堆肥(読み)タイヒ(英語表記)compost

翻訳|compost

デジタル大辞泉 「堆肥」の意味・読み・例文・類語

たい‐ひ【堆肥】

わら・落葉などを積み重ね、腐らせて作った肥料。つみごえ。
[類語]こえ肥料肥やし基肥もとごえ追い肥追肥寒肥かんごえ寒肥やし

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精選版 日本国語大辞典 「堆肥」の意味・読み・例文・類語

たい‐ひ【堆肥】

  1. 〘 名詞 〙 肥料の一種。わら、雑草、落葉、海藻などを積み重ね、水や硫安などの窒素を適度に補給しながら切り返し、腐らせたもの。窒素・燐酸・カリウムの他、珪酸・マグネシウム・石灰その他の微量要素を作物に吸収されやすい形で含むため施肥の効果が大きく、しかも長続きして地力を増大させる。また、腐植質はもともと豊富だが、土壌微生物による有機物の分解がよく行なわれるので一層増加し、土壌を膨軟にし、排水・通気をよくするなど、作物の生育にとって好ましい土壌条件をつくる。つみごえ。
    1. [初出の実例]「四日月の光を暗しさ庭べに立てば堆肥(タイヒ)のにほひ寄せくも」(出典林泉集(1916)〈中村憲吉〉四日月の光)

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改訂新版 世界大百科事典 「堆肥」の意味・わかりやすい解説

堆肥 (たいひ)
compost

古くから利用されている自給肥料の一つで,稲わら,麦わら,落葉などの植物残渣(ざんさ)を堆積し,発酵腐熟させてつくる。

 植物残渣をそのまま農地にすきこまないでわざわざ腐熟させるのは次の理由による。(1)このような植物残渣は炭素分が多く,窒素分が少ないために,土のなかで分解するとき土中に存在する窒素分を消費して,作物が窒素を吸収利用できず,窒素欠乏障害を生ずる。(2)新鮮な植物残渣は分解しやすい有機物を多く含むので,土のなかで急激な分解を起こし,有害な有機物を一時的に多く生じたり,土の酸素を消費して,作物の根を傷める。

 植物残渣を堆積腐熟するとこのような問題は解消するとともに,堆積腐熟過程で発生する発酵熱により60℃以上に温度が高まり,有害な病原菌,害虫の卵,雑草の種子を死滅させることもできる。

堆肥には堆積方式により水積み堆肥と速成堆肥があるが,広く用いられるのは速成堆肥である。水積み堆肥は普通堆肥ともいい,石灰分や窒素分を加えず水分を調節し堆積腐熟させたものである。速成堆肥はわら類や落葉に石灰分と窒素分を加えてよく混合し,適当な水分のもとに1.5~2.0mほどの高さに堆積して腐熟させたもので,わら類400kgに消石灰20kgほどと水600lほどを加えて2週間程度仮積みしたあと,堆肥舎内の畳2畳分ほどの広さの枠内にうつし,窒素1.5kg(硫安または尿素)を添加混合して1.5~2.0mの高さに本積みし,1ヵ月に1回ほど上下を切り返して2ヵ月ほど置くとできる。水分は60%ほどに保つが,これはしっかり握ったとき滴りが生ずるほどの量である。また切返しのたびに窒素を硫安か尿素の形で500gほど補給する。堆積の高さは発酵熱が逃げないで,堆積物内の温度を60℃ほどに高くするのに必要な高さであり,これ以上高く堆積すると空気の流入が極端に悪化し,内部が腐敗する。腐熟が順調に進むと2ヵ月ほどで色調も黒っぽくなり,わらも膨軟で容易にくずれやすいものとなり,いやみのない発酵臭がするようになる。雨にあたるところに放置すると肥料分が逃げてしまうので舎内で堆積するか,むしろなどで被覆する。

堆肥の肥料成分は材料や腐熟度によって変わるが,おおむね窒素が0.3~0.5%,リン酸(P2O5)が0.15~0.20%,カリ(K2O)0.5~0.7%である。農地へは作物の植付け前に元肥として10aあたり1000kg前後施用する。堆肥の窒素分は少ないうえに,作物による利用率が通常の化学肥料の利用率の1/3~1/2と低いし,低温では堆肥の分解が遅く肥効のあらわれが遅れるので速効性の無機質窒素肥料の併用が必要である。また未熟な堆肥は土壌中で急激に分解し作物に窒素欠乏などの障害を及ぼす。堆肥はリン酸成分も少ないが,火山灰土壌のようにリン酸吸着力の強い土壌では堆肥の有機成分がリン酸の土壌への吸着を防ぐので肥効を高める。無機質のリン酸肥料を併用すると肥効はさらに高められる。そのほか,堆肥には微量要素成分やケイ酸の肥効もあり,カリウムも無機質のカリ肥料と同様の肥効を示す。

