神経に生ずる激しい痛みの総称で,一つの症候群であると理解されている。その特徴は次のとおりである。すなわち,(1)痛みは当該神経の支配領域に生じ,その神経走行に沿った圧痛がある,(2)痛みは発作性,反復性であり,激烈であるが持続時間は短い,(3)痛み発作を誘発する引金部位trigger zoneのみられることがある,(4)間欠期には症状は消失している,(5)他覚的に異常所見が認められないことが多い,(6)病理学的異常所見を伴わない,などである。
これらの診断基準をすべて満足する原因不明の特発性神経痛が狭義の神経痛で,三叉(さんさ)神経痛,舌咽神経痛などが知られている。これに対して,外傷,圧迫,炎症,感染,中毒,代謝障害など明らかな原因によって生ずる場合は,症候性神経痛と呼ばれ,日常,神経痛といわれる場合は,この症候性のことが多い。たとえば,いわゆる坐骨神経痛は,腰椎椎間板ヘルニアなどによる神経根圧迫によることが多い。このようにはっきりとした器質的障害が原因の場合には,神経痛ではなく神経炎あるいはニューロパチーと呼ばれるのが普通である。この場合,前述の診断基準をすべて満足することはまれで,痛み以外に感覚異常,筋力低下,筋萎縮,栄養障害などの他覚的所見や病理学的変化が認められる。以下,一般的に神経痛と呼ばれているいくつかのものについて説明するが,そのうち〈三叉神経痛〉と〈座骨神経痛〉についてはそれぞれの項を参照されたい。
舌咽神経は第9脳神経で,延髄から出て舌,咽頭の運動,咽頭上部の知覚,舌の後部1/3の味覚を支配している。舌咽神経痛は,咽頭扁桃,咽頭後部,舌根部などに生ずる激しい発作性疼痛である。本症は比較的まれで,三叉神経痛の約1/20の頻度といわれており,中年の男性に多い。発作の誘因は,嚥下,会話,扁桃や咽頭後壁への接触などである。痛み発作はふつう数秒から数十秒持続するが,ときに数分間に及ぶこともある。頻度も1日数回から数週間に1回とさまざまである。診断は,前述の引金部位を刺激してみて発作を誘発したうえで,当該部位に局所麻酔剤を噴霧して改善を確かめることによってなされる。症候性の場合,咽頭麻痺,咽頭反射消失,軟口蓋麻痺などの他覚的神経症状を伴うことが多く,咽喉や頭蓋内の腫瘍,脳動脈瘤,歯科的疾患などによって生ずる。治療は,カルバマゼピンやフェイトニンなどの抗痙攣(けいれん)剤が有効であるが,星状神経節ブロックや後扁桃部の神経切断術が行われることもある。
顔面神経の知覚枝である中間神経の神経痛で,外耳道を中心に発作性または持続性の痛みが生ずる。別名膝神経痛geniculate neuralgiaとも呼ばれるが,非常にまれである。本態性のもののほか,歯科的あるいは耳鼻科的疾患による症候性のものがあり,とくに耳および膝神経節の帯状疱疹はラムゼー=ハント症候群Ramsay-Hunt syndromeとして知られている。治療は三叉神経痛に準ずる。
本症は非常にまれであるが,発作性の激痛が甲状軟骨や喉頭に起こり,下顎や耳に放散する。ときに咳,あくび,嚥下などで誘発される。治療は上喉頭神経のアルコールブロックが有効とされている。
本症は若年者に多く,顔面に焼けるような持続痛を訴えるが,三叉神経痛と異なり引金部位は存在しない。血管性頭痛と考えられ,発作時に流涙,潮紅,鼻閉などの自律神経症状を伴うことがある。治療は偏(片)頭痛と同様エルゴタミンを用いたり,神経節ブロックを行う。これに属するものとして,一側性,発作性に眼窩(がんか)や鼻根部を中心に耳の後方まで広がる痛みを訴える翼口蓋神経節痛sphenopalatine neuralgia,顔面,鼻,目,耳などの一側性疼痛発作をきたすビディアン神経痛vidian neuralgiaが知られている。
おもに第2頸髄神経から分枝し後頭部を広範に支配している大後頭神経領域の,一側性で電撃様あるいは刺されたような鋭い疼痛発作である。外後頭隆起の下外側に圧痛点があり,後頭部に触れたり,くしを使うことが誘因となることもある。多くは症候性で,頭蓋・頸椎疾患,延髄や脊髄の腫瘍あるいは脊髄空洞症などが原因となりうる。治療として消炎鎮痛剤の内服,局所麻酔剤による神経ブロックが行われる。
帯状疱疹の後遺症として,三叉神経第1枝や肋間神経に生ずる。痛みは持続性で,刺すように鋭く,鎮痛剤やカルバマゼピンなどの抗痙攣剤の内服または神経ブロックが行われるが,難治性で,ときには1年以上も続くことがある。
