フランスの大学法制(読み)フランスのだいがくほうせい

大学事典 「フランスの大学法制」の解説

フランスの大学法制
フランスのだいがくほうせい

フランスでは初等・中等・高等教育に関する過去の法令を集成した『教育法典』(フランス)(le code de l'Éducation(フランス))が2000年に創られており,その後に成立した法律はその条文を書き換えたり,あらたな条文として書き加えたりすることで『法典』を更新するものとなっている(最新版はウェブ上で閲覧可能)研究に関しては『研究法典』が存在する。

 『教育法典』において大学は,「学術的・文化的・職業専門的性格をもつ公共施設(フランス)」(Établissement public à caractère scientifique, culturel et professionnel(フランス): EPSCP(フランス))規定されている(L711-1)。2016年現在,EPSCPには141施設あるが,それらはすべて「公法における法人格をもつ国立の施設」であり,そのなかには71の大学のほか,4つの高等師範学校,20のグラン・ゼタブリスマン(フランス)(grands établissements(フランス),「由緒ある施設(フランス)」という意味),海外にある5つの学校も含まれる。グラン・ゼタブリスマンにはコレージュ・ド・フランス,自然史博物館,東洋語学校,エコール・ポリテクニックなどが含まれる。

 グラン・ゼタブリスマンに対しては,コンセイユ・デタ(国務院)の議を経たデクレ(政令,省令)によって,それぞれの施設が個別の規約をもつことが認められている(L717-1)。大学にはそのような規定は存在しないが,2013年7月の「高等教育と研究に関する法律(フランス)」によって,条件を満たせばグラン・ゼタブリスマンへの移行が可能となった(L717-1)。移行した大学はいまのところ,ロレーヌ大学とパリ-ドフィーヌ大学の2校に限られている。さらに大学とグラン・ゼタブリスマンがともに「卓越の拠点」を形成する場合もEPSCPとして認められ,現在そのようなグループが21存在する。

 フランス共和国憲法は「教育のすべての段階にわたってライシテ(非宗教性)と無償性を保障することは国家の義務である」としている(第五共和国憲法に含まれる1946年憲法の前文)。フランスにおいて大学が無償であらねばならないのは,憲法にこの規定があるためである。しかし最近では,グラン・ゼタブリスマンの一つであるパリ政治学院(フランス)(シアンスポ(フランス))などにおいて,親の収入によって学費も変動させるシステムも導入されている。『教育法典』Article L151-6では「高等教育は自由である」とされ,高等教育を担う公共施設にも多様性が存在している。

 いずれの高等教育機関も修了証あるいは免状(diplôme)を授与できるが,大学の学位(grade)および称号(titre)を授与するのは国家である(L631-1)。それゆえに少なくとも紙の上では,それを取得した大学がどこであるかを問わず,学位や称号は同一の価値を持つとされる。私立の高等教育機関も存在するが,それらは「自由学部(フランス)」を名乗ることはできても大学を名乗ることはできず,またバカロレア(フランス),リサンス(フランス),ドクトラ(フランス)といった学位を提供することもできない(L731-14)

 大学の運営(gouvernance),評議会のあり方,学長の選出とその役割も『教育法典』に定められている。運営に関しては,「学長はその決定により,運営評議会はその決議により,そして学術評議会はその決議と意見により」(L712-1),それを保障するとある。学長に関しては「運営評議会の多数決によって,国籍に関係なく,教員=研究者(大学の教員),研究者,客員あるいは招聘の教授准教授,さらにそれに相当する学外者のなかから選ばれる」とあり,その任期は4年で1回の再任が可能である(L712-2)。2007年の「大学の自由と責任に関する法律(フランス)」(LRU(フランス))によって,学長の権限は強化された。また国家は高等教育機関と複数年契約を結ぶことができ,契約の終了時には高等教育研究高等評議会(フランス)(Le Haut Conseil de l'évaluation de la recherche et de l'enseignement supérieur(フランス),『研究法典』L114-3-1)による評価を受けることになっている(L611-6)

 フランスに中世からあった大学は大革命のときにすべて廃絶されている。その後いくつかのファキュルテ(フランス)(学部)が再生されたが,ナポレオンはそれらをユニヴェルシテ・アンペリアル(フランス)という中等・高等教育を一つにした全国的な組織のなかに統合した。第三共和政は1880年にファキュルテに法人格を与えたため,ファキュルテは学部長のもとで自治を享受しうるようになる。1896年に総合大学設置法(フランス)によって各地で法人格をもつ大学が設置された後も,ファキュルテは法人格をもったままだった。そのファキュルテは68年5月の後にエドガール・フォール法(フランス)によって廃止されることになる。しかしその後も,フランスの大学は自治を持ちえなかったとされる(ナポレオン以来の国家による中央集権的な管理と,専門分野ごとに分かれた教員=研究者の全国組織がその自治を阻んでいた)。現在のフランスの大学法制は,大学の学長に強い権限を与える2007年の「大学の自由と責任に関する法律」(LRU)と,それを修正した2013年の「高等教育と研究に関する法律」によって形成されたものである。
著者: 岡山茂

参考文献: 『教育法典』(le code de l'Éducation)ウェブサイト:https://www. legifrance. gouv. fr/

参考文献: フランス高等教育研究省ウェブサイト:http://www. enseignementsup-recherche. gouv. fr/

参考文献: 大場淳「フランスにおける大学ガバナンスの改革―大学の自由と責任に関する法律(LRU)の制定とその影響」,広島大学高等教育研究センター『大学論集』第45集,2014.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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