(きょうずい))から出て、胸腹部に分布する末梢神経(まっしょうしんけい)(胸髄神経(きょうずいしんけい))で、右側と左側のそれぞれに12本、計24本(12対)あります。上部(くびに近いほう)の7対は、肋骨に沿い、胸骨(きょうこつ)(胸の中央に縦に長く触れる骨)に向かって伸びています。下部(腹部のほう)5対は、前下方に向かって伸び、腹部に分布します。この肋間神経に沿って痛むのが肋間神経痛で、頻度の高い神経痛です。
●症状
 脊椎(せきつい)(背骨(せぼね))から片側の1本の肋骨に沿って、激しい痛みが突然おこります。
 肋骨に沿った部位や腹直筋(ふくちょくきん)(腹部の筋肉)の上に、指で押すと痛みのおこる圧痛点が存在することが少なくありません。
 深呼吸、せき、大声などで痛みが誘発されるほか、痛みのない側へからだを曲げ、肋間神経を伸ばすようにしても痛みが誘発されます。
●原因
 変形性脊椎症(へんけいせいせきついしょう)(「変形性腰椎症(腰部変形性脊椎症)」)などの脊椎の病気や帯状疱疹(たいじょうほうしん)(「帯状疱疹」)が原因になることが多いものです。
 胸膜炎(きょうまくえん)、肺炎、肺がんなどの胸部の内臓の病気が関係していることがあるので、いつまでも続くときは、内科を受診して、原因をはっきりさせることがたいせつです。

大腿神経痛(だいたいしんけいつう)
 大腿(太もも)の前面が痛む神経痛で、ふつう、大腿ヘルニアのために大腿神経が圧迫されておこります。
 中年の女性に比較的多くみられます。

閉鎖神経痛(へいさしんけいつう)
 大腿(だいたい)(太もも)の内側中央が痛む神経痛で、閉鎖管(へいさかん)ヘルニア(閉鎖孔(へいさこう))が原因でおこります。
 患者さんは、高齢の女性が多いように思われます。

坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)
 坐骨神経は、最大最長の末梢神経(まっしょうしんけい)で、下部は腓骨神経(ひこつしんけい)と脛骨神経(けいこつしんけい)に分かれ、大腿(だいたい)(太もも)後面から足部にかけての広い範囲の知覚をつかさどっています。
 このため、この神経が刺激されると、片側の臀部(でんぶ)、大腿の後面、ふくらはぎが痛み、かかとやくるぶしのほうまで痛みが響くことがあります。
●症状
 安静にしているときでも、多少、痛みが続いていることが多いものです。せき、くしゃみなどで痛みが下方にまで響き、からだを曲げたりすると痛みが強くなります。
 痛みのほかに、下肢(かし)(脚(あし))のしびれ、知覚の鈍麻(どんま)(にぶさ)、腱反射(けんはんしゃ)の異常、歩行障害などがみられることが少なくありません。
 あおむけに寝て、まっすぐ伸ばした下肢を垂直になるまで上げていくと大腿の後面に激しい痛みがおこり、十分に下肢を立てることができません(ラセーグ徴候(ちょうこう))。
 また、痛みを軽減するため、痛まないほうの下肢に体重をかけ、からだを横に曲げた姿勢になることも多いものです(坐骨神経痛性側弯(ざこつしんけいつうせいそくわん))。
●原因
 症候性神経痛の代表で、たいていは、椎間板(ついかんばん)ヘルニア、脊椎(せきつい)(背骨(せぼね))の腫瘍(しゅよう)(がんなど)、腰部変形性脊椎症(ようぶへんけいせいせきついしょう)などのために、坐骨神経が刺激・圧迫・浸潤(しんじゅん)されておこります。帯状疱疹(たいじょうほうしん)、糖尿病、アルコール依存症などが原因のこともあります。

[検査と診断]
 神経痛は、変形などの骨の変化、とくに脊椎(せきつい)(背骨(せぼね))が変形し、脊髄(せきずい)から派生してくる末梢神経(まっしょうしんけい)の根もとが圧迫されたり、刺激されたりしておこることが多いので、脊椎のX線撮影が行なわれます。
 骨の変化をより詳細に調べるために、人体の部位をある厚さをもった層として撮影できる断層撮影(だんそうさつえい)、人体を輪切りの状態にして撮影できるCTやMRI、造影剤(ぞうえいざい)を注入して、はっきり映し出す造影法などの画像診断が行なわれることもあります。
 腫瘍(しゅよう)や炎症が原因と考えられるときは、アイソトープ(放射性物質)を注入し、病変部を映し出すシンチグラムが行なわれることもあります。
 筋電図や末梢神経伝導速度の測定などを行なって、末梢神経のはたらきを調べることもあります。
 糖尿病などの全身性の病気のあるときは、血液や尿の検査なども必要になります。

