日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒトヨタケ」の意味・わかりやすい解説
ヒトヨタケ
ひとよたけ / 一夜茸
[学] Coprinus atramentarius (Fr.) Fr.
担子菌類、マツタケ目ヒトヨタケ科の食用キノコであるが、酒とともに食べると毒性を現す。キノコは高さ6~12センチメートル。傘は長卵形からのちに鐘形になる。表面は白ないし灰白褐色で、ほとんど平滑であるが、放射状に並ぶ条線がある。傘の下側には薄いナイフ状のひだが密に並ぶ。ひだは初め白いが、傘の縁に近いほうから胞子が熟して黒くなる。これにつれて、傘もひだも下のほうから黒い汁となって溶け、ついには棒状の茎だけを残すようになる。胞子は7~10マイクロメートル×5~6マイクロメートルで、ほぼ楕円(だえん)形。夏から秋、広葉樹の切り株または埋もれ木の上に叢生(そうせい)する。ヒトヨタケに似たキノコにササクレヒトヨタケC. comatus (Fr.) S. F. Grayがある。このキノコは傘の表面に著しいささくれを帯び、春から秋にかけて草原などに群生する、きわめて美味な食菌である。両菌とも、日本全土をはじめ、世界中に分布する。ヒトヨタケの名は、胞子の成熟とともにひだと傘が溶け、寿命が短いことによっている。この属(ヒトヨタケ属)のキノコには、堆肥(たいひ)やイネ科の枯れ草に生えるものが多く、そのほとんどは小形で繊維質のため、食用にはならない。なお、酒といっしょに食べると中毒するヒトヨタケ型の毒性は、ホテイシメジにもみられる。
[今関六也]