肋間神経は胸神経の前枝で,肋骨に沿って走る12対の神経であり,肋間筋の運動および胸部の感覚を支配している。本症では,この神経に沿って痛みが存在し,呼吸など胸部運動によって増悪する。本態性のもののほか,種々の脊椎疾患,脊髄疾患,帯状疱疹,肋膜炎などによるものが知られている。治療は,原因治療のほか,対症的に鎮痛剤やビタミン剤が用いられる。
→肋間神経痛
執筆者:水沢 英洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
特定の末梢神経の支配領域に、発作性、反復性に痛みがみられる場合、神経痛と呼びます。痛みは、針で刺されたような鋭い痛みで、不規則な間隔で繰り返し起こりますが、長時間持続することはありません。
原因が不明な特発性の神経痛と、原因として炎症、
神経痛には
①三叉神経痛
三叉神経は顔面、口内粘膜、歯の感覚を支配している神経で、左右3本の枝からなっています(図29)。このどちらかの枝の支配領域に、数秒から1分くらいの発作性の鋭い痛みが認められます。この痛みの発作は繰り返し認められますが、発作と発作の間(間欠期)には無症状です。一般に、三叉神経の第2枝、第3枝に高頻度でみられ、歯磨きの際に誘発されやすいなど、痛みの発作を誘発する特定の誘発領域が認められます。
三叉神経の腫瘍、
②舌咽神経痛
舌咽神経の支配領域である
③後頭神経痛
第2、3
④肋間神経痛
特定の肋間神経にみられる神経痛で、帯状疱疹後にみられることがあります。
⑤坐骨神経痛
坐骨神経の支配領域に沿った痛みで、大腿背面から下腿、足背部などに痛みがみられます。
神経痛全般にいえることですが、問題になっている末梢神経に圧迫や炎症などがみられるかどうかを診断するため、CTやMRIなど画像診断が必要です。また、神経の電気的診断のため、筋電図検査も必要になってきます。
神経痛の治療には薬物療法、神経ブロック、外科療法がありますが、薬物療法が基本になります。三叉神経痛ではまず、抗てんかん薬のカルバマゼピン(テグレトール)が用いられます。この薬は量が多いとふらついたりしますし、頻度は高くないのですが白血球が減ったりすることがあるので、専門医の指示に従ってください。
薬物療法があまり有効でない場合には神経ブロック療法や外科療法を考慮せざるをえませんが、専門医とよく相談してから行ってください。
三叉神経痛の場合、最近、外科療法が注目されています。三叉神経を直接圧迫している血管を見つけだし、三叉神経と圧迫血管の間に筋肉片あるいは綿などを入れて、神経に対する圧迫を除く方法です。ジャネッタによって開発された方法で、根治療法として大変高く評価されています。
まず、神経痛の原因になっている炎症や腫瘍、血管による圧迫の有無などをよく調べることが必要です。そのためには、まず専門医に相談して適切な診断をしてもらい、その原因に対して適切な治療を行ってもらうことが大切です。
荒木 信夫
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
末梢(まっしょう)神経が感染や外傷、腫瘍(しゅよう)その他によって刺激され、繰り返し激痛を伴う発作をおこす症候ないしは疾患名。病気としては三叉(さんさ)神経痛、肋間(ろっかん)神経痛、坐骨(ざこつ)神経痛などがよく知られている。
三叉神経痛は、ヘルペスなどのウイルス感染によってもおこるが、大部分は原因不明、特発性のもので、顔面の三叉神経に沿って激痛発作がみられる。発作はわずかの刺激、音声などによって誘発され、発語や嚥下(えんげ)も障害される。治療としてはカルバマセピンがきわめて有効であるが、アルコール注射などによる神経ブロックも試みられている。
肋間神経痛は、発作性の胸痛を繰り返すもので、帯状疱疹(ほうしん)のあとや感染などによっておこる。
坐骨神経痛は、もっともよくみられる神経痛で、外傷や腰椎(ようつい)の椎間板ヘルニアなどによって機械的に神経を圧迫するためにおこることが多く、安静とともに腰椎の牽引(けんいん)療法、コルセット着用などの保存療法が試みられるが、必要により手術で椎弓(ついきゅう)切除なども行われる。そのほか、悪性腫瘍の転移や糖尿病による神経炎によっても神経痛がおこることもある。
このほか、舌咽(ぜついん)神経痛や他の部にも同様な原因により種々の神経痛がおこる。
[里吉営二郎]
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