日本大百科全書(ニッポニカ) 「ファースト」の意味・わかりやすい解説
ファースト
ふぁーすと
Howard Fast
(1914―2003)
アメリカの小説家。ニューヨークの貧しいユダヤ系労働者の家庭に生まれ、種々の職を転々としたのち、17歳で小説を書き始める。独立戦争を扱う『自由をもとに』(1939)、追い詰められるアメリカ・インディアンの物語『最後の辺境』(1941)、トマス・ペインの生涯を描いた『市民トム・ペイン』(1943)、南北戦争後の黒人の苦闘を描く『自由の道』(1944)、ローマ奴隷の反乱を扱う『スパルタカス』(1951)など、抑圧される側にたつ歴史小説が多い。共産党員作家として、1953年スターリン平和賞を受賞するが、1957年離党、同年離党の経緯を語る『裸の神』を発表。その後は移民文学隆盛の風潮にのり、イタリア・フランス系移民一家の連作大河小説『移民』(1977)、『第二世代』(1978)、『エスタブリッシュメント』(1979)、『遺産』(1981)、『移民の娘』(1985)などを書き、ベストセラー作家として返り咲いた。現代アメリカの危機を劇画風に描いた『ディナー・パーティー――ある上院議員の長い一日』(1987)、史書『ユダヤ人』(1968)、自伝『アカ』(1990)などもある。
[寺門泰彦]
『宮下嶺夫訳『市民トム・ペイン』(1985・晶文社)』▽『宮下嶺夫訳『ディナー・パーティー』(1989・サイマル出版会)』