日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒペルボレオイ」の意味・わかりやすい解説
ヒペルボレオイ
ひぺるぼれおい
Hyperboreoi
ギリシア神話に出てくる北方種族。その名の由来については諸説があるが、普通「ボレアス(北風)のかなたに住む人々」の意味に解されている。つまり、古代ギリシア人には遠い極北地方の住民と信じられていた。アポロンを深く崇拝することで有名な伝説的な民族で、アポロンを北方系の光明神とか牧畜の守護神と考える際の、一つの根拠としてしばしばあげられた。ヒペルボレオイがデロス島のアポロンに奉納する品は、まず隣国のスキテス人に託され、その後さまざまな民族に次々と渡されてアドリア海の沿岸に至り、さらに多くの島の住民の手を経てデロス島へ送り届けられたという。あるいはヒペロケとラオディケという2人のヒペルボレオイの乙女が、5人の随行者とともに使節としてデロスにきたという。2人の乙女は、デロスで死ぬと神として祀(まつ)られ、随行者の子孫はその地で栄えたともいわれていた。また、伝説的な詩人のオレンはヒペルボレオイであったといい、アポロンとアルテミスの誕生を歌って頌歌(しょうか)をつくった。さらに、デルフォイの神託にヘクサメトロス(六脚韻)を用いたのも彼であったという。ヒペルボレオイは、ヘラクレスやペルセウスの英雄物語にも関係が深かった。後代になると、彼らの国はユートピア的な理想郷として考えられていった。その国はいつも光り輝き、人々は不自由なく幸福に暮らしている。そしてアポロンをたたえる頌歌がつねに響き渡り、平和と正義を愛し、アポロンに奉仕を怠ることのない人々が住んでいるという。
[伊藤照夫]