 堆肥は肥料成分だけでなく,有機物とくに腐植酸物質を含有するので,土壌の腐植含量を高め,土を膨軟にして耕作を容易にし作物根の生育をよくする。また塩基保持能を高めて土を肥沃にしたり,土に緩衝能を与えて酸性化の防止や重金属などの有害物の害作用を抑制する働きをもつ。さらに,土壌微生物の働きを活発にし,土壌中での物質変化を促進し,作物根の生育環境をよいものにする。

 なお家畜の糞尿(ふんによう)と家畜舎の敷わらなどを混合し堆積腐熟したものは厩肥(きゆうひ)と呼び,植物体のみを材料とする堆肥と一応区別するが,両者を合わせて堆厩肥という場合も多い。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「堆肥」の意味・わかりやすい解説

堆肥
たいひ

かつては藁(わら)、落ち葉、塵芥(じんかい)、野草などを堆積し自然に発酵させて生産したものを堆肥、積み肥(ごえ)といい、家畜の糞尿(ふんにょう)と敷き料(藁、おがくずなど)を堆積腐熟させたものを厩肥(きゅうひ)とよび、両者は明確に区別されていたが、実際には両者は類似しており、またその生産の過程から両者をはっきりと区別することがむずかしい場合が多く、原料の違いによらず有機資材を堆積し、よく腐熟させたものを堆肥とよぶことが多い。本来の堆肥には、普通堆肥(水積堆肥)と、これに腐熟を速めるために硫安や石灰窒素などの窒素源を加えてつくられる速成堆肥がある。堆肥に含まれる肥料成分は一定していないが、窒素0.30~0.65%、リン酸0.04~0.28%、カリ(カリウム)0.38~1.38%、その他ケイ酸、石灰、苦土および多種類の微量要素を含んでいる。播種(はしゅ)や移植前に元肥として施用される。施用量は10アールにつき30キログラム程度が標準である。堆肥の効果は施用年の効果よりも累積効果が大きいので、毎年施用する必要がある。また、堆肥は肥料としてだけではなく、土壌を軟らかくし植物の根の張りをよくしたり、土壌中の微生物の活動を促して植物に好影響を与えるなど、土壌改良剤としての効果がとくに大きい。なお、2011年(平成23)の東日本大震災の際に発生した福島第一原子力発電所の事故により、17都県で堆肥の施用、生産、流通が自粛され、その後、堆肥1キログラム当りの放射性セシウムの暫定許容値(400ベクレル)が新たに設けられた。

[小山雄生]

『松崎敏英著『土と堆肥と有機物』(1992・家の光協会)』『河田弘著『バーク(樹皮)堆肥――製造・利用の理論と実際』(2000・博友社)』『藤原俊六郎著『堆肥のつくり方・使い方――原理から実際まで』(2003・農山漁村文化協会)』『日本土壌協会編・刊『堆肥施用の現状と利用促進』(2003)』

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百科事典マイペディア 「堆肥」の意味・わかりやすい解説

堆肥【たいひ】

積み肥(ごえ)とも。野草,落葉,わら等を堆積発酵させた自給肥料。広い意味では厩肥(きゅうひ)も含む。堆積の際に硫安(硫酸アンモニウム)や石灰窒素を添加すると発酵を促すとともに窒素含量の高いものができる(速成堆肥)。肥料効果のほかに土壌物理性の改善,土壌反応の矯正,微生物の活動促進等の効果も大。元肥(もとごえ)として用いる。
→関連項目寒肥金肥ケイ(珪)酸肥料コンポスト肥料

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「堆肥」の意味・わかりやすい解説

堆肥
たいひ
compost

堆積腐熟あるいは積肥ともいう。わら,落葉,野草,藻類などを積んで腐らせた自給肥料。材料に窒素をわずかしか含まないので,石灰窒素,石灰,硫安などを加えて分解を早めるのが普通で,これを速成堆肥といい,化学肥料を加えないのは自然堆肥という。堆肥の肥料成分のうちリン酸とカリウムは速効性であるが,窒素成分の大部分は有機窒素で,持続的に肥効を現す。肥料としての効果のほか土壌の肥沃度を保ち,土壌の物理化学的,微生物学的な性質を改善する土壌改良剤として有効である。

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