日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
バージニア・ウルフなんかこわくない
ばーじにあうるふなんかこわくない
Who's Afraid of Virginia Woolf?
アメリカの劇作家E・オールビーの三幕戯曲。1962年初演。小さな大学町の教師と総長の娘という中年夫婦の子供のない家庭。父の跡を継ぐ出世を期待して結婚した夫のふがいなさに挫折(ざせつ)感を抱く妻と、妻の価値観に背を向けた夫は、孤独をなすり傷つけあっている。劇は、自宅に新任教師夫妻を迎えた真夜中のできごと。前途有望な若い2人に刺激された主人夫婦は、自分たちのサド的、マゾ的心理合戦に客も巻き込む。劇が進むにつれて、社会的地位も教養も見栄(みえ)も捨てた二組のインテリ夫婦が、偽善的愛、性生活ほか家族の絆(きずな)の秘密を粗野なことばで明るみにさらしていく。最後の場面でしらじらとした空虚な夜明けが、不毛な家庭の状況を苦々しく照らし出すこの作品は、いわば現代生活の寓話(ぐうわ)である。
作劇上はリアリズムを踏襲しているが、主題を容赦なく追究する描写の衝撃力によって、1960年代アメリカ演劇のもっとも先鋭的な代表作となった。1966年には、ブロードウェーの舞台を演出したマイク・ニコルズ監督により映画化されている。
[楠原偕子]
『『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』(鳴海四郎訳『エドワード・オールビー全集1』所収・1969・早川書房)』