改訂新版 世界大百科事典 「タマムシ」の意味・わかりやすい解説
タマムシ (玉虫)
甲虫目タマムシ科の昆虫の総称,またはそのうちの1種を指す。タマムシChrysochroa fulgidissimaは日本産の種の中ではもっとも大きく,体長は4cmに達する。別名ヤマトタマムシ。緑色の体は,背面に銅紫色の幅広い縦紋があり,美しい金属性の光沢がある。英名もtwo-striped green buprestid。本州(北部を除く),四国,九州のほか,朝鮮半島や台湾にも分布する。成虫は7~8月ころに多く出現し,日中は活発に飛ぶ。サクラ,モモ,エノキ,ケヤキ,カシ,カキなどの衰弱木や枯木の樹皮に産卵管を挿入して卵を産みつける。孵化(ふか)した幼虫は材の中へ穿孔(せんこう)し,2~3年後の初夏のころ材の中で蛹化(ようか)する。約2~3週間後に成虫となり,やがて穴をあけて脱出する。このような生態から樹木の害虫とみなされているが,健全な樹木に穿孔することはない。タマムシはその美しさで昔から親しまれてきた。また堅い翅は工芸にも適し,法隆寺の〈玉虫厨子〉は有名である。
タマムシ科Buprestidaeは世界から約6000種,日本からはウバタマムシ,ヒシモンナガタマムシ,クズノチビタマムシなど,約200種が記録されている。チビタマムシ類の多くは体長2~4mmであるが,ジャワ島には体長70mmをこえるオオルリタマムシが生息する。このように熱帯地方には大型で色彩の美しいものが少なくない。この科の英名も成虫が輝き(金属性光沢)をもつこと,幼虫時に木に穿孔することからsplendour beetle,またはmetallic wood-boring beetleと名づけられている。しかし,チビタマムシ類のように生きた草や葉の組織内に穿孔(潜葉性)するグループも見られる。いずれも幼虫期間が約1ヵ月くらいで短い。枯木に穿孔するグループよりも進化したグループと考えられている。タマムシの幼虫は前胸節が著しく幅広く,腹部が細長く,胸脚を欠く。十分に成長したものは80mm内外。枯木に穿孔する種は類似した形態をもつ。ナガタマムシ類は主として樹皮下の組織を穿孔し,1対の尾突起をもつ。
執筆者:林 長閑
玉虫による工芸
金緑色に2本の紫紅色の筋がとおる羽や腹面のキチン質が,古代の工芸品に利用されている。5世紀後半の韓国・新羅時代の金冠塚ではタマムシを飾った馬具や衣服が発見されている。馬具類では地金板とその上に重ねる金銅の透し金具との間に羽を密接して並べる。衣服らしい綾羅では,4枚の羽を十字形に並べて金箔で縁取りし,中心に金の円板を針金で取り付けている。この種の装飾法は,高句麗の墳墓から出土した透し彫の冠にも見られる。中国での実例はまだ発見されていないが,吉丁虫,甲虫が装身具に用いられたことが記録されており,源流が中国にある可能性が強い。日本の法隆寺に伝来する玉虫厨子には4500匹分の羽が用いられたものと推測されているが,透し金具の下に敷く装飾法である。一方,正倉院の刀子鞘や矢柄には羽を帯状にはりつけて装飾する方法がとられている。
執筆者:町田 章
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報