[治療]
 神経痛らしいときは、内科か神経内科を受診します。骨に原因があるときは、整形外科の担当になります。
 原因を探し、それを治療するのが先決ですが、つぎのような神経痛の治療も行なわれるのがふつうです。
●安静保護療法(あんせいほごりょうほう)
 痛みがおこったら、むりはせずに休養をとります。
 もっとも痛みが和らぐ姿勢を保ち、安静を心がけます。
 痛む部位を冷やさないようにし、コーヒー、アルコール、たばこ、香辛料などの刺激の強い飲食物の摂取を避け、ビタミン類の豊富な食品をとるように心がけます。
 便秘になると、いきんで痛みが強くなりますから、便通を整え、便秘にならないようにすることもたいせつです。
 痛まなくなったら、軽い運動をするようにします。
●薬物療法
 解熱鎮痛薬(げねつちんつうやく)、非ステロイド抗炎症薬、筋弛緩薬(きんしかんやく)、抗けいれん薬、ビタミン剤、血管拡張薬(けっかんかくちょうやく)などの使用が痛みを和らげます。
 使用法は、内服や坐薬(ざやく)のほか、注射のこともあります。
●理学療法
 おもに整形外科で行なわれる治療法で、痛みの原因が存在する部位の負担を除く牽引療法(けんいんりょうほう)、痛む部位を固定して安静を保つコルセットや頸椎(けいつい)カラーの装着のほか、痛む部位を温めるためのいろいろな方法(入浴や赤外線照射など)が行なわれます。
●鍼灸療法(しんきゅうりょうほう)
 鍼(はり)や灸でいわゆるつぼを刺激し、痛みを抑える治療法で、人によっては、かなり効果があります。
●神経ブロック
 痛みのおこる末梢神経に麻酔薬を注入し、痛みを止める治療法です。
 ペイン・クリニック(コラム「ペイン・クリニック」)を実施している麻酔科で受けられます。
●手術
 椎間板(ついかんばん)ヘルニア、脊椎(せきつい)や脊髄(せきずい)の腫瘍(しゅよう)などは、手術がいちばんの治療ですが、手術が必要かどうか、慎重に検討されます。
 医師から手術を勧められたときは、説明をよく聞いて決断しましょう。

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改訂新版 世界大百科事典 「神経痛」の意味・わかりやすい解説

神経痛 (しんけいつう)
neuralgia

神経に生ずる激しい痛みの総称で,一つの症候群であると理解されている。その特徴は次のとおりである。すなわち,(1)痛みは当該神経の支配領域に生じ,その神経走行に沿った圧痛がある,(2)痛みは発作性,反復性であり,激烈であるが持続時間は短い,(3)痛み発作を誘発する引金部位trigger zoneのみられることがある,(4)間欠期には症状は消失している,(5)他覚的に異常所見が認められないことが多い,(6)病理学的異常所見を伴わない,などである。

 これらの診断基準をすべて満足する原因不明の特発性神経痛が狭義の神経痛で,三叉(さんさ)神経痛,舌咽神経痛などが知られている。これに対して,外傷,圧迫,炎症,感染,中毒,代謝障害など明らかな原因によって生ずる場合は,症候性神経痛と呼ばれ,日常,神経痛といわれる場合は,この症候性のことが多い。たとえば,いわゆる坐骨神経痛は,腰椎椎間板ヘルニアなどによる神経根圧迫によることが多い。このようにはっきりとした器質的障害が原因の場合には,神経痛ではなく神経炎あるいはニューロパチーと呼ばれるのが普通である。この場合,前述の診断基準をすべて満足することはまれで,痛み以外に感覚異常,筋力低下,筋萎縮,栄養障害などの他覚的所見や病理学的変化が認められる。以下,一般的に神経痛と呼ばれているいくつかのものについて説明するが,そのうち〈三叉神経痛〉と〈座骨神経痛〉についてはそれぞれの項を参照されたい。

