翻訳|text
ラテン語のテクストゥスtextus(〈織物〉の意)に由来し,テクストとも表記する。テキストはもともと文書の〈本文〉を指し,注釈,索引,挿画等と区別したり,歌曲や歌劇でメロディに対する言葉の部分の名称として慣用されていた。また古典文献学では,古代ないし中世の作品が写本によってしか伝承されていないために,学問的な選別整理を経て,真正な原形あるいは標準的な形態を再構成する作業がされてきた。印刷本および著者原稿を扱える近代文献学も同様の方法をとっている。これは本文批評(テキスト・クリティックtext critic)と呼ばれ,本文(テキスト)と異本(バリアントvariant)の別が立てられるが,ときにはそれらを総称してテキストと呼ぶことがある。だが1960年代からは,テキストを現象学,記号論,言語学などの関心から考察する動向が生じ,それにつれてテキスト概念も拡大細分化の傾向がある。もっとも広義なのは,言語行為論的な規定で,口頭による表出や身ぶりのような非言語媒体も対象にするため,テキスト概念はかえってあいまいになる。記号論的定義は,テキストに,自然言語から成る特定の記号によって確定され,テキスト外の諸構造と対立関係をなし(明示性),始めと終りのある有限な記号集合で,しかも記号相互に階層構造があり(境界性),さらに統辞論的なレベルのほかに内部的に芸術的組立ての構造を形成している(構造性),という性質を見る。テキスト論(テクストロギーTextologie)による定義は,まず作者が自己の創造過程の結果として作品に対して最終的に与えた言語形態であること,第2にそれが文字化されていることを条件とする。この学問分野の目標はテキスト構成の歴史研究であるが,その連関は多方面にわたる。特に〈文字性〉に留意すると,解釈学的関心でもある,テキストとその特定な成立状況との分離独立,原作者の特定な意図に拘束されない多様な解釈の可能性の視界が開けてくる。これはまた,小説のような虚構テキストの場合,構成要素は成立時の外界の事象に限られず,時間的空間的に別個の連関からの選択が可能であり,同時に過去の文学的慣習や制度の事項をとり入れていることを考え合わせると,テキスト論と文学における作用・受容理論をつなぐ重要な接点といえる。
執筆者:轡田 収
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… 18世紀のロマン主義文芸運動以降は,しだいに新しい創作論や近代的な文芸批評が起こり,直接的にアリストテレスに拠る詩学は衰えたものの,言うまでもなく,今日の文学・芸術を考える上で,アリストテレスの《詩学》自体に含まれていたさまざまな論は,その価値を失っていない。【福井 芳男】
[フォルマリズムに始まる詩学の発展]
〈詩学〉という言葉は,一般には詩の韻律・言語の分析や研究をいうが,構造主義の登場以後はとくにロシア・フォルマリズムに始まる詩,そして一般に文学テキストの構造的研究とその理論をさす。ロシア・フォルマリズム(1910年代後半に発足)は,世界の明視(ビジョン)の創造を芸術の目的とし,その方法は異化(V.シクロフスキーによる。…
…そしてその変貌の過程において登場してくるのが,文学理論と呼ばれるものなのである。
[テキスト論と読者論]
その文学理論を支える特徴的な発想の中心にあるのが,テキストについての新しい考え方である。端的に言えば,これまでの文芸批評がその対象としての作者と作品を失ったあとに,文学理論の基礎として発見されたのが〈テキスト〉であるということになるだろう。…
…一般に翻訳とは,ある自然言語の語・句・文・テキストの意味・内容をできるだけ損なうことなく他の自然言語のそれらに移し換えることをいうが,とくに文学作品の,ある自然言語から別の自然言語への移し換えをいう場合もある。また,翻訳という言葉は翻訳の行為・活動・過程を指すこともあれば,翻訳の産物・作品を指すこともある。…
※「テキスト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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