改訂新版 世界大百科事典 「バッキュリデス」の意味・わかりやすい解説
バッキュリデス
Bakchylidēs
生没年:前520ころ-前450ころ
古代ギリシアの抒情詩人。ケオス島の生れ。ほぼ同年齢のピンダロス,叔父で彼に音楽教育をしたシモニデスとともに抒情詩期のギリシア文学史の頂点を形成した。1896年エジプトで発見されたパピルスによって,彼の詩行も,かなりまとまった形で知られるようになった。発見されたのは,15編の競技祝勝歌と,6編のディテュランボス(合唱隊によって歌われた抒情詩の一形式)である。彼の生涯については,確かなことは何ひとつ知られていないが,つねにピンダロスと比較され,そしてつねに劣った者として評価されてきた。確かに,詩人の優劣を判定する根拠を,建築的・彫刻的な言語の構成美に求めるならば,彼の歌はピンダロスのものにはるかに及ばない。バッキュリデスの使用する言語は,たしかに平易で,韻律も比較的単純であるが,彼の詩の特徴は,その平明で流暢なところにこそあったのである。ディテュランボスでは,18歌と番号をうたれ《テセウス》と呼びならわされたものが,アイゲウスの部分を担当する合唱隊長と,合唱団との間の対話という特異な形で創作されており,アッティカ悲劇との関連,ないしはディテュランボスとアッティカ悲劇という二つの文芸ジャンルとの関係を解明する上で注目を受けている。代表的なテキストとしては,B.スネルの手によるトイブナー版がある。
執筆者:安西 真
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報