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発酵工業 はっこうこうぎょう

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世界大百科事典 第2版の解説

はっこうこうぎょう【発酵工業】

微生物が各種の物質を生分解し,あるいは生合成する機能を,有用物質の生産などに利用する工業。広義には醸造工業も含めるが,醸造においては,原料中の各種成分が複雑な微生物作用によってそれぞれ変化し,その総合によって食品がつくりあげられるのに対し,発酵工業は特定の微生物を用い特定の化合物を生産する工業をいうことが多い。発酵とは初め酸素のない状態(嫌気)での微生物代謝をいっていたが,現在では酸素の存在下(好気)における代謝をも含めるようになり,むしろ好気的な発酵工業が主となっている。

出典|株式会社日立ソリューションズ・クリエイト
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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

発酵工業
はっこうこうぎょう

微生物の機能を利用して有用物質を生産する産業をいい、広く醸造工業も含めて考える場合が多い。古い時代の発酵工業とみられる酒類や酢の醸造、パンの製造などは、微生物に対する知識がなく、原料を放置して製品ができるのを待つ自然発酵であった。これに対して19世紀末に成立した近代的な発酵工業は、純粋培養した微生物を用いる点が古来の発酵とは大きく異なっている。これにはコッホハンセンEmil Christian Hansen(1842―1909)らによる微生物の純粋分離の成功、培養法の確立、ブフナーに始まる酵素化学研究の進展などが大いに貢献している。かくして19世紀末から20世紀初頭にかけて、乳酸、クエン酸、酢酸などを生産する発酵工業が始まり、ついでアルコール発酵も開発された。第一次世界大戦ころにはアセトンブタノールなどの有機溶媒ビタミン類などを生産する発酵工業がおこり、さらにA・フレミングによるペニシリンの発見、ワックスマンによるストレプトマイシンの発見後、抗生物質の工業生産が始まり、短期間のうちに発酵工業の大きな分野の一つに成長した。これに続いてイネ馬鹿苗(ばかなえ)病菌を用いたジベレリンの生産など、生理活性物質の発酵生産も始まった。
 一方、生産工程の改良、新製法の開発も進み、まず微生物好気培養技術が大きく進歩した。第二次世界大戦後は発酵工程の機械化・連続化、混入微生物の殺菌、通気攪拌(かくはん)、微生物の分類、生産物の回収などプロセスの合理化が図られて、発酵工業は近代工業として確固たる地位を確立した。近年、とくに開発が進んだ分野としてはグルタミン酸などのアミノ酸発酵、イノシン酸など核酸関連物質の発酵生産がある。アミノ酸や核酸関連物質は、微生物の菌体の基本物質であるタンパク質、核酸(DNA、RNA)の構成成分であり、必要な量が合成されればそれ以上は菌体内に蓄積しないように、その生合成反応が微生物本来の生理によって巧みに制御されている。したがって、野生型の微生物を用いる方法では大量生産が不可能であった。しかし、分子遺伝学や生化学の急速な進歩によってこの制御機構が解明されるとともに、人為的に改良した変異株を用いてアミノ酸や核酸関連物質を大量に蓄積させることが可能になってきた。これを代謝制御発酵とよぶことがある。[山口雅弘]

現状

以下、発酵工業の現状を生産物別に概観する。(1)アルコール発酵 現在では飲料用アルコール以外は合成法によっているが、飲料用アルコールだけは発酵法により製造されたものだけが使用を許可されている。使用微生物は耐アルコール性酵母Saccharomyces cerevisiaeで、原料には廃糖蜜(とうみつ)およびサツマイモが用いられる。(2)有機酸発酵 微生物のつくりだす有機酸は数多くあるが、現在、発酵法で製造されているのはクエン酸、グルコン酸、リンゴ酸が主である。(3)アミノ酸発酵 1956年(昭和31)に微生物によって糖とアンモニアからL‐グルタミン酸を高収率で生成させる方法が日本で開発されて以来、各種のL‐アミノ酸、すなわちリジン、スレオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、バリンなどの発酵生産が行われている。このうち、リジンは学校給食に添加されて児童の栄養向上に役だち、家畜の飼料にも加えられて飼料効果を高めている。また、各種のL‐アミノ酸を混合した製剤は、輸液あるいは内服液として医療に広く使われている。(4)核酸関連物質 かつお節のうま味成分であるイノシン酸やシイタケのうま味成分であるグアニル酸は直接発酵法、または発酵法でつくったヌクレオシドを化学的にリン酸化する方法で生産されており、また生体のエネルギー源であるアデノシン三リン酸やアデノシン二リン酸、活性型ビタミンB2といわれるFADなどが、発酵法によってつくられている。(5)酵素 食品加工、醸造用、医薬品などに多種類の酵素が生産されているが、そのうち生産量の多いのはアミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、リパーゼなどである。(6)抗生物質 ペニシリン、セファロスポリン、ストレプトマイシン、カナマイシンなどをはじめ、抗癌(こうがん)剤のマイトマイシンC、ブレオマイシン、クロモマイシンA3など、農薬分野ではイネのいもち病防除用のブラストサイジンSやカスガマイシンなど、多くの抗生物質が発酵法によって生産されている。日本はこれら抗生物質の発酵生産において、アミノ酸発酵とともに高度の技術水準を誇っている。(7)その他 発酵食品としては清酒をはじめ各種アルコール飲料、ダイズ発酵食品のみそ、しょうゆ、糸引き納豆など、乳製品のチーズ、発酵バター、乳酸菌飲料、発酵乳などのほか、食酢などもある。[山口雅弘]

展望

近年、組換えDNA技術、細胞融合、バイオリアクター(生物反応器)などバイオテクノロジーの進展に伴い、発酵工業も変革期に入っている。元来、発酵工業は化学工業に比べると、〔1〕常温常圧、微酸性ないし中性といった穏和な条件下で反応が進行し、省エネルギー・省資源的である、〔2〕酵素を触媒とする反応は、数十もの反応工程をあたかも単一の反応のように容易に進行させうる、〔3〕装置は比較的簡単な構造の発酵槽が用いられ、汎用(はんよう)が可能である、といった特色をもつが、より効率の高い発酵生産を行うために開発されたものがバイオリアクターである。これは生体触媒(酵素、細胞内小器官、微生物菌体)を高分子物質の担体に固定化し、反応器内に保持したままコンピュータ制御によって連続反応または繰り返し反応を行い、目的の生産物を効率よく生産するものである。すでに固定化酵素、固定化菌体を用いた各種L‐アミノ酸、核酸関連物質、有機酸、抗生物質などの生産が試みられ、一部は実用化している。また、固定化酵母を用い糖蜜からエタノールを製造するバイオリアクターのパイロット・プラントが日本で完成し、発酵法によるエネルギー物質の生産に展望が開けてきた。今後、バイオリアクターの応用が進むと、発酵工業の生産性は飛躍的に向上するものとみられている。さらに、組換えDNA技術や細胞融合による有用微生物の改良においても成果があがりつつある。すなわち、コリネバクテリウムCorynebacteriumにスレオニン合成遺伝子を導入し、スレオニンの生産量を従来の発酵法に比べて約4倍にまで高めた例をはじめ、細胞融合によって雑菌を殺す力の強いワイン酵母やビール酵母の育種にも成功するなど、有用微生物の改良や新種の育成は今後より急テンポで進展するものと思われ、発酵工業はいまや新しい世代に入ったといえる。[山口雅弘]

出典|小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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