改訂新版 世界大百科事典 「フッ化アンモニウム」の意味・わかりやすい解説
フッ(弗)化アンモニウム (ふっかアンモニウム)
ammonium fluoride
正塩と水素塩(フッ化水素アンモニウムammonium hydrogenfluoride)がある。
フッ化アンモニウム(正塩)
化学式NH4F。氷冷したフッ化水素酸にアンモニアを通じて析出させるか,塩化アンモニウムとフッ化ナトリウムの4:9混合物または硫酸アンモニウムとフッ化カルシウムの当量混合物を加熱し,昇華物として得られる。無色六方晶系の柱状晶。比重1.009(25℃)。屈折率1.315。潮解性がある。NH4⁺とF⁻との間のN-H…F型水素結合のため,一般のハロゲン化アルカリMXと構造が異なり,ウルツ鉱型四面体配位構造をもつ。格子定数a=4.04,c=7.03Å。40℃以上,100℃以下で,アンモニアとフッ化水素アンモニウムに分解する。
2NH4F─→NH3+NH4HF2
水100gへの溶解度100g(20℃)。水溶液を熱すると大部分が
2NH4F─→NH4⁺+HF2⁻+NH3
のように分解するため,水溶液の濃縮では正塩は得られない。エチルアルコールに微溶,アセトン,液体アンモニアに不溶。医療用,金属の表面処理剤,発酵工業におけるホースや導管等の消毒用,木材の防腐用に用いられる。
フッ化水素アンモニウム
化学式NH4HF2。アンモニアとフッ化水素の加熱による反応生成物の固化,両者の混合水溶液の蒸発濃縮,または正塩NH4Fの熱分解で得られる。無色斜方晶系の潮解性結晶。ひずんだ塩化セシウム型構造。融点125℃。比重1.21。ガラスの腐食(つや消し,食刻など),発酵工業における消毒などに用いられる。なお,正塩,水素塩とも有毒。水溶液はガラスを侵すから,ポリエチレン容器に保存する。
執筆者:藤本 昌利
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報