日本大百科全書(ニッポニカ) 「バールフト」の意味・わかりやすい解説
バールフト
ばーるふと
Bhārhut
1873年、インド考古調査局初代総裁A・カニンガムによって発見された古代仏教遺跡。インド中部、マディヤ・プラデシュ州サトナー市の南約15キロメートルにあった。発見当時すでに破壊の進んでいたトーラナ(塔門)、欄楯(らんじゅん)などのストゥーパ(仏塔)の付属施設がコルカタ(カルカッタ)のインド博物館に移築保存されている。これらの表裏を飾る浮彫りは、シュンガ朝時代(前2~前1世紀)に制作された初期仏教美術の重要な遺品である。蓮華(れんげ)文や幾何学文などの装飾文様のほか、ヤクシャ、ヤクシー、本生(ほんじょう)図、仏伝図などで飾る。仏教説話図では、その主題銘を画面の枠外に刻する例が多く、題銘なしにはその内容を把握しにくい、きわめて早い時期に成立した作例であることがわかる。また、一画面中に、物語の進行にしたがって時間的に異なる数場面を集約的に表現する「異時同図」法が多用されている。全体に生硬で平板なモデリングで、古拙の感は免れえないが、素朴ながらも対象を生き生きととらえ、独特の味わいがある。なお、仏伝図では、主人公である釈尊の姿を具体的に表すことが意識的に避けられ、樹木、空座、足跡、宝輪などの象徴物でその存在を暗示する「仏陀(ぶっだ)なき仏伝図」の形式をとっている。
[秋山光文]