舌咽神経は第9脳神経で,延髄から出て舌,咽頭の運動,咽頭上部の知覚,舌の後部1/3の味覚を支配している。舌咽神経痛は,咽頭扁桃,咽頭後部,舌根部などに生ずる激しい発作性疼痛である。本症は比較的まれで,三叉神経痛の約1/20の頻度といわれており,中年の男性に多い。発作の誘因は,嚥下,会話,扁桃や咽頭後壁への接触などである。痛み発作はふつう数秒から数十秒持続するが,ときに数分間に及ぶこともある。頻度も1日数回から数週間に1回とさまざまである。診断は,前述の引金部位を刺激してみて発作を誘発したうえで,当該部位に局所麻酔剤を噴霧して改善を確かめることによってなされる。症候性の場合,咽頭麻痺,咽頭反射消失,軟口蓋麻痺などの他覚的神経症状を伴うことが多く,咽喉や頭蓋内の腫瘍,脳動脈瘤,歯科的疾患などによって生ずる。治療は,カルバマゼピンやフェイトニンなどの抗痙攣(けいれん)剤が有効であるが,星状神経節ブロックや後扁桃部の神経切断術が行われることもある。

顔面神経の知覚枝である中間神経の神経痛で,外耳道を中心に発作性または持続性の痛みが生ずる。別名膝神経痛geniculate neuralgiaとも呼ばれるが,非常にまれである。本態性のもののほか,歯科的あるいは耳鼻科的疾患による症候性のものがあり,とくに耳および膝神経節の帯状疱疹はラムゼー=ハント症候群Ramsay-Hunt syndromeとして知られている。治療は三叉神経痛に準ずる。

本症は非常にまれであるが,発作性の激痛が甲状軟骨や喉頭に起こり,下顎や耳に放散する。ときに咳,あくび,嚥下などで誘発される。治療は上喉頭神経のアルコールブロックが有効とされている。

本症は若年者に多く,顔面に焼けるような持続痛を訴えるが,三叉神経痛と異なり引金部位は存在しない。血管性頭痛と考えられ,発作時に流涙,潮紅,鼻閉などの自律神経症状を伴うことがある。治療は偏(片)頭痛と同様エルゴタミンを用いたり,神経節ブロックを行う。これに属するものとして,一側性,発作性に眼窩(がんか)や鼻根部を中心に耳の後方まで広がる痛みを訴える翼口蓋神経節痛sphenopalatine neuralgia,顔面,鼻,目,耳などの一側性疼痛発作をきたすビディアン神経痛vidian neuralgiaが知られている。

おもに第2頸髄神経から分枝し後頭部を広範に支配している大後頭神経領域の,一側性で電撃様あるいは刺されたような鋭い疼痛発作である。外後頭隆起の下外側に圧痛点があり,後頭部に触れたり,くしを使うことが誘因となることもある。多くは症候性で,頭蓋・頸椎疾患,延髄や脊髄の腫瘍あるいは脊髄空洞症などが原因となりうる。治療として消炎鎮痛剤の内服,局所麻酔剤による神経ブロックが行われる。

帯状疱疹の後遺症として,三叉神経第1枝や肋間神経に生ずる。痛みは持続性で,刺すように鋭く,鎮痛剤やカルバマゼピンなどの抗痙攣剤の内服または神経ブロックが行われるが,難治性で,ときには1年以上も続くことがある。

肋間神経は胸神経の前枝で,肋骨に沿って走る12対の神経であり,肋間筋の運動および胸部の感覚を支配している。本症では,この神経に沿って痛みが存在し,呼吸など胸部運動によって増悪する。本態性のもののほか,種々の脊椎疾患,脊髄疾患,帯状疱疹,肋膜炎などによるものが知られている。治療は,原因治療のほか,対症的に鎮痛剤やビタミン剤が用いられる。
肋間神経痛
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六訂版 家庭医学大全科 「神経痛」の解説

神経痛
しんけいつう
Neuralgia
(脳・神経・筋の病気)

どんな病気か

 特定の末梢神経の支配領域に、発作性、反復性に痛みがみられる場合、神経痛と呼びます。痛みは、針で刺されたような鋭い痛みで、不規則な間隔で繰り返し起こりますが、長時間持続することはありません。

原因は何か

 原因が不明な特発性の神経痛と、原因として炎症、腫瘍(しゅよう)、外傷などがある明らかな症候性の神経痛とがあり、帯状疱疹(たいじょうほうしん)後の神経痛などはそのひとつです。

 神経痛には三叉(さんさ)神経痛、舌咽(ぜついん)神経痛、後頭(こうとう)神経痛、肋間(ろっかん)神経痛、坐骨(ざこつ)神経痛などがあります。ここではこれらの神経痛を中心に述べます。

