改訂新版 世界大百科事典 「仏伝図」の意味・わかりやすい解説
仏伝図 (ぶつでんず)
釈迦の伝記に基づいてその生涯のさまざまな出来事を描いた絵画や浮彫。中国では本行経変(ほんぎようきようへん)ともいう。釈迦の前生の物語の絵画化である本生図,仏弟子や敬虔な信者の過去および現在の物語に取材する譬喩(ひゆ)物語(アバダーナavadāna)図,大乗仏教経典の内容を図示した変相図(大乗経変)とともに,仏教説話図を構成する。インドでストゥーパを荘厳(しようごん)するために欄楯(らんじゆん)や門に本生図とともに表現したことにはじまり,バールフットやサーンチー第1塔のそれが最初期の代表作である。これらはまだ釈迦の姿を表現しない時代に属し,聖樹,台座,法輪,足跡その他で釈迦の存在を示唆するにとどまっている。はじめて釈迦を表現したガンダーラでは多数の仏伝図が作られ,図像の基本形の大半がここでできあがった。南インドのアマラーバティーとナーガールジュナコンダでは,釈迦の姿を表現するものとしないものとが共存している。以上はすべて浮彫によるもので,インドの浮彫図はこれ以後,誕生,成道(じようどう),初転法輪,涅槃(ねはん)の四大事や酔象調伏(すいぞうちようぶく),千仏化現(けげん),従天降下,獼猴(みこう)奉蜜の準四大事のような特定の事跡に集中する傾向があり,四大事をまとめて図示した四相図やそれに準四大事を加えた八相図も作られた。また壁画の例としてはアジャンターのそれが重要である。
中央アジアでは,アフガニスタンのバーミヤーン石窟には壁画涅槃図が6例あるにすぎないが,新疆ウイグル自治区のキジル石窟には多種類の壁画仏伝図が遺る。中国では敦煌の壁画と幡絵が注目され,ここでは信者に対して絵解きがおこなわれた。また仏像の台座や光背,さらに雲岡その他の石窟に浮彫の例がある。東南アジアではジャワのボロブドゥールに120面もの仏伝図浮彫があり,ミャンマーのパガンの諸寺の壁画やテラコッタ製浮彫板も忘れてはならない。日本には奈良時代の《絵因果経》があり,涅槃図は金剛峯寺蔵のもの(1086)を最古として多数の遺例がある。また涅槃の周辺にその前後の事跡を描いたものを涅槃変相,涅槃や成道を中心に仏伝の諸場面を小さく添えたものをそれぞれ八相涅槃図,八相成道図と呼ぶ。
→釈迦
執筆者:肥塚 隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報