日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビリー・バッド」の意味・わかりやすい解説
ビリー・バッド
びりーばっど
Billy Budd
アメリカの作家、H・メルビルの遺作となった中編小説。作者死後の1924年刊。18世紀末のイギリス海軍を舞台に、純朴無垢(むく)な青年水兵ビリーが、彼の純朴さに嫉妬(しっと)する先任衛兵伍長(ごちょう)に、身に覚えのない暴動の陰謀を告発され、怒って興奮のあまり伍長を殴り殺してしまう。上官殺しの罪で処刑されるとき、「艦長に神の祝福あれ!」というビリーの叫びに、この悲劇にまつわる哀感が無限の余韻を響かせる。根源的無垢と悪、暴力と体制、人間の実存と法秩序といった永遠の主題を追究した傑作。
[杉浦銀策]
『坂下昇訳『ビリー・バッド他』(『メルヴィル全集10』所収・1982・国書刊行会)』