症状の現れ方

①三叉神経痛

 三叉神経は顔面、口内粘膜、歯の感覚を支配している神経で、左右3本の枝からなっています(図29)。このどちらかの枝の支配領域に、数秒から1分くらいの発作性の鋭い痛みが認められます。この痛みの発作は繰り返し認められますが、発作と発作の間(間欠期)には無症状です。一般に、三叉神経の第2枝、第3枝に高頻度でみられ、歯磨きの際に誘発されやすいなど、痛みの発作を誘発する特定の誘発領域が認められます。

 三叉神経の腫瘍、多発性硬化症(たはつせいこうかしょう)帯状疱疹などに伴ってみられる症候性のものと、特発性の神経痛とがあります。しかし、最近、特発性の三叉神経痛の原因として、動脈硬化などで蛇行した血管が三叉神経を圧迫して症状を起こしていることがわかってきました。そのため、厳密には特発性とはいえなくなっています。

②舌咽神経痛

 舌咽神経の支配領域である舌根(ぜっこん)口蓋扁桃(こうがいへんとう)、咽頭側壁などの神経痛です。嚥下(えんげ)、会話、(せき)などで誘発されることが多くみられます。三叉神経痛に比べてまれです。

③後頭神経痛

 第2、3(けい)神経(C2、C3)領域の神経痛で、後頭部の大後頭神経や小後頭神経の支配領域に神経痛が認められます。

④肋間神経痛

 特定の肋間神経にみられる神経痛で、帯状疱疹後にみられることがあります。

⑤坐骨神経痛

 坐骨神経の支配領域に沿った痛みで、大腿背面から下腿、足背部などに痛みがみられます。椎間板(ついかんばん)ヘルニア、腰椎症(ようついしょう)による第4腰神経~第3仙神経の神経根の圧迫により生じることもあります。腰痛と関連して頻繁にみられます。

検査と診断

 神経痛全般にいえることですが、問題になっている末梢神経に圧迫や炎症などがみられるかどうかを診断するため、CTやMRIなど画像診断が必要です。また、神経の電気的診断のため、筋電図検査も必要になってきます。

治療の方法

 神経痛の治療には薬物療法、神経ブロック、外科療法がありますが、薬物療法が基本になります。三叉神経痛ではまず、抗てんかん薬のカルバマゼピン(テグレトール)が用いられます。この薬は量が多いとふらついたりしますし、頻度は高くないのですが白血球が減ったりすることがあるので、専門医の指示に従ってください。

 薬物療法があまり有効でない場合には神経ブロック療法や外科療法を考慮せざるをえませんが、専門医とよく相談してから行ってください。

 三叉神経痛の場合、最近、外科療法が注目されています。三叉神経を直接圧迫している血管を見つけだし、三叉神経と圧迫血管の間に筋肉片あるいは綿などを入れて、神経に対する圧迫を除く方法です。ジャネッタによって開発された方法で、根治療法として大変高く評価されています。

病気に気づいたらどうする

 まず、神経痛の原因になっている炎症や腫瘍、血管による圧迫の有無などをよく調べることが必要です。そのためには、まず専門医に相談して適切な診断をしてもらい、その原因に対して適切な治療を行ってもらうことが大切です。

荒木 信夫


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

食の医学館 「神経痛」の解説

しんけいつう【神経痛】

《どんな病気か?》


〈末梢神経が刺激され、鋭い痛みが体を走る〉
 痛みは、なんらかの原因で末梢神経(まっしょうしんけい)が刺激されることによって起こります。神経痛(しんけいつう)とは、1本の末梢神経の支配している領域に一致して、突然、鋭くはげしい痛みが走る症状をいいます。
 特定の姿勢をとったり、せきやくしゃみをすると痛みが誘発されることや、発症が中年以降の人に多いことが特徴です。
 神経痛には、痛みを生じる末梢神経の部位によってさまざまな種類があります。
 なかでも坐骨(ざこつ)神経痛、肋間(ろっかん)神経痛、三叉(さんさ)神経痛(顔面神経痛)の3つが代表で、すべての神経痛の7割程度を占めるといわれます。
 原因としては、骨の変形、神経およびその周囲の炎症、腫瘍(しゅよう)、変性、外傷などがありますが、診察や検査をしても原因となる病気がわからないこともあります。

《関連する食品》


〈末梢神経の機能を正常化するビタミンB1、B12も有効〉
○栄養成分としての働きから
 神経痛の痛みに効くといわれる成分の1つに、コンドロイチン硫酸(りゅうさん)があります。コンドロイチン硫酸はムコ多糖類(たとうるい)(動物組織内に存在する多糖類の総称)の一種で、骨の関節軟骨(かんせつなんこつ)部分にも多く含まれています。
 これが加齢とともに減少すると、骨と骨が直接ぶつかるようになり、関節のふちが突出してトゲのようになります。
 神経痛は、このトゲが末梢神経を刺激することによって起こるのです。
 コンドロイチン硫酸を食品で補給すれば、末梢神経に加わる刺激がやわらぐと同時に、痛みを起こす物質を吸着除去して神経痛の改善に役立つと考えられています。コンドロイチン硫酸はサメの軟骨、スッポン、牛テールなどに多く含まれており、納豆やオクラなど、ネバネバした食品にも少量含まれています。
 また、ビタミンB1やB12にも末梢神経の機能を正常に保つ働きがあり、神経痛に有効です。ビタミンB1は豚肉、サケ、ウナギ、キノコなどに、B12はアサリ、カキ、シジミなどの貝やレバーに多く含まれています。
○漢方的な働きから
 ヨモギの葉100gを木綿袋に入れて、ぬるめの風呂をわかし、ゆっくりつかるヨモギ風呂が効果的です。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「神経痛」の意味・わかりやすい解説

神経痛
しんけいつう

末梢(まっしょう)神経が感染や外傷、腫瘍(しゅよう)その他によって刺激され、繰り返し激痛を伴う発作をおこす症候ないしは疾患名。病気としては三叉(さんさ)神経痛、肋間(ろっかん)神経痛、坐骨(ざこつ)神経痛などがよく知られている。

 三叉神経痛は、ヘルペスなどのウイルス感染によってもおこるが、大部分は原因不明、特発性のもので、顔面の三叉神経に沿って激痛発作がみられる。発作はわずかの刺激、音声などによって誘発され、発語や嚥下(えんげ)も障害される。治療としてはカルバマセピンがきわめて有効であるが、アルコール注射などによる神経ブロックも試みられている。

 肋間神経痛は、発作性の胸痛を繰り返すもので、帯状疱疹(ほうしん)のあとや感染などによっておこる。

 坐骨神経痛は、もっともよくみられる神経痛で、外傷や腰椎(ようつい)の椎間板ヘルニアなどによって機械的に神経を圧迫するためにおこることが多く、安静とともに腰椎の牽引(けんいん)療法、コルセット着用などの保存療法が試みられるが、必要により手術で椎弓(ついきゅう)切除なども行われる。そのほか、悪性腫瘍の転移や糖尿病による神経炎によっても神経痛がおこることもある。

 このほか、舌咽(ぜついん)神経痛や他の部にも同様な原因により種々の神経痛がおこる。

[里吉営二郎]

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百科事典マイペディア 「神経痛」の意味・わかりやすい解説

神経痛【しんけいつう】

末梢神経由来の疼痛。神経の走行とその支配領域に痛みがあり,発作性で,種類は三叉(さんさ)神経痛座骨神経痛肋間神経痛,上腕神経痛など。それぞれ特有の圧痛点がある。原因となる病変がある続発性神経痛と,原因の不明な特発性神経痛に分類される。特発性神経痛は,三叉神経痛と舌咽神経痛などごく一部で,大部分は末梢神経を刺激する骨の変形,神経周囲の炎症,腫瘍(しゅよう),変性,外傷などによる。誘因は,心身の過労,睡眠不足,寒冷,天候の激変など。原因療法のほか,保温,心身の安静に努め,酒,タバコ,刺激性食品などをさける。温熱湿布,ジアテルミー,温泉療法,超短波療法,赤外線照射,マッサージ,はり(きゅう)などを行ったり,症状に応じて鎮痛解熱薬,抗炎症薬,筋弛緩(しかん)薬,抗痙攣(けいれん)薬,血管拡張薬などを内服する。痛みの激しい時は神経ブロックも行われる。
→関連項目神経炎

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「神経痛」の意味・わかりやすい解説

神経痛
しんけいつう
neuralgia

特定の末梢神経において,神経走路に沿って突発的に起る激しい痛み。症状は神経炎と似ているが,器質的な原因がなく,痛みが発作的なのが特徴。代表的なものに坐骨神経痛,三叉神経痛,上腕神経痛などがある。外傷,感染症,糖尿病,中毒,ビタミンBの欠乏,貧血などが原因。以前は独立疾患のように扱われてきたこともあったが,今日ではほとんどが症候性のものとして扱われている。治療法としては,原因疾患の治療のほかに,保温,心身の安静,刺激性食品を避けること,温湿布,温泉療法,マッサージ,灸などがある。

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